春の陽だまりと崩れる規律
下ごしらえを終えた真白は、指定された仮住まいの部屋からヴァイオリンを手に取った。礼儀正しく音楽室の扉を叩く彼女の姿には、先ほどの神威の欠片も残っていない。女神たちが仕組んだ「清楚な生徒会長」という仮面は、彼女自身の無垢な愛らしさによって、完璧なまでに補強されていた。
音楽室:解ける緊張
「コンコン……失礼します」
真白は丁寧に礼をし、音楽室へと足を踏み入れた。
「お待たせしました、先輩方。……至らない点も多々あるかと思いますが、ご指導の程、よろしくお願いいたします」
小さく頭を下げた真白からは、緊張で一層濃くなった「春の日だまりのような香り」が漂っていた。
プラチナブロンドの少女:
「……威圧? 先ほど何があったのか存じませんが、目の前の可愛い後輩がそんなことをするはずがありませんわ。さあ、まずは構えてみて」
赤髪の少女:
「本当に……小さくて愛らしい後輩ね。厳しい練習にするつもりだったけれど、こんな健気な姿を見せられたら、甘やかしたくなってしまうわ」
茶髪の少女:
「あんなに小柄な体で一生懸命ヴァイオリンを抱えて……。今日は基礎から丁寧に教えてあげましょう」
薄茶色のボブの少女:
「そうね。間違えても叱るなんてできないわ。ゆっくり一緒に進めましょう?」
ウェーブブロンドの留学生:
「She is just a cute, small junior. My mistake earlier was just my fatigue. Let's start the practice, Mashiro.(彼女はただの可愛い小さな後輩よ。さっきの勘違いは私の疲れのせいね。真白、練習を始めましょう)」
真白はきょとんとした表情で先輩たちを見上げた。
「あの……威圧? 先ほど何かあったのでしょうか?」
先輩たちは苦笑し、「何でもないわ」と優しく真白の肩に手を置いた。
会議室のモニターでこの光景を監視していた女神たちは、呆れ半分、微笑ましさ半分で肩をすくめた。
調和の桃子(養護):
「でたわ! 周囲を自然と振り回す真白の天然技!」
創造の女神(担任):
「わざとなのか天然なのか……改竄せずとも、彼女の周りでは記憶が勝手に『都合よく』書き換わっていくわね」
知恵のソフィア(書記):
「厳しい指導? あの小柄な体と陽だまりの香りを前にして、それができるはずがありませんわ」
美のヴィーナス(副会長):
「あの子が背伸びして頑張る姿を見れば、誰もが庇護欲を掻き立てられる。全校演説の時と同じ現象だわ」
勝負の女神(1年):
「先輩、またしても相手を籠絡してるっす! 恐ろしいお嬢様っす!」
豊穣のデメテル(会計):
「甘やかしたくなる気持ち、よく分かりますわ。あの子を厳しく叱れる人間など、この学院にはおりませんもの」
芸術の女神(2年):
「神の力を使わずとも、存在そのものが周囲を『幸福な誤解』へと導く……芸術的だ」
慈愛の女神(3年):
「真白ちゃんは、そのままの姿で皆を幸せにしてしまうのね」
龍神の翠(役員):
「厳しい指導など無意味! 真白の愛らしさがすべてを塗り替えるのじゃ!」
真白の持つ「小柄な体格」と「春の陽だまりのような香り」は、どんな厳格な規則やプライドをも溶解させる魔法の鍵だった。先輩たちは彼女を厳しく鍛え上げるつもりでいたはずが、気づけば彼女の可憐さに当てられ、ただ慈しむだけの時間を過ごしている。真白が「神」として威圧した事実は、今日もまた、学院の平和な日常の向こう側へと葬り去られたのであった。




