第32話:湯気の中の独白、響く「破滅」の音
湯気の中で一日の重圧を洗い流す、真白の静かな時間。彼女がどれほど「普通の少女」であろうとしても、運命は容赦なく彼女を神社の主へと押し上げていきます。しかし、そんな高潔な静寂を切り裂いたのは、台所から響いた不吉な陶器の砕ける音でした。お気に入りの皿の最期を悟った真白は、自らの宿命と、これからの騒動に小さく溜息をつくのでした。
一方、お風呂の扉の向こうでは、あなたがシャワーを浴びながら、静かな時間を過ごしています。湯気の中で、先ほどまでの「神格化された自分」という重荷を洗い流すかのように、あなたは深く息を吐きました。あなたがどれほど「ただの人間」として振る舞おうとしても、この魂天神社という場所そのものが、あなたの存在を「守るべき神」として再定義しようとしているのです。
あなたの知らないところで、二人の従者は「神の日常」を守るための忠誠を誓い合い、一姫はその渦中で、少しずつこの神社の「理」に巻き込まれていく……。そんな不思議で、どこか温かい静かな夜が、一翻市の片隅で深まっていきました。
風呂場の湿った空気の中、あなたは浴槽の縁に頭を預け、手足を伸ばしていました。湯船の中で身体が温まり、ようやく肩の力が抜けていくのを感じます。
その時、遠くの台所から、カチャリという音がした直後、陶器が硬い床に叩きつけられる鋭い音が響きました。
「あ……」
その音は、紛れもなくあなたの耳に馴染んだ「あの」お気に入りの皿の音でした。あなたが居候を始めた当初、慣れない土地で唯一、自分のために買い揃えた大切なお皿。その音を聞き分けたあなたは、湯船の中で小さく溜息をつき、顔を半分までお湯に沈めてぶくぶくと泡を吐き出しました。
「……はぁ。やっぱり、こうなりますよね~」
あなたは湯船の中で膝を抱え、天井を見上げます。
「意地悪しないでくださいよ、もう……。せっかくの平穏な時間が、またこれでバタバタしちゃうじゃないですか」
あなたはそう独り言ちて、ゆっくりと湯船から上がりました。お気に入りの皿が割れたショックよりも、その後の琳琅たちのパニックぶりを想像して、少しだけ頭が痛くなります。
脱衣所で軽く体を拭き、あなたは手早く髪を乾かし始めました。ドライヤーの心地よい風が、火照った肌を冷ましてくれます。鏡に映る自分の姿は、いつもの巫女装束を脱ぎ、部屋着に着替えた、ただの少女です。
(割れちゃったものは仕方ないですね……。でも、あの琳琅さんのことだから、また泣き出してしまうんじゃないでしょうか)
髪を乾かしながら、あなたは少しだけ苦笑いしました。
「神様だなんて呼ばれても、お皿を割ったら普通に落ち込むし、困るし。……やっぱり私は、ただの人間なんですよ」
そう呟いて、鏡の中の自分に小さく微笑みかけます。髪がさらりと乾ききると、あなたは鏡に映る自分の姿を整え、意を決して台所の方へと向かいました。
「聖なる品」として皿を洗っていたはずの従者たちに、一体何が起きたのか。真白が大切にしていた一皿の死は、過剰な忠誠心に燃える彼らにとって、世界が崩壊するほどの「大罪」となって襲いかかります。部屋着姿の「主」が台所に現れた時、そこに広がる光景は、もはや喜劇か、それとも悲劇か。魂天神社の夜は、まだまだ静かには終わらせてくれないようです。




