春の陽だまり、その力は眠りの魔法
会議室に満ちる、神の呼吸のごとき春の香り。そのあまりの心地よさに、女神たちは抗えぬ眠気という名の防衛線に追い込まれていた。瑞鳳真白の「無自覚な神威」は、今や結界すらも侵食し、植物を怪物へと変貌させようとしていた。神格と理性がせめぎ合う狭間で、真白は己の力の制御に戸惑い、苦悩する。
「真白様……すこーしだけ、そのお力を弱めていただけませんか?」
調和の女神・桃子が、眠気と戦いながら必死に声を絞り出しました。
「この学院内は不審者対策といったセキュリティも万全ですし、安全ですので……。このままだと、私たちだけではなく、学院にいるすべての方が眠りについてしまいます。それに、真白様自ら手入れをされている植物たちまで、この神力に呼応して怪物へと変貌しかけています……!」
(本心:どこかに行かれてしまっては困るけれど、このままでは私たちが先にダウンしてしまうわ!)
(創造の女神・担任):
「ええ、その通りよ! あなたの神力は素晴らしいけれど、今はもう少し『日常の光』くらいの出力に抑えて……。さあ、深呼吸して!」
(知恵のソフィア・書記):
「出力のパラメータを、現在値の10%まで低下させるよう再設定してください。今のままだと生態系が破壊されてしまいますわ!」
(美のヴィーナス・副会長):
「ああ、眠い……でも、その美しすぎるオーラが植物を魔物にするなんて……真白様、どうか少しだけ、その輝きを隠して頂戴!」
(勝負の女神・1年):
「先輩! 今の出力はオーバーヒートっす! 試合終了になる前に、一度クールダウンっす!」
(豊穣のデメテル・会計):
「これ以上出力が上がると、学院の庭園がジャングルになってしまいますわ! 私たちの胃袋(精神)も限界です……!」
(芸術の女神・2年):
「神の力は時として猛毒になり得る。君の優しさが、世界を眠らせる魔法になってしまう前に……」
(慈愛の女神・3年):
「真白ちゃん、私たちもちゃんとそばにいるから。安心して、少しだけ力を抜いてみてね」
(龍神の翠・役員):
「真白よ、その力はわしらには強すぎる! 暴走する前に、一度解くのじゃ!」
「あっ……すみません。うまく神力を使えなくて……」
私は自分の力で周囲を困らせていることに気づき、本家の神として恥ずかしさを隠せませんでした。
「確かに、そうですよね。せっかく大切に育てた植物たちが、怪物になって暴走してしまっては悲しいですし……」
私はゆっくりと力を弱めました。周囲の空間に満ちていた重苦しいほどの神聖な圧力は、ふわりと柔らかな春の気配へと変化します。
女神たちはホッと胸を撫で下ろしました。(……一姫の思い通りにはさせない。この子を暴走させるわけにはいかないわ)
その時、またしても脳内に一姫の嘲笑が響く気がしました。
(にゃ? もう終わりかにゃ? つまらないにゃ、もっと暴走しろにゃ……!)
「あぁ、もう……! あなたの思い通りにはさせないわよ!」
女神たちは一斉に、力を使えずにうつむく私を励ますように声をかけました。
「真白様、気に病むことはありません! あなたは制御できるお方です!」
「そうよ、今はただ調整が難しいだけ! 私たちがついているわ!」
「……力をうまく使えなくて、恥ずかしい限りです……」
私は覚醒状態で瞳をアイスブルーに光らせながら、顔を少しだけ赤らめて、なんとも可愛らしい、弱々しい言葉を零しました。
その姿は、絶対的な神の威厳と、一生懸命な生徒会長の顔が混ざり合い、女神たちにとっては「守り抜かねばならない至高の存在」として、より一層愛おしく映ったのでした。
真白は自身の力を制御し、学院を植物の魔物から救うことに成功した。しかし、彼女の「可愛らしい恥じらい」は、女神たちの保護欲を限界突破させるには十分だった。ゴミ処理施設で焼かれている邪神をよそに、会議室には、神と眷属たちの奇妙で温かな信頼関係が再び構築されていく。真白の「頑張り」は、今日も誰かを救い、そして誰かを翻弄し続ける。




