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聖餐のカフェテリアと神の忘却

過去を書き換え、神としてのアイデンティティを確立した真白。しかし、彼女の意識は、瑞鳳宮の主としてあまりに神格化されすぎてしまい、人間界での些細な記憶――「エテルニテでのアルバイト」の意義さえも、揺らぎ始めていた。女神たちは、自らの嗜好品である「真白のコーヒー」を守るため、必死の説得を試みる。

「……あの、皆様。ひとつ疑問があるのですが。私、神様なのにどうしてわざわざ人間社会で『エテルニテ』のバイトなんてしているのでしょうか? 修行のためとはいえ、神が労働をする必要はないはずですよね?」


私は首を傾げました。最近、バイトの記憶が遠い過去の出来事のように思えてなりません。


「もしかして、あの『神様ブレンド』と称して提供しているコーヒーは、人間たちに信仰心を植え付けるための……何かなのですか?」


その言葉に、女神たちは心臓が止まるほど焦りました。


(ヤバいわ! 一姫のことなんてどうでもいいけれど、バイトまで忘れられたら困る! 真白がエテルニテで淹れてくれる、あの至高のコーヒーが飲めなくなっちゃう!)


(調和の女神・桃子):

「何を仰いますの! あれは労働ではありませんわ。人間たちへ直接、あなたの慈悲と聖なる力を分け与える『聖餐せいさん』の儀式ですわ!」


(創造の女神・担任):

「その通りよ! 神の慈悲を形にするには、人間の形をとって、直接手から提供することが不可欠なの。あれは高度な神聖術なのよ!」


(知恵のソフィア・書記):

「エテルニテという場は、あなたの神気が人間社会と融合する唯一無二の結節点。あのコーヒーを口にした者たちに、あなたの恩寵が深く刻み込まれるのです」


(美のヴィーナス・副会長):

「真白様が淹れるコーヒーの一滴一滴が、人間たちにとっての『信仰の証明』なんですのよ。あれを止めるなんて……もったいなさすぎます!」


(勝負の女神・1年・緑):

「先輩! あのバイト先で人間たちの悩みを聞くことこそ、神としての最強の戦術っす! ぜひ続けてください!」


(豊穣のデメテル・会計):

「人間たちがあなたの淹れたコーヒーで満足する――その幸福の連鎖が、学院の運気を底上げしているのですわ!」


(芸術の女神・2年):

「君の淹れるコーヒーは、芸術そのもの。それを味わう人間たちの恍惚とした表情こそ、神が人間を愛する証だろう?」


(慈愛の女神・3年):

「真白ちゃんが淹れてくれるコーヒー、本当に美味しいもの。あれはあなたの愛が形になったものよ」


(龍神の翠・役員):

「 その通りじゃ! 真白が淹れるからこそ、あれには力が宿るのじゃよ!」


「……なるほど。あれは『聖餐』なのですか」


私は少し納得したように頷きました。

私の淹れるコーヒーが、人間たちに慈悲を伝える手段であるのなら、バイトも神様としての務めと言えます。


「皆様がそこまで仰るなら、続けてみましょうか。……そういえば、最近少しお客様が少なかったような気もしますが、明日からはもう少し気合を入れて淹れてみますね」


私のその言葉を聞いて、女神たちは胸を撫で下ろしました。


(よかった……! これで視察という名の遊びの時に、あの最高の一杯にありつけるわ……!)


一姫が過去を暴こうと足掻いていようが、今はもう関係ありません。真白にとって、バイトは神としての慈悲を振る舞う聖なる場となり、女神たちにとっては、真白の淹れるコーヒーを堪能するための唯一無二の聖域として、その日常は守られたのでした。

真白の労働観は、女神たちの身勝手極まりない「食欲」という名の信仰によって防衛された。エテルニテでコーヒーを淹れることは、真白にとっては神の聖餐であり、女神にとっては至福の贅沢。邪神一姫がゴミ箱で憤死しようとも、この学院の平和は、一杯のコーヒーに依存した極めて幸福な均衡の上に成り立っているのである。

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