神の恩寵、金粉舞う色紙
会議室の重苦しい緊張感は、いつしか「真白の覚醒」を逆手に取った女神たちの奔放な楽しみに塗り替えられていた。力を制御する修行の対価として、彼女たちが求めたのは、神たる真白の直筆サイン。その無垢な素直さに付け込み、女神たちは次々と金粉入りの色紙を差し出す。
「さあ、真白様! セレクトメニューの検品はこれくらいにして……私たちに『真心を込めたサイン』をいただけますよね?」
女神たちは、キラキラとした瞳で私を見つめ、どこから出したのかというほど豪華な金粉入りの色紙と、上質な筆を差し出しました。
「あっ、そうでした……すみません。お仕事のことばかり考えていて」
私は、頭に浮かんだ「お嬢様生徒会長」としての責任感よりも、目の前にいる女神たちの期待を優先しようとする自分に気づきました。
「もちろんです。皆様には普段から……ええと、学院のために、私の代わりに頑張っていただいているのですから。真心を込めてサインさせていただきます」
本来の私であれば「やれやれ、仕方ありませんね」と少し呆れながらペンを走らせるところですが、今の私は覚醒による「素直すぎる状態」。女神たちの頼みを拒絶するという選択肢が、今の私の思考回路には存在しませんでした。
(調和の女神・桃子):
「(内心:やったわ! この隙だらけの真白を独り占めできるなんて!)真白様、まずは私からですわ!」
(創造の女神・担任):
「(内心:これは永久保存版の家宝……いえ、神宝ね!)次は私にお願い!」
(知恵のソフィア・書記):
「(内心:筆圧と手の震え……神の筆跡データを生で採取できるなんて幸せですわ)」
(美のヴィーナス・副会長):
「(内心:真白の指先が筆を握っているわ……! 尊すぎる……!)」
(勝負の女神・1年):
「(内心:修行という名の報酬が豪華すぎるっす!)次、次っす!」
(豊穣のデメテル・会計):
「(内心:金粉の輝きに負けない、真白様のオーラ。最高ですわ)」
(芸術の女神・2年):
「(内心:君の『ありがとう』という言葉が、文字となって永遠に刻まれるのだ……)」
(慈愛の女神・3年):
「(内心:真白ちゃんが一生懸命書いてくれるなんて……泣けてくるわ)」
(龍神の翠・役員):
「(内心:これぞまさに、神による直筆の福音じゃ!)」
私は一枚ずつ、女神たちの顔を見つめながら、心を込めて筆を動かしました。
整った、しかしどこか温かみのある、私だけの文字。
「……いつも、ありがとうございます」
感謝の言葉と共に、両手で丁寧に色紙を渡します。その仕草は、どんな芸術品よりも価値のあるもののように思えました。渡す瞬間の、少しはにかんだような、でも真っ直ぐな瞳。
(大事にしてくださいね……)
そんな無言の願いが、指先から伝わったかのように女神たちは震えました。色紙を受け取った全員が、頬を染めて、まるで宝物を扱うように胸元に抱きしめます。
「あぁ……この、真白様の春の陽だまりのような残り香……」
会議室に、幸せな溜息が満ちていきます。一姫の影も、騒がしい家電量販店の記憶も、ここにはもうありません。今はただ、神たる少女が眷属たちのために文字を書き記すという、至福の刻だけが流れていました。
修行という大義名分のもと、女神たちは「覚醒した真白の素直さ」という甘い蜜を存分に堪能した。彼女たちの思惑通り、真白は神の力を持て余しながらも、その心は眷属たちへの感謝で満たされている。ゴミ処理施設で焼かれている邪神など、この幸せな空間のノイズにすらなり得ない。真白の「頑張り」は、今日も誰かの心を救い、そしてその誰かを、ますます彼女の虜にしていくのでした。




