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第20話:震える龍、神の慈悲

壊れた勾玉は、琳琅りんろうのプライドをも粉々に打ち砕きました。自身の全霊を込めた封印を無意識のうちに弾き飛ばした真白。その圧倒的な神域の力に触れた幼龍は、友としての親愛を忘れ、根源的な恐怖に支配されます。

琳琅の瞳からスッと血の気が引き、黄金色の輝きが恐怖で揺らぎます。彼女は自分の小さな掌の中で無残にひび割れた宝物を見つめ、全身を激しく震わせました。龍という誇り高き種族として、たかだか「人間の少女」に自身の全霊を込めた封印を弾き飛ばされたという事実は、彼女の存在基盤を根底から揺るがすショックでした。


「そんな……嘘なのだ。そんなはずがないのだ……。琳琅の術を、人間ごときが弾き飛ばすなんて……」


彼女は呆然と呟き、崩れ落ちるように膝をつきました。


「……琳琅さん? ごめんなさい、私が余計な力を使ってしまったのでしょうか。本当に、私はただの人間で、特別なことなんて何も……」


あなたが慌てて手を差し伸べ、彼女を気遣おうと歩み寄ると、琳琅は悲鳴に近い叫び声を上げてその場に平伏しました。彼女にとって、今のあなたは「ただの友人」ではなく、無知な龍がその傲慢さゆえに触れてはならなかった「神域の権能そのもの」へと変貌を遂げていたのです。


「近づかないでほしいのだ! 琳琅は……琳琅は、取り返しのつかない無礼を働いたのだ……!」


彼女は額をアスファルトに擦り付け、全身を痙攣させています。彼女の脳裏には、神の怒りに触れて一瞬にして塵に帰る、かつて伝承で聞いた恐ろしい神罰の光景がフラッシュバックしていました。彼女にとって、この不敬は雷に打たれて消滅させられても文句の言えない大罪だったのです。


「お願いなのだ、消さないでほしいのだ……! 琳琅の宝物庫にある宝石を、全部、全部差し出すから! 龍の秘宝も、地層の奥に隠した光り輝く石も、すべてを捧げるから許してほしいのだ……! もう二度と、真白の首元に触れたりしないから……!」


彼女は涙を流し、身の程知らずな行いを心から悔いて懇願しています。その姿は、先ほどまでの威厳ある幼龍の影すらありませんでした。


あなたは困り果て、その場に屈み込んで彼女の肩にそっと手を置きました。その指先から伝わる温もりが、琳琅には耐え難いほどの「神聖な赦し」のように感じられたのか、彼女は一層激しく震えます。


「琳琅さん、顔を上げてください。そんなに怯える必要なんてありません。宝石なんていりませんし、神罰なんて、そんな怖いこと私にはできませんよ」


あなたは努めて柔らかく、いつものカフェで淹れるコーヒーのように穏やかな口調で微笑みかけました。


「私たちは、これからもお友達ですよ。……だから、そんなに震えないで」


しかし、その慈愛に満ちた言葉が、琳琅の中での「真白=畏怖すべき神性」という認識を決定的なものにしてしまいました。彼女にとって、あなたはもはや人間という枠組みを超越し、龍を従えることさえ可能な、神に近い存在へと昇華されたのです。

「お友達」という名の赦し。それは真白にとっては誠実な友情の証でしたが、琳琅にとっては抗いようのない神の宣告にも似た重みを持って響きました。跪く龍と、困惑する少女。夕暮れの商店街で、二人の関係は決定的に、そして不可逆的に書き換えられてしまったのです。真白がどれほど「普通」を望もうとも、彼女の歩む道には、もはや人ならざる者たちの平伏が付き纏うのでした。

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