微睡みの代償、正当化される聖女
覚醒の刻が終わり、再び「生徒会長・瑞鳳真白」の意識が戻る。さっきまでの冷徹な威圧感は霧散し、ただ心地よい疲労感だけが残っていた。音楽室での練習の約束、そして先輩である留学生に何をしたのか……記憶の断片は曖昧だが、今は目の前の旬の筍に集中するしかなかった。
「はっ……また、うとうとしてしまいました」
私は呆然と音楽室での約束を反芻したが、今はそれよりも夕食の準備が先決だ。調理室へ向かい、買ってきたばかりの筍の皮を丁寧に剥き始める。皮を剥くたび、春の香りがふわりと立ち上り、瑞鳳宮の主としての安らぎが心を満たしていく。
音楽室:すれ違う認識
その頃、音楽室では恐怖で顔を青ざめた留学生が、先鋭5名の仲間に先ほどの出来事を必死に訴えていた。
プラチナブロンドの少女:
「落ち着きなさい。あなたが疲れているだけよ、忘れなさい」
赤髪の少女:
「そうよ、真白様は誰に対しても礼儀正しい可愛い後輩。威圧だなんて……あの方がそんな事をするわけがないわ」
茶髪の少女:
「実力至上主義の蒼天で、そんな失礼なことは起こり得ない。彼女は私たちと同じ、高貴な誇りを持ったお嬢様よ」
薄茶色のボブの少女:
「ルールを破るような方ではないわ。今はただ、交流会への重圧で少しお疲れなのよ」
ウェーブブロンドの留学生:「...Maybe you are right. She might be just exhausted from all the expectations. I should forget about it.(……そうね、あなたたちの言う通りかも。彼女は期待の重圧で疲れているだけかもしれないわ。忘れることにするわ)」
これを聞いていた女神たちは、安堵の溜息をつき、顔を見合わせた。
調和の桃子(養護):
「あらあら、あの子たち、私たちの手を煩わせず勝手に納得してくれたわ」
創造の女神(担任):
「真白を『一人のお嬢様』として扱っているから、私たちの改竄も不要ね」
知恵のソフィア(書記):
「真白の清楚なイメージが、彼女たちの偏見を上書きしたようですわ」
美のヴィーナス(副会長):
「あの子たちの信じる『真白像』が揺るがないのなら、これほど好都合なことはないわ」
勝負の女神(1年):
「先輩の礼儀正しさが最強の防壁っす!」
豊穣のデメテル(会計):
「これでもう、あの子たちの指導も捗るはずですわ」
芸術の女神(2年):
「高貴なプライドが、神の威圧を『ただの疲労』に変換した……興味深い現象だ」
慈愛の女神(3年):
「真白ちゃんは愛されているのね……」
龍神の翠(役員):
「まさに無意識の支配じゃな!」
真白の威圧的な神威は、蒼天女学院という強固な「お嬢様社会」のフィルターを通ることで、都合よく「疲れによるもの」と解釈された。女神たちは自らの手を汚すこともなく、真白を再び「清楚な生徒会長」という檻の中へ戻すことに成功したのである。筍の皮を剥く真白の横顔には、今のところ、一抹の迷いも影も存在しない。




