筍の春巻き、聖女の受難
一翻スーパーの農産売場、旬の筍を手に取っていた真白は、予期せぬ「聖女」としての人気に翻弄されていた。女神たちが仕組んだ文化交流会という名の舞台が、真白の知らないところで期待値を限界まで膨らませていたのである。
「さて、今日は筍を使って春巻きにしましょうか……」
そう呟いた瞬間、真白の周りは瞬く間に黒山の人だかりとなった。
「みなさん、こんにちは」
真白が穏やかに微笑むと、人々の熱気が一気に爆発した。
「真白様! 今日の補習は終わったのですか? お疲れ様です!」
「真白様、今度うちの娘の学園にいらっしゃるそうですね! 娘が『真白様に会える!』って興奮して自慢しておりましたわ!」
「まぁ、ヴァイオリンまでお上手なんですって? 学力だけでなく芸術も……。一般の者には公開されないのが本当に残念でなりません!」
(……文化交流会? なんですかそれは。聞いていませんよ?)
心の中では困惑しつつも、真白は瑞鳳宮の主としての品格を崩さず、冷静に微笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。今度、演奏させていただきますね」
その言葉を聞き、居合わせた他校の女子生徒たちが悲鳴に近い声を上げた。
「嘘……! 交流会の前に会えるなんて!」
「あの海外コンクール受賞の精鋭5名も来るんですよね? 真白様がわざわざ演奏するなんて、先鋭の皆様以上の腕前だってことですよね!」
「いえ、私はまだまだ精進の身ですので……」
真白の謙虚な言葉に、周囲はさらに盛り上がる。
(……うぅ、期待されていますね。これ、本番で困ったときに『神様オート』を学院以外でも発動できるのでしょうか? そもそもこの動きにくい神衣装束で演奏するのですか? 無理ですよ……。これは帰ったら、悪巧みをしている女神の皆様を問い詰めなければ)
「皆様、お買い物が止まってしまいますよ」
真白が優しく促しても、彼女の人気は一向に衰えない。30分に及ぶ「聖女との交流」を経て、ようやく真白がスーパーを出たときには、夕暮れが迫っていた。
門前のため息
蒼天女学院の巨大な門の前に辿り着き、真白はふっと息を吐いて制服モードへと切り替わった。
「ふぅ……もう、へとへとですよ」
肩を落とす彼女の背中には、神衣装束の威厳は微塵も残っていない。ただ、一人の疲れ切った少女の姿があった。彼女は知らない――今夜、彼女を待っているのは、女神たちが用意した最高級のハイソックスと、さらなる「高貴なる指導」であることを。
真白の優雅な微笑みは、一翻市民の心を確実に掴み、その人気は留まるところを知らない。しかし、その裏で彼女が抱く「問い詰めたい」という想いと、神の力への不安は、女神たちの計画をどう揺るがすのか。交流会という名の神聖なる試練へ向けて、真白の「神様としての日常」は、より一層過酷で、そして甘美なものへと変貌していく。




