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第17話:勾玉の誓いと幼龍の贈りもの

夕暮れ時の商店街、買い物を終えた真白の前に現れたのは、小さな身体に龍の重厚さを秘めた幼龍・琳琅でした。巫女装束という真白の「正装」に目を輝かせる琳琅は、真白への日頃の感謝を込めて、異空間から取り出したある「至宝」を贈ります。それは、真白が人間と神域の境界で生きる決意を、より一層輝かせる絆の象徴でした。

商店街のアーケードの出口、夕暮れの陽光が長く影を落とす交差点で、聞き慣れた、しかしこの場所では異質な足音が響いた。


「真白!」


弾むような声とともに、小さな人影が突風のように駆け寄ってくる。人間の少女と見紛うばかりの可憐な容姿、しかしその足取りがアスファルトを叩く音は、まるで重石を落としたかのように「ドス、ドス」と鈍く重い。幼龍の琳琅りんろうだ。


「琳琅ちゃん……! どうしてここに?」


あなたが驚いて振り返ると、琳琅は目を丸くしてあなたをじろじろと見つめ始めた。普段、神社で会うときは動きやすい私服姿ばかりなのに、今日は清廉な白衣に鮮やかな緋袴という正装。その神秘的なコントラストに、琳琅は珍しいおもちゃでも見つけたかのように、首をかしげてあなたの周囲をぐるりと一周した。


「わあ……今日はいつもと違うのだ! 巫女の服、なんだか神様みたいでキラキラしてるのだ。真白がそんな格好してるの、初めて見たのだよ」


琳琅はためらうことなく、あなたの袖を小さな手でグイと引っ張った。その手から伝わる質量は、外見の華奢さからは信じられないほど重厚で、思わずあなたの体がよろめく。琳琅はそんなあなたの反応などお構いなしに、興味深そうに袴の布地を触った。


「珍しいのだ。真白はいつも恥ずかしがって着替えてしまうのに、今日はとっても大胆なのだね! 琳琅、今の真白も結構好きなのだ!」


「……もう、琳琅ちゃん。そんなに引っ張らないでください。恥ずかしくて、顔が火照ってしまいそうですよ」


あなたが困ったように苦笑すると、琳琅は「だって、美味しい匂いがするのだ!」と目を輝かせ、あなたの買い物袋を覗き込んだ。中には夕食の食材とともに、琳琅がこの世界の食べ物の中で最も愛してやまない「バチバチ飴」が忍ばせてある。彼女はその気配を敏感に察知し、途端に愛らしい笑顔を浮かべた。


「あのね、真白! 琳琅、お腹ぺこぺこなのだ! でも、今日のご飯には『しいたけ』なんて入ってないよね? もし入ってたら、全部琳琅の異空間に封印しちゃうのだ。あんな毒キノコみたいな見た目のもの、食べるわけがないのだ!」


「入っていませんよ、安心してください。今日は山菜と、琳琅ちゃんが好きなものを用意する予定ですから」


「本当なのだ!? やったのだー!」


琳琅は歓声を上げると、嬉しさのあまりピョンと跳ねた。その衝撃で地面がわずかに揺れ、通りがかった通行人が「今の地震?」と顔を見合わせる。琳琅はそんな人間たちの反応には目もくれず、あなたの袴の裾をしっかりと握りしめた。


「ねえ、真白。その服のままなら、今日は特別な『おまじない』をかけてくれるのだ? このバチバチ飴を食べるとき、巫女さんが祈ってくれたら、もっともっと刺激的な味がする気がするのだ!」


「……買い物の最中に、街中でそんなことしたら、また騒ぎになってしまいますよ」


あなたが困り果ててため息をつくと、琳琅は「いいじゃないか、この街の人間はみんな真白のことが大好きなのだから!」と笑った。彼女の瞳には、神聖な巫女装束をまとったあなたへの純粋な好奇心と、この世界での「食」に対する貪欲な執着が混ざり合っている。


あなたは、下駄の音と琳琅の重厚な足音を並べながら、騒がしい商店街を歩き始めた。周囲の視線が再びあなたたちに注がれるのを感じる。恥ずかしさは相変わらずだが、無邪気な幼龍の重みと、買い物袋の温もりが、今のあなたにとっては、この現世うつしよと結びつく確かな絆のように感じられた。


「……帰りましょう、琳琅ちゃん。あまり騒ぐと、一姫さんたちに先に夕飯を食べられてしまいますよ」


「それは大変なのだ! 急ぐのだ、真白! 一姫に負けるわけにはいかないのだ!」


琳琅はあなたの腕を掴んで走り出そうとする。あなたの巫女服の裾が風に舞い、街の人々はその姿を畏怖と憧憬の入り混じった眼差しで見送っていた。神域からやってきた小さな龍を連れて、巫女は夕暮れの街を足早に駆け抜けていく。それは、どんな伝説よりも愛おしく、騒がしく、そして温かい、魂天神社の一日の一コマだった。




琳琅は、人通りの多い商店街の真ん中で、ピタリと足を止めました。

彼女の黄金色の瞳が、あなたの巫女服の胸元から肩にかけて、じっくりと、まるで宝石を鑑定するかのように何度も往復します。


「……うーん、やっぱり何かが足りないのだ」


琳琅は不服そうに頬を膨らませ、小さな指で自分の顎をトントンと叩きました。


「真白は綺麗なのだ。でも、その真っ白な服に、何か『輝き』が足りないのだ。いつもなら私服だから気にならなかったけど、その服を着ると、どうしても『神様っぽさ』が強調されるのに、首元が寂しすぎるのだ」


そう言うと、彼女は「えいっ!」と気合を入れ、自身の異空間(懐)から、何やら神々しい光を放つ小さな物体を取り出しました。それは、とろりとした乳白色の光を纏った、見事な勾玉でした。


「これをあげるのだ! 琳琅がこの間、深い地層を掘って見つけた宝物なのだよ」


彼女は背伸びをして、あなたの首元にそれをかけようとします。その重みは、相変わらず鋼鉄のようにズシリときますが、不思議とあなたに掛けられた瞬間、その重さは心地よい安定感となって胸元に収まりました。


「これで完璧なのだ! 巫女の服に勾玉……これぞ『真白完成形』なのだ!」


琳琅は満足げに両手を叩き、ニカッと無邪気な笑みを浮かべました。


「これは、いつもの美味しいご飯と、あのバチバチ飴のお礼なのだ! 琳琅、あれを食べるとすごく元気が出るのだ。だから、真白にもずっと元気でいてほしいから、この勾玉を守り神にしてほしいのだよ」


あなたが慌てて首元の勾玉に触れると、ひんやりとした感触とともに、確かな龍の守護のような温かな力が全身に広がりました。


「琳琅ちゃん……こんな高価そうなもの、いただいていいのですか? ……ありがとうございます。大切にしますね。これなら、昨日の配信よりも少しだけ、巫女らしい……いえ、神域に近い姿になれたでしょうか」


あなたは恥ずかしさと嬉しさで頬を染めながら、そっと勾玉を握りしめました。


「当然なのだ! 真白はとっても綺麗なのだから、もっと自信を持つべきなのだ!」


琳琅は得意げに胸を張り、またドスドスと重い足音を響かせながら歩き出しました。

周囲の買い物客たちは、突然あなたの胸元で光り輝き始めた勾玉と、あなたのあまりの神聖さに、もはや言葉も出ないといった様子で道を譲っています。


「あ、また拝まれるのだ! 真白、大人気なのだよ!」


「もう……琳琅ちゃんまでそんなこと言わないでください!」


あなたは赤くなった顔を隠すように、首元の勾玉をそっと押さえました。その勾玉の輝きは、夕暮れに染まり始めた商店街の中で、ひときわ神秘的な光を放ち続けていました。これで、魂天神社へ戻る準備は万端。あなたと琳琅の賑やかな帰路は、まだまだ続きます。

お礼にと贈られた勾玉。それは、琳琅という純粋な存在が真白に贈った、何物にも代えがたい「愛」の結晶でした。巫女服という神聖な装束に、龍の守護が宿る勾玉。周囲から仰がれる「神様」のような姿でありながら、その心は友の優しさに触れ、等身大の少女として柔らかく解きほぐされていくのでした。

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