白き泥濘と聖域の掟
疲労困憊で門をくぐり、女神たちを問い詰めようと意気込んだその矢先。真白の足元がわずかに滑り、響いたのは「ビチャッ」という無情な水音だった。完璧な白を誇っていたハイソックスに、暗く無粋な泥のシミが広がっていく。
泥の洗礼とメイドの規律
「あっ……うぅ、油断していました……」
私が立ち尽くしていると、背後から音もなくメイド長が現れた。彼女の視線は、私の左足の汚れに一直線に突き刺さる。
「ひゃすっ……! すみません、すぐに直しますから!」
反射的に謝る私に対し、メイド長は表情一つ変えず、淡々と言い放つ。
「真白様、汚れは一刻を争います。即刻、履き替えを。予備は常に準備してございますので、こちらへ」
「あ……あの、もう数時間もすれば入浴の時間ですので、このまま履き替えないでいてもいいのでは……?」
メイド長は冷徹に首を振った。
「断じてなりません。汚れた身で聖域である学院を歩くなど、お嬢様としてあるまじき行為。それに、明日このソックスを再び履くなど言語道断。不潔極まりございません」
私は言葉を失った。この学院のルールでは、一日身につけた肌着やソックスは、名前入りの専用ネットに入れ、即座にクリーニングへ出すのが鉄則。私は神であるがゆえに汚れなど本来は存在しないはずだが、今はあえてお嬢様たちに倣い、その儀式に従うフリをしている。
女神たちの反応:忘却された謀略
会議室でモニター越しにこの様子を見ていた女神たちは、自分たちで水たまりを用意したことなど微塵も記憶になく、ただ純粋な驚きを見せた。
調和の桃子(養護):
「あらあら、真白が泥だなんて……。よっぽど疲れていたのね。今日のお買い物で気が緩んだのかしら?」
創造の女神(担任):
「災難ねぇ。でも、あそこでメイド長が即座に反応するのはさすがだわ」
知恵のソフィア(書記):
「ああ、白が汚れる瞬間の緊張感……! 真白の慌てた顔もまた芸術ですわ」
美のヴィーナス(副会長):
「すぐに履き替えさせるのね。あのメイド長、真白の清楚さを守る番人として優秀だわ」
勝負の女神(1年):
「ぬかるみを見抜く力が足りなかったっすね。修行の道は険しいっす!」
豊穣のデメテル(会計):
「また新品を卸せばいいだけのこと。何度でも、何度でも真っ白なソックスを履かせてあげましょう」
芸術の女神(2年):
「汚れを拒絶し、即座に修正する。これぞ蒼天の日常だ」
慈愛の女神(3年):
「あらあら、可哀想に……。でも、綺麗になった真白ちゃんに会えるから楽しみだわ」
龍神の翠(役員):
「泥ひとつでこれほど騒がしいとは! 良い光景じゃ!」
真白の「問い詰める」という決意は、泥の染みひとつで消え去った。彼女はメイド長に導かれ、言われるがままに予備の白ハイソックスへと履き替える。汚れたソックスは「不潔なもの」として隔離され、真白の日常には再び完璧な白が戻る。今はただ、お嬢様としての品格という名の、心地よい檻の中で安らいでいるのである。




