聖女の春巻きと見守る者たちの午餐
仮部屋にヴァイオリンを収めた真白は、ロビーで待機していた新人メイドを伴い、1階へと向かった。彼女から溢れ出る春の日だまりのような香りは、日々の過酷な業務で疲弊したメイドたちの心を癒す唯一の聖域となっていた。
ロビーへの道行き
廊下を歩きながら、真白は傍らに寄り添う初々しいメイドに優しく声をかけた。
「あの、食堂までは近いのですから、そんなに付き添わなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ! 真白様にお仕えするのが私の務めですので!」
「……ふふ、皆さんが休憩室で個性豊かなお嬢様たちの愚痴をこぼしているのは知っていますよ。私の時くらいは休んでいて大丈夫です」
「なっ……! 愚痴など一切、真白様の耳には……! し、失礼いたしました!」
メイドは防音仕様の廊下で顔を真っ赤にして慌てるが、真白は「神様なので聞こえてしまうのです。誰にも言いませんし、大丈夫ですよ」と微笑んだ。メイドは羞恥と敬慕が混ざった眼差しで、その背中を追うことしかできなかった。
1階ロビーに着くと、先鋭5名が待ち構えていた。
プラチナブロンドの少女:
「待っていたわ、真白様。教えたコツは忘れていないでしょうね?」
赤髪の少女:
「さあ、早く食堂へ。教養あるお嬢様の嗜みとして、美味しい料理をいただきましょう」
茶髪の少女:
「真白様、先ほどのご指導、非常に熱心でしたわね。その姿勢こそが真の蒼天の生徒よ」
ボブの少女:
「ええ、ヴァイオリンの調子も良かったし、今日は少し贅沢なコースを楽しみましょう」
ウェーブブロンドの留学生:
「Let's go, Mashiro. We have much to discuss about our performance.(行きましょう真白。演奏について話し合うべきことは山積みよ)」
食堂の入り口にて
食堂の前では、専属のメイドたちがお嬢様たちを出迎えた。
「今日もお疲れ様でした、お嬢様方。真白様、先ほどはヴァイオリンの練習に励まれていたそうですね。お嬢様の嗜みとして、素晴らしい心掛けでございます」
真白は背筋を伸ばし、淀みなく答えた。
「はい。生徒会長としてだけではなく、学院の恥にならないよう、精進しなくてはなりませんので」
その様子を見ていた後方のメイドたちは、「真白様は教養も完璧だわ……」「なんて高貴な後輩なの」と羨望の眼差しを向けていた。
厨房に入った真白が、自ら巻いた筍の春巻きを揚げようとすると、先鋭たちが一斉に制止した。
プラチナブロンドの少女:
「真白様、火傷をしては大変! メイドたちに任せなさい」
赤髪の少女:
「そうよ、メイドたち、この春巻きを丁寧に揚げなさい。絶対に失敗は許しませんわ」
茶髪の少女:
「真白様の心のこもった料理なのですから、最高級の仕上げにすること」
ボブの少女:
「さあ、皆さんも席へ。揚げたてを運ばせましょう」
ウェーブブロンドの留学生:
「Yes, let the staff handle the fire. We will enjoy this delicacy together.(ええ、火の扱いはスタッフに任せましょう。この美食を一緒に楽しみましょう)」
食堂の神々が集うテーブル。彼女たちは春巻きの行く末を案じていた。
調和の桃子(養護):
「阻止したのは良いわ。でも、これじゃ真白がただの可愛いマスコットよ。もっと崇拝してくれないかしら!」
創造の女神(担任):
「覚醒時の威圧や奴隷扱いは論外だけど、今の待遇も少し物足りないわね」
知恵のソフィア(書記):
「いっそのこと、揚げた瞬間に毒が混入していないか、王族の嗜みとして毒見役を送りましょうか?」
美のヴィーナス(副会長):
「それ名案よ。真白様の料理を一番にありつける権利は、私たち女神にあるはずだわ!」
勝負の女神(1年):
「先輩たちの護衛が厳重すぎて手が出せないっす!」
豊穣のデメテル(会計):
「あの筍の春巻き……真白の愛が詰まっているのよ? 絶対に食べさせなさい!」
芸術の女神(2年):
「この攻防こそが、今の真白の日常を彩る最高の劇なのよ」
慈愛の女神(3年):
「皆、真白ちゃんを愛しすぎよ……」
龍神の翠(役員):
「春巻き一つに神様まで熱くなるとは! 面白い!」
(むむっ……なんだか女神の皆様の様子が変ですね。さては、私のたけのこの春巻きを狙っていますね……)
私は内心、揚げたての春巻きを狙う女神たちの執念を感じ取り、どんな手で奪いに来るのか待ち構えていた。お嬢様としての品格を保ちつつ、この「戦場」で自分の料理を守り抜く。それもまた、蒼天女学院の生徒会長としての「戦い」なのである。
真白の「筍の春巻き」は、もはや単なる食事の域を超え、神と眷属の絆を深めるための聖なる供物となった。彼女が厨房で一生懸命に巻いたその一つ一つには、学院の生徒としての勤勉さと、神としての慈愛が等しく込められている。先鋭たちが食卓を守護し、女神たちがその一挙手一投足に視線を注ぐ中、真白は自身が「愛される存在」であることを再確認していく。こうして、学院での午餐は、彼女が箱庭の深淵でより一層輝くための、ささやかながらも極めて重要な聖戦となったのである。




