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評価を失った悪役令嬢は、すべてを見返すことにした ~誰かに決められる人生なんて、もう終わりです~  作者: ルナ・ローゼ


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第3話 評価の外側という場所

 ――評価を動かす側。


 その言葉は、思った以上に厄介だった。


 足を止めたまま、わたくしは回廊の先を見つめる。

 カイゼルの姿はもうない。


 あの軽さで、あれだけ核心に触れてくる人間。

 信用する気はない。けれど、無視するには惜しい。


「……面倒ね」


 小さく呟く。


 けれど、嫌いではない。

 ああいう“ズレた人間”は、世界の綻びをよく知っている。


 だから。


 少しだけ、利用する価値はある。


 わたくしは歩き出した。

 回廊を抜け、学院の裏手へ向かう。


 夜の空気は冷たい。

 けれど、頭はよく冴えていた。


 ――評価の外側。


 それはつまり、“記録されない場所”のことだ。


 評価とは、誰かが見て、記録し、承認することで成立する。

 逆に言えば。


 見られていないものは、存在しないのと同じ。


「では」


 階段を降りながら、考える。


「どこが、見られていないのか」


 学院には、公式の評価がある。

 成績、推薦、素行、交友関係。


 すべて、記録される。


 けれど。


 すべてが記録されるわけではない。


 たとえば。


 夜。


 人の目が減る時間。


 あるいは。


 “評価する側”が見ていない場所。


 わたくしは足を止めた。


 裏庭の手前。

 普段なら誰も通らない通路。


 灯りも少ない。


 その代わりに――声がした。


「だから言ったでしょう、無理だって」


「うるさいな、やってみなきゃ分からないだろ」


 若い声。

 学生だ。


 わたくしは壁の影に身を寄せる。


 覗くと、二人の男子生徒がいた。

 制服は乱れている。成績優秀者の着こなしではない。


 片方が紙を広げている。

 もう片方は、落ち着きなく周囲を見回している。


「それ、本当に通るのか?」

「通るって。評価記録に反映されるように書いてるんだから」

「いや、だからその“書き方”が問題なんだろ……」


 ふうん。


 少しだけ、興味が湧いた。


 わたくしは影から一歩、出る。


「その書き方、見せていただける?」


「うわっ!?」


 二人が飛び上がった。

 片方は紙を落とし、もう片方はその場で固まる。


「な、なんだよ……って、え?」


 わたくしの顔を見て、言葉が止まる。


 無理もない。

 つい先ほどまで、大広間で断罪されていたのだから。


「ル、ルナ・ローゼ……?」

「ええ。今はただの“元”ですが」


 軽くスカートをつまむ。


 彼らは顔を見合わせた。

 逃げるかどうかを迷っている。


 逃げない方を選んだのは、少しだけ賢い。


「その紙、落としましたわ」


 拾って差し出す。


 受け取る手が震えている。

 緊張か、それとも別の理由か。


「……それで、何をしているの?」


「べ、別に……」


 目を逸らす。

 分かりやすい。


 わたくしは紙をちらりと覗いた。


 そこには、評価申請のフォーマットが書かれていた。


 ただし。


「……ずいぶんと雑ね」


「なっ」


「書式が古い。用語も統一されていない。それでは弾かれるわ」


 二人が顔を見合わせる。


「分かるのか?」

「ええ。一応は」


 元・中央監査局内定者ですもの。


「……なんでそんなの知ってるんだよ」

「知る必要があったからです」


 それだけだ。


 わたくしは紙を指差す。


「ここ。評価項目の順番が逆。これでは“推薦”ではなく“申告”扱いになる」

「え、違うのか?」

「ええ。推薦は“他者からの評価”。申告は“自己評価”。扱いが違うわ」


 二人が息を呑む。


 知らなかったらしい。


「じゃあ……これ、意味ないのか?」

「現状では」


 少し考える。


 そして。


「ただし、書き換えれば通る可能性はある」


「本当か!?」


 顔が明るくなる。


 単純でよろしい。


「ただし」


 わたくしは一歩、距離を取る。


「成功しても、評価が上がる保証はないわ」

「……どういうことだ?」


「評価は“通ること”と“認められること”が別だから」


 二人が黙る。


 いい反応だ。


「つまり」

「書類が通っても、上の人間が“価値がある”と判断しなければ意味がない」


 その通り。


「じゃあ、どうすれば……」

「それを考えるのが、あなたたちの仕事でしょう?」


 少しだけ、笑う。


「わたくしは、方法を教えただけ」


 彼らは顔を見合わせる。

 そして。


「……ありがとう」


 小さく、そう言った。


 わたくしは何も返さない。


 ただ、背を向ける。


 数歩歩いてから、ふと思う。


 ――今のは。


 わずかな変化だった。


 評価の外側。

 記録されない場所で、評価に触れる行為。


 それは。


 確かに“動いている”。


「……なるほど」


 少しだけ、楽しくなる。


 評価は、絶対ではない。

 少なくとも、完全ではない。


 隙がある。


 そして。


 それを知らない人間が、あまりにも多い。


 ならば。


 やることは決まっている。


 わたくしは夜空を見上げた。


「まずは、知ることから」


 誰が決めているのか。


 どこまでが固定で、どこからが動くのか。


 そして。


 どうすれば“決める側”に触れられるのか。


 そのためには。


 ――情報が足りない。


「やはり、あの男かしら」


 カイゼル・ドレイク。


 観察者。


 そして。


 おそらくは。


「“こちら側”ではない人間」


 その時。


「……探しているのですか?」


 声がした。


 振り返る。


 そこには、見覚えのある少女が立っていた。


 エリシア・ヴァレンティア。


 白いドレスのまま、夜の中に立っている。


 似合わないほどに、静かだった。


「こんなところでお会いするとは思いませんでした」


 彼女は微笑む。

 いつもの、柔らかい笑顔。


 けれど。


 その目は、少しだけ違った。


「……ルナ様」


 一歩、近づく。


「あなた、本当に――」


 言葉が止まる。


 わたくしは首を傾げた。


「何かしら」


 エリシアは、わたくしを見つめる。


 迷いと、確信が混じった目で。


「本当に、それでいいのですか?」


 その問いは。


 今までで一番、“正しい”ものだった。

断罪の外側で、少しずつ“動くもの”が見え始めました。


ルナは評価から外れたことで、逆に触れられるものが増えていきます。

そして、エリシアがここで登場する意味。


次話では、二人の“正しさ”が少しだけぶつかります。


もし少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。

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