力の反動、求道者の道程
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
ユキナの言葉を遮るように、タンスイが元気よく割り込んできた。彼は先ほどまでブラッツ監査官の護衛兵たちに戦闘の自慢話をしていたはずだったが。
「亜獣を倒したんだから、食うのは当然っ! 亜獣料理だぜ? MMOじゃあ、ドロップ品を有効活用するのは基本だろ?」
やはりそう来たか、とアルドは内心でため息をつく。戦闘後、タンスイが率先してオークやコボルドの解体作業を行っていたのを見て、一抹の不安は感じてはいたのだ。
「いや、タンスイ殿。あれは生命結晶石を採取するためだと思っていたんだが?」
「もちろん、結晶石はレベル上げに必須だからな! だが、それだけじゃもったいねえだろ? せっかくMMO・・・じゃなくて、この世界に来たんだ。亜獣の肉だって食ってみなきゃ始まらねえぜ!」
悪びれもなく、目を輝かせて言うタンスイに、アルドは深い溜息を禁じ得なかった。(避難民たちの心情を考えろ、と言いたいが・・・)彼らにとって、オークやコボルドは家族や仲間を殺し喰った憎むべき敵だ。その肉を食べることに、どれほどの抵抗を感じるだろうか。弱肉強食を是とする世情、もしくは宗教的価値観の世であれば問題はないのだ。
そもそもタンスイが行っていた解体作業は慣れているとはいえ、かなり凄惨な光景だった。目を背ける者たちも幾人かはいた。つまり、少なからず忌避感があるということ。強引に事を進めては必ず村組織の分裂を促す。(まあ、大部分の避難民はその場にいなかったし、見ていたのは監査官や護衛兵、一部の村人だけだったが)、どうしたものか。アルドが頭を悩ませていると、ズキリ、と再びこめかみが痛んだ。
「大丈夫ですか? アルドさん。顔色が・・・」
ココミが心配そうにアルドの顔を覗き込む。
「ああ、問題ない。少し、戦闘の疲れが出たのかもしれないな」
アルドはこめかみを押さえながら、なんとか笑顔を作ろうとした。
その様子を見てとったユキナが冷静な提案をする。
「食糧については、まずは私たちが周辺で鹿や猪といった通常のケモノを狩り、それで賄えるか試してみますわ。幸いにして、この森は豊かなようですから。それでも不足するようでしたら、その時に改めて・・・ドルフ村の皆さんと、避難民の代表であるブラッツ監査官ともよく相談した上で、亜獣の肉を食材とするかどうか、慎重に検討するということでよろしいのではなくて?」
「・・・ああ、そ、それで、頼、む」
ユキナの的確な提案に頷こうとしたが、意に反して、アルドの視界がぐらりと揺れた。激しい頭痛と共に、胸が強く握り潰されるような圧迫感が襲ってくる。(心臓の持病は治ったはずだ、なのに何故急にあの頃の痛みが・・・?)立っていることすらできず、アルドは思わずその場に膝をついてしまった。
「アルドさん!?」
「お、おい、おっさん!?」
ココミとタンスイの慌てた声が遠くに聞こえる。意識が急速に暗闇に飲まれていく中で、ふわりとした温かい光――ルルナの蒼綿毛が、アルドの体を優しく包み込むのを感じた。
◇
アルドは見慣れた村長宅(今はミアの家だが、仮の拠点となっている)の一室の寝台の上で荒い呼吸を繰り返していた。動けなくなったアルドをタンスイが運び込み、ココミが作った特製の回復薬を飲ませてくれた。ユキナは、アルドが倒れたことで村人や避難民に動揺が広がらないよう、状況説明と今後の指示のために広場に残っている。ココミはアルドの治療のために、厳選した回復薬をアルドに飲ませていた。それをタンスイが見守っている。
(意識はかろうじてあるが、また皆に迷惑をかけてしまったな)
ご一読して下さいましてありがとうございました!
個人的な感想としては、力の反動は筋肉痛みたいなものですから、アルドのように悲観的に考えなくてもよいように思うのですけど。でも、アルドのように努力が実のならない人生を歩いていると、そのように受け止めてしまうのでしょうか・・・。




