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死生の境

注)11/22:戦闘描写の一新による字数調整。


5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。

なお、4/18までは、1日3回投稿します。次回は4/21平日からの投稿となります。

 ルルナの悲鳴のような警告。 肌を刺す殺気は同時だった。


「しまっ―――」


 振り返りざま、本能的に刀の鞘を盾にする。視界を埋め尽くす巨大な影。丸太のような棍棒が、空を裂く音と共に迫っていた。


 ドォォォォン!!


 衝撃は、防御の上からでも骨が軋んだ。アイダの体は木の葉のように吹き飛び、背後の巨木に叩きつけられる。


「ぐぅっ‥‥‥!」


 肺の中の空気が強制的に吐き出される。だが、アイダは倒れない。叩きつけられた反動を利用して、横に飛ぶ。直後、さっきまでいた場所に棍棒が振り下ろされ、巨木がへし折れた。

 土煙の中から現れたのは、通常の倍はあるゴブリンだった。全身に赤黒い紋様が浮かび、異様な圧力を放っている。


『対象を解析。種別―――ユニーク・ゴブリン(棍棒持ち)。推定実存強度は3。‥‥‥千年前の基準で申し上げます。戦車砲に耐え得る存在です』

「はっ。そりゃあ、刃も通らないわけだ」

『対してマスターの実存強度は1。千年前の人間の強度です‥‥‥勝率、極めて低。撤退を』

「なるほどな。だが、この強さ。こいつが村を襲撃している者達の指揮官ボスなんだろ?」


 指揮官なら合点がいく。道理でゴブリンどもが村を襲撃しようとするわけだ。組織としての行動だからこそ村の一つや二つを落とそうと思えるのだ。そしてこいつは趣味の悪いことに、破壊される村を、逃げ惑う人達を高台から眺めていたわけだ。


『マスター、聞いていますか。撤退を―――』

「ルルナ。あの子を追っているゴブリンの足止めはできるか? 聖霊魔法を使えばできるんじゃないのか?」

『‥‥‥足を止めることは可能です。ですが、出来るとは言っても120秒ほどの足止め程度しか』

「十分だ。それだけ、こいつをここに釘付けすればいい」


 120秒の足止めなら、あの少女はゴブリンから安全圏と言えるまでの距離を稼げるだろう。それで敵意はこっちに向くだろうからな、上出来と言える。それにどのみち、この化け物に背中を見せれば狩られる。なら、話は単純だ。


「サポートを頼む」

『っ‥‥‥了解、しました。戦闘予測、開始します』


 棍棒持ちが咆哮と共に突っ込んでくる。質量と速度の乗ったそれは、もはや回避不能の砲弾だ。

 死が迫る。だが、不思議と恐怖はなかった。


 ふっと世界が静まり返ったような気がした。そのなかで、ただ敵の行動の所作の行き先だけが、なぜかアイダには分かった。


(―――見える?)


 運動を禁じられた体で、何十万か繰り返した妄想の稽古の賜物なのか? 理由は分からない。今はイメージの中でだけで磨き続けた、あの抜刀を流れるように手の先に再現するだけだ。


 アイダが観ているその感覚を、ルルナが演算で補強する。筋肉の収縮、攻撃の軌道。それらが光のラインとなって視界に走った。


 棍棒持ちの攻撃を紙一重で躱し、すれ違いざまに斬撃を叩き込む。


 ガギィンッ!


 硬質な音とともに、刃が弾かれた。鋼のような皮膚。わずか走った傷口から陽炎のような蒸気が立ち昇り、瞬く間に塞がっていく。


『再生の陽炎を確認。実存強度の差により、有効打になりません』

「硬いうえに、治るのかよ‥‥‥!」


 攻撃は通らない。それでも、アイダは止まらない。口元には、獰猛な笑みすら浮かんでいた。


(ああ―――楽しい。これが、命のやり取りか!)


 二合、三合。棍棒の嵐を、最小限の動きで捌き続ける。四合目。振り抜かれた棍棒の、その戻り際、


(そこだ)


 渾身の抜刀が棍棒を握る右手首を捉えた。


 ギチッ、と確実な手応え。皮一枚―――いや、腱まで届いたはずだ。棍棒持ちが初めて苦悶の声を上げ、大きく飛び退く。傷口はすぐさま陽炎に覆われ、塞がっていく。


「ちっ、それも治るのかよ」


 直後、怒りに燃えた反撃が来た。フェイントを織り交ぜた三連撃。二撃までは見えた。だが、三撃目、振ろ降ろされた打撃を捌ききれず、アイダの体は宙を舞ってしまう。

 続けて、背中に丸太のような棍棒の一撃がめり込む。骨の折れる音。衝撃のままに木々に叩きつけられ、運の悪いことに―――突き出た太い枝がアイダの下腹部を貫いた。


「‥‥‥っ、がはっ」


 口から血が溢れる。鼻からは血が滝のように流れて止まらない。


 あー、これは死ぬな。他人事のように、そう思った。


ご一読いただきまして、ありがとうございます。

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