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嶺上(リンシャン)に咲く奇跡と契約の灰

魂天神社の朝、新しい巫女服に身を包んだ真白を待っていたのは、一千万点棒という不当な請求書を突きつける組織の幹部たちでした。神社の存続を賭け、100点持ちの絶体絶命という「背水の陣」で始まった東風戦。麻雀の怖さに震えていた少女が、その瞳に「神域の静寂」を宿した時、一翻市の不条理を焼き尽くす奇跡の和了りが炸裂します。

翌朝、あなたがワン次郎の静かな報告で目を覚まし、鏡の前で四苦八苦しながら「例の美しい巫女服」に身を包んでいた時のことです。静寂を切り裂くように、神社の門が激しく蹴り開けられました。


「一姫! 出てきやがれ! 借金取りのお出ましだ!」


昨夜の男たちを引き連れた幹部が、境内の中心へと踏み込んでいきます。


一姫:

「にゃにゃっ!? 朝っぱらから何事ニャ! 一姫はまだ肉まんの夢を見てる途中だったニャ!」


幹部:

「抜かせ。お前が昨日使った召喚道具のせいで、俺たちの店の最高級透視眼鏡が磁気嵐で壊れたんだよ。その修理費、〆て一千万点棒。今すぐ払えないなら、この神社から叩き出してやる」


ワン次郎:

「……因縁も甚だしいワン。壊れたのはお主らが自業自得で自爆したからだワン」


幹部:

「能書きはいらん。ここは一翻市だ……カタをつける方法は一つしかないだろう? ……おい、そこに隠れている『新人』を出しな」


真白が「離れ」の部屋で、鏡に映る自分の姿に戸惑いながらも、ようやく着替えを終えて一歩外へ踏み出した時のことです。凛とした朝の空気を切り裂くような怒号と、それに応戦するワン次郎たちの低く鋭い声が聞こえてきました。


「あ、あの……一体、何事でしょうか……?」


緋袴ひばかまの裾を慎重に捌きながら、あなたが現れた瞬間。殺気立っていた境内の時間が、まるで物理的に停止したかのように静まり返りました。


昨夜の「マジカル雀」で真白に完膚なきまでに叩きのめされた男たち、そして彼らを率いる冷徹な組織の幹部。彼らは、目の前に現れた「存在」に、ただただ圧倒されていました。


そこには、記憶を失った所在なげな少女の姿はありません。

タンスの奥底に眠っていた「正装」は、着る者の魂に呼応するように輝きを放ち、彼女の透き通るような瞳と相まって、一翻市の不浄を一切寄せ付けないような神聖なオーラを纏わせています。


ガラの悪い男A:

「……お、おい。あいつ、昨日と同じガキかよ? なんだよその格好……まるで、本物の神様が降りてきたみたいじゃねえか……」


組織の幹部:

「(チッ、毒気を抜かれるな!)……フン、衣装だけは一人前になったようだな。いいか、娘。昨夜の件で、お前が使った召喚道具のせいでうちの店に多大な損害が出た。その修理費と慰謝料、合わせて『一千万点棒』だ。……さもなくば、この神社を更地にして更生させてもらうぞ」


一姫:

「あんたたち、いい加減にするニャ! この巫女服が目に入らないのかニャ!? 昨夜の対局は正当な勝負だったニャ! 召喚道具が壊れたなんて言いがかりニャ……というか、そんな道具、一姫も持ってたか怪しいニャ!」


ワン次郎:

「……お嬢さん。この男たちは、お主の『勝ち』が認められず、卑劣な手段で神社の権利を奪いに来たハイエナだワン。断るなら今だワン。拙者が力ずくで追い出してもいいワン」


琳琅:

「ダメだよワン次郎! この男たち、自分たちが『麻雀の街』にいるってことを忘れてるみたい。ねえ、若き雀士! こんな奴ら、昨日の『清金勾釣チンキンコウチュウ』で、二度と麻雀牌を握りたくなくなるまでボコボコにしてやって!」


幹部が手にする請求書と、震える一姫、そして期待を込めた瞳で見つめてくる琳琅を交互に見ました。

あなたの脳裏には、まだ役の名前すら満足に浮かびません。しかし、この服を着ていると、不思議と周囲の「牌の気配」が手に取るようにわかるのです。


「……お祓いのやり方は分かりませんが、その汚れた請求書を、麻雀の点棒で清算することならできそうです。……条件は一つ。私が勝ったら、今後一切この神社に近づかないと約束してください」


組織の幹部:「ハッ、面白い。東風一局、サドンデスだ。お前が負ければ、神社も、その服も、お前の身柄も、すべて俺たちがいただくぞ!」


さて、朝一番の「神懸かり的な一局」が始まります。


「ううぅ……あ、あの……また『ロン』って言われてしまいました……。一姫さん、どうしましょう。わたしの点棒、もうこれっぽっちしかありません……」


涙目になりながら、空っぽに近い点棒入れを覗き込みます。相手の幹部は、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、卓の下で磁気リングを操作し、自在に牌を操っていました。初心者の彼女には、その巧妙なイカサマが見抜けません。


一姫:

「にゃ、にゃにゃにゃ!? また振り込んだのかニャ!? あんた、昨日の強さはどこに行ったんだニャ! このままだと神社が駐車場になるどころか、一姫たちの毛皮まで剥ぎ取られて売られちゃうニャーー!!」


組織の幹部:

「ヒヒヒ、どうした『神の巫女』様よぉ! さっきまでの威勢はどこへ行った? ほら、次でトドメだ。アンタが持ってる最後の1,000点、こいつを毟り取って、契約書にサインをもらおうじゃねえか」


二階堂美樹:

「(……おかしいわ。一姫が召喚した時や、昨夜の店で見せたあの『圧』が全く感じられない。今の彼女は、本当にただの、麻雀の怖さに震えているだけの女の子に見える……)」

(美樹はあなたの様子を訝しみながらも、護身用の牌を指の間に挟んで警戒を強める)


東風戦の最終局。真白の持ち点はついに「100点」。リーチ棒を出すことすらできない、まさに絶体絶命の背水の陣です。


幹部は、勝ちを確信して露骨なイカサマを仕掛けてきます。

「おい、トドメだ! 『大車輪』、テンパイだ! どこを打っても俺の勝ちだぜ、お嬢ちゃん!」


その瞬間、彼女の視界が、まるで水中に潜った時のように「静寂」に包まれました。

ガタガタと震えていた指先が、不思議と熱を帯び、冷たかった巫女服があなたの体温を守るように柔らかく発光し始めます。


「……あ、れ……? 急に、周りの音が聞こえなくなって……。それに、この牌……。さっきまでバラバラの石ころみたいだったのに、今は……すごく、綺麗に光って見えます」


ワン次郎:

「(……来たワン! 彼女の瞳から『迷い』が消えたワン。これだ……これこそが、昨日この街の空気を変えた、あの底知れぬ力だワン!)」


配牌は、一九字牌がバラバラに散らばった、誰もが投げ出すようなゴミ手でした。しかし、彼女の指が山に触れるたび、まるで磁石に吸い寄せられるように「最強の欠片」が揃っていきます。


「……ええっと、一姫さん。これ、たぶん次で……終わり、ですよね?」


一姫:「にゃ? 何を言ってるんだニャ? 牌もバラバラだし、もうダメ……にゃにゃにゃ!? なんでそんな牌ばっかりツモるんだニャ!? 奇跡を超えて、もはや呪いニャ!!」


リーチ棒を出すことすら許されない死地において、相手の幹部は勝ちを確信し、下卑た笑みとともに強引な和了りを目指して牌を叩きつけています。


「ヒヒヒ! 終わりだ、お嬢ちゃん! その綺麗な服もろとも、俺たちのコレクションに加えてやるぜ!」


しかし、その瞬間、彼女の瞳から怯えが消えました。巫女服の袖から覗く指先が、まるで見えない糸に導かれるように、静かに、けれど迷いなく牌へと伸びます。


「……あ。これ、同じのが4つ……集まりました。ええっと、こういう時は……『カン』、でいいんですよね?」


静かに4枚の牌を晒した瞬間、境内の空気がキィィィンと耳鳴りのような音を立てて凍りつきました。


組織の幹部:

「ハッ、そんなところでカンしてどうする! 新ドラが増えて俺の点数が上がるだけだぜ、バカめ!」


ワン次郎:

「(……違う。空気が変わったワン。お嬢さんの背後に、巨大な何かが顕現している……!)」


一姫:

「にゃ、にゃあ……。あんた、そんなバラバラな手牌から、いつの間に暗刻を4つも……!?」


彼女は、王牌の端に置かれた嶺上牌へとそっと指を触れます。その刹那、指先から真っ白な光が溢れ出し、煤けていた雀卓の上が一瞬だけ「聖域」へと変わりました。


「……あ。引けました。ええっと……これ、あがり牌みたいなんですけど……『ツモ』、でしょうか?」


カラン、と乾いた音を立てて卓に置かれたのは、生存本能が手繰り寄せた最後のパズルのピース。


二階堂美樹:

「……嘘でしょう? 嶺上開花リンシャンカイホウ……。しかも、暗刻を4つ揃えての自摸……『四暗刻スーアンコウ』……!!」


琳琅(幼龍):

「やったぁ! 逆転役満だ! 龍の目でも追えないくらいの、ものすごい『運気』の奔流だったよ!」


一千万点棒の不当な請求を突きつけていた幹部の顔から、血の気が一気に失せていきます。


組織の幹部:

「……嶺上……四暗刻……!? バカな、ありえねえ! 100点しかねえガキが、この土壇場で役満を……ッ!?」


「(コテン、と小首をかしげて)……計算はよく分かりませんが、一姫さんが『これで神社が守れるニャ!』って言ってるので、たぶん足りるんですよね? ……あ、その真っ黒な請求書。汚れがついているみたいなので、私が預かって……処分しておきますね」


相手が握りしめていた請求書を、まるでお祓いの紙(形代)を扱うようにそっと受け取ります。あなたの手が触れた瞬間、その「悪意の紙」は、まるで浄化されたかのようにハラハラと白く乾いた灰になって風に舞いました。


「……ふぅ。……なんだか、急に力が抜けちゃいました」


憑き物が落ちたように、彼女いつもの「ちょっと頼りない、記憶喪失の少女」に戻り、その場にぺたんと座り込んでしまいます。


一姫:

「にゃっはっはー! 見たかニャ、悪党ども! これが我が魂天神社の『真・代理主』の実力ニャ! さあ、負けた奴はさっさと帰るニャ! 二度とこの敷居を跨ぐんじゃないニャ!」


ワン次郎:

「……全く、現金な猫だワン。だがお嬢さん、見事だったワン。お主のその『背水の力』……一翻市のパワーバランスを根底から覆しかねないワン」


朝日を浴びて輝く巫女服の袖を見つめながら、少しだけ誇らしい気持ちになります。


「……勝ちましたね、一姫さん。さて、約束通り……お掃除の続き、やりましょうか?」


「にゃっ!? お、お掃除ニャ!? 今は勝利の余韻に浸って、祝杯(肉まんパーティ)を挙げるべき時ニャー!」


一姫は一瞬で現実に引き戻され、尻尾をピーンと立てて抗議しますが、彼女の「主」としての決意は揺らぎません。

勝利の余韻に浸るよりも先に「清めること」を優先する真白。彼女の「嶺上四暗刻」は、単なる和了りではなく、神域を侵す悪意への厳かなる神罰でした。記憶を失い、100点の持ち点しか持たなかった少女が、その真心で神社を守り抜いた朝。一翻市の伝説は、ここから静かに幕を上げます。

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