亜獣②
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
なお、4/18までは、1日3回投稿します。
激痛から声が出たが、アイダは体重を掛け続けた。ゴブリンは自身の出血が喉に溜まったのだろう、呼吸困難により、まもなく完全に動かなくなった。アイダはゴブリンの血と自身の血に濡れた自分の体を見下ろす。どうやら全身に過分な力を入れ過ぎていたらしく、体が小刻みな痙攣を繰り返していた。それに刀を持つ手も強張って、思うように動いてくれない。仕方がなく、もう片方の手で動かなくなった指を一つ一つ開かせて、ようやく刀を手放した。
「ふぅ、なんとか生き残った」
『マスター、流石です! 私はマスターなら勝てると思っていましたから。本当に素晴らしい戦いっぷりでした。私の余力もごくわずかですが、傷の手当を行います。これで、マスターの痛みが和やわらげばいいのですが・・・』
「ああ、ありがとよ」
ルルナの気遣いに笑顔を返したが、そのまま地面に座り込んでしまった。それもそのはずで初めての殺し合いだったのだ。体中の筋肉が強張っていて、元に戻る様子はない。ゴブリンと言えばファンタジーでは定番の登場人物だ。ゲームとかだったら、ゴブリンなんて倒せて当たり前なのだが、現実には相当に余裕のない戦いだった。アイダは、空を見上げて息を吐く。
おそらく、この世界では今のような殺し合いを俺は続けていくのだろうか。根拠なんてないのだが、多分そうなるだろうと確信に近い実感がある。アイダは刀に突いた血のりを見ながら、
「生きていくためには必要だとしても、楽しむ気にはなれないな」
『マスター、大丈夫ですか?』
「ああ、問題ない。ルルナの怪我の治療のおかげで、ずいぶんと楽になったよ」
聖霊魔法を使ってくれたルルナを労う。そして、服の裾で刀の血のりを拭いて、鞘に納めた。刀技に憧れる身としては複雑だが、技術を磨く為だけの殺生はしたくないと思う。しかし、刀技を真に身に付けていくには実戦もまた必要になってくるだろう。生き抜いていかねばならないことを理由にしての殺生は簡単だが、「なんとか折り合いを見つけていかないとな」アイダは手にした刀に目を落とす。俺の刀の技量として、一対一ならなんとか凌げる感触は得た。それに課題が見えたのも事実だ。やはり俺の技量不足は明白。チャンバラ程度の腕前では今後の戦闘は生き残れないと確信できた。本当は刀の師匠と呼べる人がいればいいのだが、それは望み過ぎというものか。まあ、村に行ってから考えよう。ん? いや、待て。何かがおかしい。
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