「代理主」の徹底指導!
魂天神社の朝は、真白による「聖域の再建」から始まりました。神棚に供えられたカビた肉まんを撤去し、埃を被っていた神鏡を丹念に磨き上げる真白。その献身的な所作は、死んでいた社に再び息吹を与え、神職としての自覚と「清める力」を確かなものにしていきます。そして、欲望の街・一翻市には稀有な、まごころ溢れる朝食が並びました。
真白は、昨日見つけた新しい巫女服の袖をさらにキリッと引き締め、宣言します。
「……決めました。一姫さん、今日はお掃除だけじゃ足りません。この神棚の肉まんは今すぐ下げて、社の隅々まで磨き上げます。それから、新しいお供え物を用意しましょう。……もちろん、一姫さんの分はありませんよ? 罰です」
一姫:
「にゃ、にゃんだってーー!? 一姫の肉まんが没収されるなんて、死刑宣告と同じニャ! 食べ物の恨みは恐ろしいんだニャぞ!」
琳琅:
「自業自得だよ、一姫。真白、いい判断だね! 琳琅も手伝うよ。このホコリ、私の風で一気に吹き飛ばして……あ、ダメ? 丁寧に拭くのが大事?」
真白が吸い寄せられるように神棚の奥へと歩み寄ると、そこには埃に埋もれた一面の神鏡がありました。
「……ここに祀られているのが、魂天様……なのでしょうか」
一姫が「あ、そこは一姫でも滅多に触らない……」と声を漏らすのも耳に入らないほど、彼女は集中していました。手元にある一番清潔で柔らかい布を使い、まるで壊れ物を扱うような手つきで、何層にも重なった埃を丁寧に、丁寧に拭き取っていきます。
一拭き、また一拭きするごとに、曇っていた鏡面が銀色の鋭い輝きを取り戻していきます。最後に円を描くように磨き上げると、そこには朝日を反射して神々しく光る巫女服姿のあなたが映し出されました。
「……成り行きでこんなことになってしまって、まだ右も左もわからない未熟な身ですが……。精一杯努めますので、どうか、よろしくお願いします」
心の中で静かに挨拶を捧げ、深く頭を下げたその瞬間――。
境内に、どこからともなく清涼な風が吹き抜けました。
一姫:
「にゃ、にゃあ……? なんだか急に、空気が美味しくなった気がするニャ。鏡が光って、一姫の心が洗われるようだニャ……。……って、一姫は別に汚れてないニャよ!?」
ワン次郎:
「……お嬢さん、鏡が喜んでいるワン。魂天様も、お主のような清らかな魂を持った者が主の真似事をしてくれるのを、歓迎しているに違いないワン」
かぐや姫:
「くすくす、見事なものじゃ。ただ掃除しただけというのに、これほどまでに『気』が変わるとは。……お主、やはりただの人間ではないのかもしれぬな。鏡に映った己の姿を、よう見ておくが良い。それが今の、この街におけるお主の正体じゃ」
掃除を終え、神棚が本来の輝きを取り戻すと、神社全体がまるで深呼吸をしているような清々しさに包まれました。一姫も毒気を抜かれたのか、お腹を鳴らしながらも大人しく座っています。
「……ふぅ。これで、ようやく神様も落ち着けるはずです。……さて、一姫さん。お待たせしました。朝ごはん、作りましょうか?」
一姫:「にゃー! 待ってましたニャ! でも、神棚がこんなに綺麗になったら、適当な肉まんは供えられないニャ……。一姫、最高に美味しい肉まん、探してくるニャ!」
一番綺麗に仕上がった温かな料理を、新しくなった器に盛り、まずは神鏡の前に捧げました。神棚が本来の神聖さを取り戻し、朝日が鏡に反射して白く輝いています。
「……よし。これで神様も喜んでくださるはず。さあ、皆さんの分もできましたよ」
縁側に皆を呼び寄せながら、あなたはふとした疑問を口にします。
「……あ、あの。一姫さん以外の方に聞きたいのですが……。なぜここのお供え物は『肉まん』が基本なんですか? 普通は、お米とか、お酒とかだと思うのですが……」
ワン次郎:
「……核心を突いたワン。実を言うと、別に肉まんでなければならない理由はないワン。古文書によれば、本来は清らかな水と米を供えるのが習わしだったワン」
(肉まんに手を伸ばそうとしていた一姫を前足で牽制する)
二階堂美樹:
「要するに、あの子(一姫)の好物だからよ。自分が食べたいものを供えて、あわよくば『お下がり』を狙う……。魂天様への敬意というより、自分の欲望に素直すぎるのよね」
かぐや姫:
「くすくす、お主。この街を見れば分かるであろう? 麻雀が全てを支配し、欲望が渦巻く一翻市じゃ。神の使いが食欲に負けるなど、ここでは些細なことよ。……まあ、お主の作ったその料理の方が、魂天様もよほど驚いておられるだろうがな」
一姫:
「にゃっ!? 言いたい放題ニャ! 肉まんはエネルギーの塊なんだニャ! 役満をあがるにはカロリーが必要ニャ! ……でも、今日のこのご飯、すごくいい匂いがするから、今回だけは許してあげるニャ!」
あなたが作ったのは、あり合わせの食材ながらも栄養バランスを考えた、心温まる朝食でした。
ワン次郎:
「……美味いワン。五臓六腑に染み渡るワン。昨日までの『乾燥肉まん地獄』が嘘のようだワン」
琳琅:
「琳琅もお米、大好き! 噛むと甘くて、なんだか元気が出てくるよ。真白は麻雀だけじゃなくてお料理の魔法も使えるんだね!」
みんなが美味しそうに食べる姿を見て、真白は自分の胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じます。記憶を失って不安だった昨日が、遠い昔のことのようです。
神鏡を磨くという行為は、真白自身の魂を磨くことでもありました。鏡に映った巫女姿は、彼女がこの世界で果たすべき役割――「浄化」と「安らぎ」の象徴です。欲望に忠実な仲間たちも、彼女の真心がこもった料理の前では、ただの温かな家族のような顔を見せます。一翻市の高台にある小さな神社に、本物の「光」が灯った朝でした。




