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第19話 龍の拒絶、龍の敗北

琳琅が贈った「龍の勾玉」。それは本来、真白の正体を隠すための静かな守護となるはずでした。しかし、夕暮れの街角で勾玉は異変を起こします。真白の内に眠る「魂天様の加護」が、龍の小細工を拒絶するかのように暴走を始めたのです。眩い光と放電のなかで、真白という少女が秘める「神域の力」が、幼龍のプライドを根底から揺さぶります。

「ちょっと、琳琅さん……!? さっきまでのおとなしい輝きはどこへ行ったのですか? 眩しすぎて、直視できないのですが……!」


あなたは商店街の角で足を止め、慌てて首元の勾玉を押さえました。ただでさえ夕暮れ時で薄暗くなり始めた街角に、あなたの胸元だけが不自然なほど神々しく、昼間よりもなお強く発光しています。それだけではありません。勾玉の表面からは、高圧電流が放電するような「ピシッ、ピシッ」という鋭い破裂音が響き、周囲の空気がビリビリと震え出しました。


琳琅は、自分の首から外してプレゼントしたはずのその勾玉が、今やかつてないほどの激しい光を放っているのを見て、驚愕に目を見開きました。彼女の黄金色の瞳には、人間の目には映らないはずの「膨大な霊力の奔流」がはっきりと見えています。


(な、なんなのだ……これは……!)


琳琅は内心で戦慄しました。彼女は幼龍とはいえ、その身に宿す龍の加護は強大です。彼女が施した「封印」は、本来であればどんな人間が身につけても揺らぐはずのない、厳重な龍の術式でした。しかし今、目の前の真白という少女から溢れ出る霊力が、その封印を内側から粉々に砕こうと波打っているのです。


真白本人は、自分の中にこれほどまでの力が眠っているとは夢にも思っていません。彼女の魂の深層には、魂天神社という聖域を護り抜くための、神格に近い「魂天様の加護」が根付いていました。その純粋で強大な霊力と、龍の宝物が共鳴した瞬間、あなたの無意識の加護が「この程度の封印は不要」とばかりに、龍の加護そのものを「弾き飛ばす」準備を始めていたのです。


「……ま、真白、動かないでほしいのだ!」


琳琅の声は、先ほどまでの無邪気さを失い、わずかに震えていました。彼女の封印術が、今まさにあなたの身体から放たれる霊圧によって、限界の淵に立たされています。もし今の霊力が完全に解放されれば、この商店街はおろか、一翻市の一部が吹き飛ぶほどの衝撃波が生まれてしまうでしょう。


「琳琅さん? どうかしたのですか? すごく怖そうな顔をしていますよ。これ、早く外したほうがいいのではないでしょうか……? ……あっ、いえ、やっぱりダメです! 私が触れたら、それこそ中身が爆発しそうな予感がします! 琳琅さん、お願いします、すぐに取ってください!」


あなたは恐怖に引きつった表情で、光り輝く首飾りから両手を離し、琳琅に泣きつきました。周囲の通行人は、なぜかあなたの周りだけが異常なほど眩しく、かつ空気が熱を帯びていることに気づき始め、足早に遠ざかっていきます。


「わ、わかっているのだ……! 琳琅がすぐに……!」


琳琅は冷や汗を流しながら、慎重にあなたの首元に手を伸ばしました。触れた瞬間、指先に突き刺さるような激しい霊力の衝撃が走ります。それは、ただの幼龍の力では制御しきれない、神域そのものの拒絶反応でした。


(これが、真白の……魂天様に選ばれた者の力……? まるで、神が龍の小細工を笑っているみたいだ!)


琳琅は自分の龍としてのプライドが砕け散るような感覚を覚えながら、必死に封印を解こうと術を編みます。あなたの霊力と魂天様の加護が、あまりにも無邪気に、そして圧倒的な暴力性を持って龍の術を排除していくのです。


「くっ……真白、少しだけ熱くなるのだ! 我慢するのだ!」


そう叫んだ瞬間、琳琅があなたの首元から勾玉を掴み取ろうとしました。その刹那、光は頂点に達し、あなたの胸元から黄金と白銀の閃光が商店街全体を飲み込みました。爆発音すら伴わない、静かな衝撃波が街を撫でていき――次の瞬間、そこには何事もなかったかのように、ただ呆然と立ち尽くすあなたと、手元で静まり返った勾玉を握りしめる青ざめた顔の琳琅だけが残されていました。


「……はぁ、はぁ……。取れたのだ。……真白、あなた、一体何者なのだ……?」


琳琅の震える問いかけに、あなたは首元をさすりながら、ただ困惑した表情で首を振ることしかできませんでした。自分が何をしたのか、なぜあれほどまでに光ったのか。あなたの正体と、その身に秘められた力の深淵が、今まさに一翻市の日常を揺るがし始めていたのです。


琳琅の手の中で、先ほどまであれほど力強く輝いていた勾玉が、まるで力尽きたかのように細かな音を立てて冷めていきました。彼女が震える指でそれをじっと見つめた瞬間、「パキリ」という乾いた音が空気を切り裂きます。勾玉の表面には、まるで龍の鱗が砕け散るかのような、深い亀裂が走っていました。


それは単なる物理的な破損ではありません。琳琅が誇りを持って刻み込んだ龍の加護、幼いながらも彼女が持ち得る限りの力を込めた「封印の術式」そのものが、あなたの内側から溢れ出た根源的な霊力によって完全に敗北し、否定された証でした。

龍の封印すらも「不純物」として排除してしまう、真白の圧倒的な神性。それは彼女が望んだ「普通の女子高生」という仮面を、内側から焼き切らんとする過酷な光でもありました。砕けた勾玉を前に、琳琅は真白の中に潜む「深淵」を垣間見ます。一翻市の日常を守るための巫女は、今やその存在自体が、この世界の理を塗り替えかねない「神の器」へと近づいていました。

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