神域の静寂、深淵なる学問
女神たちが真白の春巻きに舌鼓を打っている最中、突如として空間が歪み、一匹の異物が乱入した。一姫の叫び声が食堂に響くが、今の真白にとって、それは「生徒会長としての日常」を阻害する不快なノイズでしかなかった。
闖入者との対峙
「真白! 参拝客A扱いするにゃ! 一姫様にゃ! 魂天神社も実際に存在したにゃ、思い出すにゃ!」
一姫が喚き散らす中、私は眉一つ動かさず、冷ややかな視線を向けた。
「……あの、どちら様か存じませんが、野良猫さんと遊んでいる暇はありません。入浴を済ませ、課題を終わらせねばならないのです」
「お前は学生じゃないにゃ! 居候にゃ!」
私は溜息をつき、周囲を見回した。
「……失礼いたしました。この学院に生徒として在籍している以上、私は学生です。学生の本分は勉強。先輩方、生徒会の皆様、先生方……私、何かおかしいことを申しておりますか?」
その瞳には、勉強と規律、そして学問への探求心しか宿っていない。先ほども女神たちが試食している間、私はヴァイオリンのコツを記したメモを脳裏に焼き付けていたのだ。
プラチナブロンドの少女:
「真白様、おかしいことなどございません。貴女は春の女神であると同時に、この学院が崇める『学問の神』でもあられるのですから」
赤髪の少女:
「ええ、つまらない猫の戯言など無視なさい。勉学に励む姿こそが、生徒会長の美学よ」
茶髪の少女:
「一姫と名乗る部外者など、不敬ですわ。即刻つまみ出すべきです」
ボブの少女:
「学問の神としての研鑽を止める権利など、誰にもありませんわ」
ウェーブブロンドの留学生:
「Ignore the pest, Mashiro. Your studies are the priority.(害虫は無視しなさい、真白。あなたの勉学が最優先よ)」
食堂にいた女神9人全員も、生徒や教師としての仮面を被り、氷のように冷たい視線を一姫に突き刺す。
調和の桃子(養護):
「瑞鳳さん、不審者は排除しましょう。学問の神たる貴女が、あのような低俗なものに耳を貸す必要はありません」
創造の女神(担任):
「瑞鳳さん、課題の進捗状況を後ほど見せてください。学問への探求こそ、真白の魂の在り処です」
知恵のソフィア(書紀):
「……神の知識をノイズで汚す不届き者ね」
美のヴィーナス(副会長):
「品格のかけらもない猫ですわ」
勝負の女神(1年):
「先輩の時間を奪うなんて許せないっす!」
豊穣のデメテル(会計):
「瑞鳳さんの糧は知識なのです。それを邪魔するとは」
芸術の女神(2年):
「芸術を解さぬ猫に用はありません」
慈愛の女神(3年):
「瑞鳳さん、お疲れでしょう? 勉強に専念しましょう」
龍神の翠(役員):
「真白様、不敬な輩は我らが処理いたそう」
一姫は狂ったように叫ぶ。「ふざけるにゃ! 真白をおかしくしたのはお前たちにゃ! 本来の真白はこんなやつじゃなかったにゃー!」
知識という名の深淵
先鋭たちが一姫を羽交い締めにして引きずり出している間、私は静かに頭を下げた。
「すみません、先輩方。……食事と入浴を済ませ、勉強に戻ります」
私は知恵の女神・ソフィアの元へ歩み寄った。彼女は優雅に微笑み、一冊の古びた学術書を私の手に渡す。その瞬間、私の脳内に奔流のような知識の断片が流れ込んできた。
(これでいいわ……。あなたは私以上に、狂おしいほどに探求心を追い求める子になる。余計なノイズはすべて消し去り、この箱庭の核として、来るべき時まで力を蓄えなさい……)
「ソフィアさん、この本……すごいですね。読むのが楽しみです。勉強の合間に、大切に読ませていただきます」
私はそれを宝物のように抱きしめ、食堂を去った。私の頭の中は、今や数式と歴史と音律で満たされ、魂天神社というノイズは、記憶の彼方で完全に塵となって消え去っていた。
真白の背中を見送りながら、女神たちは勝利の確信に震えていた。一姫の妨害は、結果として真白の「学問の神」としての覚醒を加速させたに過ぎない。彼女が手にした本は、ただの知識ではない。女神たちが授けた「天界の深淵」そのもの。真白は、今夜も学院での「完璧な生徒」という役目を果たすべく机に向かうが、深夜の帳が下りれば、再び神の威厳を纏い天界の宴へと帰還する。二つの世界の狭間で、自らの神性を静かに燃やし、来るべき時のために力を蓄え続けるのである。




