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機械仕掛けの福音と崩壊する日常の檻

第一会議室へと続く長い廊下。私は歩きながらスマホを取り出し、女神たちが用意した「一翻通信」という名の偽装回線を確認していた。完璧すぎる通信速度、そしてあまりにタイミングの良い校内放送。この学園が、女神たちの高度なシステムで編み上げられた「箱庭」であることに、薄々感づきながらも、私は生徒会長としての役割を演じきろうと決意を固める。

「……薄々気づいていましたが、この校内放送、AIですよね? タイミングが良すぎます。会話を打ち込むだけで可愛らしい少女の声で喋る、最新のテキスト読み上げ機能をソフィアさんが構築したのですか?」


私の問いかけに、脳内の女神たちが口々に答えます。


(知恵のソフィア・書記):

「ええ、わざわざ生徒を拘束して放送させるのは非効率ですもの。音声合成エンジンに、学院の生徒たちの声をサンプリングして搭載しました。自由自在に声色も変えられます」


(調和の女神・養護・桃子):

「そうよ。この声は評判も良いの。真白、あなたが忙しい時こそ『熱心な生徒会長』として参拝客にアピールするのよ!」


(創造の女神・担任):

「演出も大事。あなたのカリスマ性を高めるための必須インフラね」


(美のヴィーナス・副会長):

「その声で呼ばれたら、誰だってあなたを敬わずにはいられないわ」


(勝負の女神・1年):

「完璧な広報っす! これで先輩の人気はうなぎ登りですね!」


(豊穣のデメテル・会計):

「経費削減と広告宣伝費、両立させておきましたわ」


(芸術の女神・2年):

「この学園そのものが、君を讃えるための舞台なのだから」


(慈愛の女神・3年):

「真白ちゃんが頑張っている姿を、みんなに見せてあげましょう?」


(龍神の翠・役員):

「良いぞ! その調子で人間どもを導くのじゃ!」


参拝客の反応と、偽りの信頼


校内放送を聞いた、先ほどサインを求めた女子高生たちが足を止めました。


「今の放送、放送部の子かな? 本当に声優さんみたいに可愛いね……!」

「きっとあの生徒会長、今日も忙しいんだね。あんなに熱心に生徒会の仕事してるなんて、本当に真白様ってすごい……」


その反応を聞き、私は小さく溜息をつきます。


「……はぁ。そうですよね。私が何かをしていると、勝手に人間たちは持ち上げてくれる。……えぇ、期待通り、精一杯頑張りますよ」


私はブレザーの襟元をキュッと締め直し、第一会議室の扉へ手をかけました。しかし、その刹那――脳内で何かが弾けるような音がし、突然の眠気が世界を塗りつぶしました。


普段の「頑張り屋な神様」としての理性が、その眠気のあまりの深さに霧散していきます。同時に、学院内に張り巡らされた「女神たちの結界」が、私の無意識の神気によってミシリと音を立てて亀裂が入りました。


私の瞳から、生徒会長としての「演技」の色が消え去ります。

そこにあるのは、瑞鳳宮の主としての絶対的な冷徹さと、神聖なまでの静寂。私は無表情のまま扉を開きました。


「――お待たせしました、分家の皆様」


その声は、放送部のAIが合成したどんな声よりも神々しく、部屋にいた生徒会役員たちの息を止めるには十分な威圧を孕んでいました。

家電量販店での一件、そして平和なお茶会を経て、ついに真白の精神は「絶対的な神様」として完全覚醒しました。女神たちが構築した堅牢な結界さえも、真白の神威の前では綻びに過ぎません。会議室という閉鎖空間で、真白は生徒会役員たちの前に「瑞鳳宮の主」として君臨します。一姫をゴミ箱に葬り去った神が、今、学園の運営という名の「神聖なる統治」を始めようとしていました。

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