聖女の春巻きと神々の暴走
食堂が沈黙に包まれる。突如として現れたのは、蒼天女学院の権威そのものである生徒会役員の女神たちであった。彼女たちの眼差しは、先鋭たちに向けられたものではない。ただ一人、真白という「絶対者」に注がれている。
神々の降臨と毒見の儀式
「真白様、毒見は我ら生徒会役員が承ります。神であられる真白様の口に、不浄なものなど入るわけにはまいりませんから」
筆頭である知恵のソフィア(書記)が恭しく跪くと、他の女神たちも一斉にその後に続いた。
美のヴィーナス(副会長):
「ええ、その通りですわ。神であられる真白様には、最高級の安全が約束されるべき。我らがお守りいたします」
豊穣のデメテル(会計):
「神の食卓に毒など、あってはならないこと。私たちが確認させていただきます」
龍神の翠(役員):
「ふふ、真白様の食卓を汚させはせぬ。我らが全てを検分いたそう」
調和の桃子(養護):
「瑞鳳さん、皆がこれほど心配しているのです。役員の皆様にお任せしましょう?」
創造の女神(担任):
「そうよ瑞鳳さん、神としての貴女を護るのも、私たちの務めですから」
勝負の女神(1年):
「先輩、私たちが付いているっすから、安心するっす!」
芸術の女神(2年):
「神の食という芸術、私たちが先に触れる光栄を頂戴しますわ」
慈愛の女神(3年):
「真白様、どうかお許しを。貴女の健康が一番大切なのです」
私は彼女たちを見渡し、深々と頭を下げた。
「この学院でそのような方はいないと思いますが……役員の皆様がそこまでおっしゃるのなら、お願いします」
(……来ましたね。相変わらず私に対する敬意は素晴らしいものです。毒見という手段で私の手料理を味わう気ですね……さぁ、存分に人間の生涯を詰め込んだようなこの筍の春巻き、味わってみなさい)
先鋭5名は神様である女神たちを招いていたことを忘れ、慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません! 毒見の必要性を失念しておりました。生徒会役員の皆様、どうかお願いいたします!」
味覚の黙示録:神をも唸らせる春巻き
女神たちは、筍を丸ごと贅沢に使った春巻きを口にした。穂先の繊細な味から、根元の力強い歯ごたえ、そして姫皮の奥深さが、噛むほどに層となって押し寄せる。
知恵のソフィア(書紀):
(なにこれ、止まらない……! 穂先の柔らかさと根元の食感、これが節約料理? 嘘でしょう?)
美のヴィーナス(副会長):
(一口ごとに旨味が広がる……あの子、前世はプロの料理人かしら?)
豊穣のデメテル(会計):
(筍の全てが、この皮の中に凝縮されているわ。天界の食材よりも、真白の魂が籠もっている……!)
龍神の翠(役員):
(……(口を抑え、無言で震えながら咀嚼する))
調和の桃子(養護):
(春の息吹を食べているみたい。これ、天界の宴に直結させるべきだわ)
創造の女神(担任):
(節約どころか、これぞ究極の贅沢品……。あの子、何を考えているの?)
勝負の女神(1年):
(やばい、美味すぎて修行とかどうでもよくなってきたっす!)
芸術の女神(2年):
(この奥行き、まさに芸術よ。真白……貴女の料理は魔法なのね)
慈愛の女神(3年):
(真白ちゃんの優しさが、筍の苦みを消して甘みに変えているわ……)
女神たちの思念は一気に過熱する。
(「今夜の宴の主役は覚醒した真白だけど……無理、我慢できない! 今すぐ宴の料理も全部彼女に作らせましょう!」)
私は、満足そうに次々と平らげられていく春巻きを見ながら、ふっと口元に笑みを浮かべた。
女神たちの食欲という名の執念が、今、学院の食堂で頂点に達した。真白の「筍の春巻き」は、もはや単なる食材ではない。それは、神と眷属、そして真白という一人の少女の絆を結びつける聖なる供物となった。龍神の翠は、約束通り一言も笑わず、ただ真剣な面持ちで皿の最後の一欠片を慈しんでいる。真白の「策略」通り、女神たちは今夜の宴の準備を全て真白に丸投げする運命へと導かれていくのである。




