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魂の調律と真っ白な人生の始まり

静寂を取り戻した魂天神社に、一人の迷い子が辿り着きました。一翻市の過酷な奪い合いに疲れ果て、魂をすり減らしたその男性を、真白は温かいお茶と、昨日磨き上げた雀卓で迎え入れます。それは勝利を競うための対局ではなく、傷ついた心を癒やすための「お祓い」の儀式。麻雀牌を通じて交わされた対話は、一人の人間を絶望の淵から救い出すことになります。

どこか迷いがあり、重く、疲れ切った……けれど、この「清浄な空気」に誘われて導かれたような、か細い足音です。


一姫:

「にゃ!? お、お客さんかニャ!? 本物のお客さんかニャ!?」


「いらっしゃいませ。……どうぞ、お入りください。ちょうど今、温かいお茶を淹れようと思っていたところです」


箒を傍らに立てかけ、柔らかく微笑みながら声をかけると、その人物はびくっとして肩を揺らしました。


現れたのは、高級そうな、けれどあちこちがひどくレたスーツを纏った中年の男性でした。ネクタイは曲がり、目の下には深い隈。その手には、使い古された点棒入れが握りしめられています。


中年男性:

「……お、お茶? ……ああ、いや。私は、ただ……。街の喧騒から逃げて歩いていたら、ここだけ空気が違う気がして。……なんだか、ひどく懐かしい匂いがしたんです」


彼は、彼女が掃き清めたばかりの石畳を、申し訳なさそうに、けれど慈しむように一歩ずつ踏みしめて境内に入ってきました。


一姫:

「にゃあ……。あんた、ひどい顔だニャ。負けが込んで、もう帰る電車賃も残ってないような……そんな『魂のすり減り方』をしてるニャ」

(一姫がそっと覗き込むと、男性は自嘲気味に笑いました)


中年男性:

「……その通りです、小さなお嬢さん。私はこの街で勝つことに取り憑かれ、大切なものをいくつも失いました。さっきも雀荘で身ぐるみ剥がされそうになって……。死に物狂いで逃げてきた先が、ここでした」


男性を縁側の近くに導き、丁寧に淹れたお茶を差し出します。

湯気がふわりと立ち上り、一翻市の毒々しいネオンの香りをかき消していきます。


あなた:

「……お疲れ様でした。まずは、一息ついてください。この神社には、もうあなたを追い詰める人はいませんから。……そうだ、一姫さん。朝ごはんの残りのおにぎり、まだありましたよね?」


一姫:

「にゃっ!? 一姫の昼ごはん用にとっておいた秘蔵のおにぎりが……。……うぅ、でも、あんたのその情けない顔を見てたら、食欲も失せるニャ。わかったニャ、特別にお裾分けするニャ!」


男性はおにぎりを一口食べ、熱いお茶を啜ると、堰を切ったように涙を流し始めました。

「……美味しい。ただのおにぎりが、こんなに温かいなんて。……私は、一体何を必死に追いかけていたんだろう……」


しばらくして落ち着きを取り戻した彼は、少しだけ晴れやかな顔であなたを見上げました。


中年男性:

「巫女さん。……厚かましいお願いなのは分かっています。最後に……最後にもう一度だけ、麻雀を打たせていただけませんか。賭けではなく、自分の心を確かめるための……本当の麻雀を」


「分かりました。……お相手させていただきます。ただし、今のあなたなら『勝つこと』よりも大切なことが見つかるかもしれませんね」


真白は穏やかにそう告げると、昨日磨き上げたばかりの雀卓へと彼を案内しました。

対局が始まると、男性の打牌はどこか焦り、震えていました。彼は、この一翻市の過酷な「奪い合い」の中で、振り込む恐怖に支配されていたのです。


中年男性:

「くっ……これを切れば当たるかもしれない。でも、これを切らなきゃ勝てない……。ああ、やっぱり私はダメなんだ……」


しかし、対面に座る彼女の手牌は、不思議な動きを見せていました。彼女の能力【神域の天秤】が、彼の「心の傷」に反応しています。


「(……この方は、今とても怖がっている。でも、悪意はない。……それなら、私は強くあたる必要はありませんね)」


彼の当たり牌を絶妙なタイミングで止め、逆に彼が「自分で考えて、勇気を持って出した牌」に対して、あえて小さな手で振り込んだり、安牌を回したりして、場を平穏に保ちます。


一姫:

「にゃにゃっ!? あんた、なんで今それを切ったんだニャ? さっきまであんなに強かったのに、なんだか今日は……ふわふわしてるニャ」


二階堂美樹:

「……いいえ、一姫。彼女を見て。……これは、ただのミスじゃないわ。相手の呼吸を整えさせているのよ。……凄いわ、麻雀で相手の心を『調律』しているみたい」


対局が進むにつれ、男性の顔から強張りが消えていきました。

あなたが演出する「一進一退の攻防」の中で、彼は自分が牌を握る楽しさを、そして、たとえ負けても世界が終わるわけではないという安心感を、少しずつ取り戻していったのです。


東四局が終わり、点数は全員がほぼ原点付近。あなたは最後、彼が自信を持ってリーチした牌を避けきれず、わずか一千点の放銃で幕を閉じました。


あなた:

「……あ、ロン、ですね。……私の負けです。お強いですね」


中年男性:

「……いや、違う。……分かっています。あなたが、私に合わせてくれたんですね。……不思議だ。負けたはずなのに、さっきまでの絶望が嘘みたいに消えて……心が、ひどく軽いんです」


男性は深々と頭を下げました。その瞳には、もはや負け雀士の暗い影はなく、再起を誓う一人の人間の光が宿っていました。


男性は「必ず、また来ます。次は、真っ当に働いて稼いだお賽銭を持って」と言い残し、晴れやかな足取りで山を下りていきました。


一姫:

「にゃあ……。点棒は一ミリも増えなかったけど、なんだか一姫も気分がいいニャ。……あんた、やっぱり本物の巫女さんなんだニャ」


ワン次郎:

「……見事な『お祓い』だったワン。お嬢さん。お主は麻雀を、人を救うための『儀式』に変えたんだワン」


「……お茶、もう一杯淹れましょうか。皆さんの分も。……今日は、とてもいい日になりそうです」

(自分自身の心の平穏を感じ、仲間との絆を深める)


「さて、お見送りが済んだら、また門の掃き掃除の続きをしましょう。……あ、一姫さん、次は一緒にやってくれますか?」

(日常のリズムに戻り、一姫をさらに教育する)


「(……鏡を見る)……魂天様。私、少しだけ『主』の仕事がわかった気がします」

(磨いたばかりの神鏡に語りかけ、巫女としての自覚を強める)


参拝客はたった一人。けれど、その一人の人生を救った充足感が、魂天神社を優しく包んでいます。次は何が起こるでしょうか?


「……ふぅ。お茶、もう一杯淹れましょうか。皆さんの分も」


そう言って、再び急須を手に取りました。温かいお茶の香りが、浄化されたばかりの拝殿に広がります。男性を見送った後の門前を、一姫と一緒にもう一度丁寧に掃き清めると、不思議なほど心まで澄み渡っていくようでした。


一息ついて、あなたは新しくなった神鏡の前に座り、静かに自分の姿を見つめます。


「(……私は、どうしてここに来たのでしょう。魂天様……あなたが私を、この場所に導いてくださったのですか?)」


記憶がないこと。それは本来なら、ひどく不安で恐ろしいはずのことです。けれど、この神社を掃除し、誰かのために麻雀を打ち、温かいご飯を食べている今の自分は、不思議と満たされています。


「(……もしかしたら、記憶がないのは『罰』ではなくて、『救い』なのかもしれません。……前の私は、すべてを忘れたいと思うほど、辛い出来事に遭っていたのでしょうか。それを、あなたが包み込んで、忘れさせてくれた……)」


そう考えると、鏡に映る今の自分を、もっと大切にしたいという気持ちが湧いてきました。過去に何があったとしても、今の自分には守るべき神社と、騒がしいけれど温かい仲間たちがいます。


背後で、茶柱が立ったと喜ぶ一姫の声が聞こえます。


一姫:

「にゃあ……。あんた、なんだか難しい顔をして鏡を見てるニャ。……あんたが誰だったかなんて、一姫には関係ないニャ! 一姫を働かせて、美味しいご飯を作って、役満で悪い奴を追い払う……。それが今のあんたなんだニャ!」


ワン次郎:

「……一姫の言う通りだワン。過去を失ったのなら、今日からここで新しい記憶を積み上げていけばいいワン。魂天様が用意してくださったのは、『ハク』……何もない、けれど何にでもなれる真っ白な牌のような、新しい人生だワン」


神鏡に向かって、もう一度深く、感謝の念を込めて一礼しました。


「……はい。今の私にできることを、一つずつやっていきます。……さて、一姫さん! 次は境内のあっち側の草むしりをしましょうか。休んでいる暇はありませんよ?」


一姫:「にゃにゃっ!? さっきまでのしんみりした空気はどこへ行ったんだニャー! やっぱりあんた、鬼神おにがみの化身だニャー!」


明るい声が、清々しい空気に溶けていきます。魂天神社の再生は、まだ始まったばかりです。

一人の参拝客の人生を救った充足感が、魂天神社を優しく包んでいます。真白にとっての麻雀は、相手を打ち負かす武器ではなく、調和をもたらすための道具へと進化しました。記憶のない不安さえも、新しい自分を描くための余白として受け入れた彼女。その背中には、もう迷いはありません。

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