圧倒的なMMO
(注意)11/23:アルドに関する加筆修正あり。R7.8/27に演出につき、加筆修正をしています。
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
「にしても‥‥‥相変わらず、空は青くて奇麗だ」
木々の間から覗く空を見上げた。本物の刀を握って、こんな奇麗な空の下で格上と戦えているのだ。上等な二度目の人生じゃないか。視界の端、街道に少女の姿はもうない。逃げ切ったか。なら、俺の勝ちだ。
棍棒持ちが、ゆっくりと近づいてくる。獲物をしとめた満足を顔に浮かべながら、それでも足取りに警戒を残している。大した奴だ。ならばこちらも、最後まで武人でいなければ、申し訳ない。
声はもう出ない。腕も上がらない。それでも右手だけは、刀を離していなかった。
――そうだよな、最後まで付き合ってくれ。
棍棒持ちが足を止め、その棍棒を大きく振りかぶった。
しかし――、
「そこまでだ、悪鬼輩! このタンスイ・カブツが相手になってやるぜ!」
銀色の閃光が割り込み、振り下ろされた棍棒を受け止めた。白銀の甲冑に身を包んだ騎士――タンスイと名乗る若者だった。
「おっさん、よく生きてたな! へっ、丘の上でとんでもねえダンスを踊ってるのが見えたぜ。あんなデカブツ相手に―――って、うおっ!?」
軽口の途中で、若者は大きく弾き飛ばされた。数歩程度のたたらを踏み、驚愕に目を見開く。
「重っ‥‥‥! おいおい、ストラクト・フォンズの棍棒持ちとは全然違うぞ!?」
若者―――タンスイは即座に態勢を立て直し、大剣に黄金の光を纏わせた。
「スキル『旋風斬』!」
回転斬りが棍棒持ちに襲いかかる。同格以下を一掃する必殺技―――のはずだった。だがゴブリンはそれを棍棒でガードし、体勢を崩しながらも、タンスイの鎧に深々と爪を喰い込ませる。
「ぐっ!? 嘘だろ、旋風斬を防ぐかよ!?」
タンスイの顔から余裕が消えた。目の前の敵は彼の知る「ユニーク・ゴブリン」を遥かに超えた、未知の「本物」の怪物だったということだ。必死に大剣を振るうタンスイ。しかし、ゴブリンの猛攻は止まらない。じりじりと、確実に追い詰められていく。
その光景を、アイダは朦朧とする意識の中で観ていた。それは死を覚悟してこそ見出せた研ぎ澄まされた感覚だったのかもしれない。その感覚がアイダに冷静に告げる。
(あの若者は強い。だが、最後の一振りが直線的過ぎる。あのままでは‥‥‥いや、待て)
棍棒持ちの動きに、わずかな「偏り」があった。
(右の‥‥‥手首。俺が、斬った場所か)
再生の陽炎で塞がってはいる。だが、完治はしていない。棍棒を振るうたびに、奴は無意識に手首を庇っている。そのせいで重心がほんのわずか、左に流れる。振りかぶる瞬間―――左脇腹が、がら空きになっている。
(俺じゃ届かなかった。だが、あの若者なら‥‥‥!)
タンスイが棍棒を大剣で受け止め、両者の力が拮抗した。その一瞬。彼の視線が、助けを求めるようにアイダに向いた。アイダは尽きかけの命を燃やし、血反吐とともに、ただ一言を絞り出す。
「 ‥‥‥左、だっ!」
タンスイは一瞬目を見開き―――ニヤリと笑った。わざと大剣を押し込ませ、ゴブリンを前のめりにさせる。振りかぶりで開いた左脇腹めがけ、渾身の突きが唸った。
グシャリ、という鈍い音。
咆哮が、絶叫へと変わる。タンスイは即座に大剣を引き抜き、返す刀でがら空きになった首を刎ね飛ばした。
どう、と巨体が崩れ落ちる。
「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥。やってくれるじゃねえか、おっさん」
肩で息をしながら、タンスイは血の海に倒れるアイダを見下ろした。その目には、尊敬と困惑が入り混じっている。
「あの手首の傷‥‥‥あんたがつけたんだろ。ありゃ実存強度3の再生持ちだぜ? あんな化け物に一太刀入れて、揚げ句に急所まで見抜くとか‥‥‥あんた、何者だよ」
何者、か。ただの、元コンビニ店員だよ。答える声は出なかった。ただ―――届いたらしい。俺の一太刀は、無駄じゃなかったらしい。それが分かって、アイダは血まみれの口で笑った。
「タンスイ君、大丈夫!?」
駆け寄ってきたのは、中学生ほどの背丈の、猫耳の少女だった。
「ああ、俺は無傷だ。それよりも、おっさん―――いや、武芸者の手当を頼む!」
少女はアイダの傍らに膝をつき、小瓶の液体を口に注ぎ込んだ。
「大丈夫です! 私の作った特製の回復薬です。きっと良くなりますから!」
覗き込む少女の両目に、複雑な幾何学模様が淡く輝いていた。ルルナの制御式とよく似た光―――。
(この人は一体‥‥‥? 私の『鑑定眼』でも、情報がほとんど読み取れない‥‥‥!?)
少女の視界には、あまりにも不可思議な情報が浮かんでいた。
【対象名:アルド】
【ジョブ:???(解析不能)】
【状態:瀕死、呪怨(解析妨害)】
(‥‥‥アルド? この人の、名前? でも「古代人って何? ジョブが解析不能なんて、初めて見た‥‥‥)
薄れゆく意識の中で、アイダは少女の呟きを聞いた。
「この人『NPC』じゃ、ないかもしれない」
―――NPC? その、あまりに場違いな単語を最後に、アイダの意識は暗転した。
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