亜獣①
注)11/22 加筆修正しました。戦闘描写の一新。
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
なお、4/18までは、1日3回投稿します。
瞬間、アイダの意識が強制的に右後方へと引き寄せられた。視界には何もない。だが、地面から伝わる微かな震動が、脳内で『映像』として再構築される。茂みの奥に潜む質量、筋肉の収縮、蹴り出される地面の反発力―――それらが手に取るように分かった。
「ッ!?」
茂みを割って現れたのは、緑色の肌をした小鬼――ゴブリンだ。粗末な棍棒を振り上げ、涎を撒き散らしながら突っ込んでくる。 かつてのアイダなら、恐怖で足がすくみ、戦意など湧き上がらなかっただろう。 だが、今のアイダは、無意識に口元を歪めていた。恐怖ではない。この体が、そして手にした刀が、戦いを歓迎している。
『土属性標準制御式、展開』
ルルナの凛とした声と共に、アイダの周囲の空間に、微細な幾何学模様――魔法の制御式が展開された。
『――足場固定。摩擦係数、最適化』
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。ゴブリンが棍棒を振り下ろす。その凶悪な一撃に対し、アイダは無意識に回避行動をとっていた。通常なら土に足を取られるはずの不整地。だが、アイダが足を踏ん張ったその瞬間、土がコンクリートのように硬質化し、絶対的なグリップ力を生み出した。土属性の概念【定着】による、物理干渉だ。
(滑らない・・・!?)
完璧な足場を得て、回避は神速の域に達する。 豪風と共に棍棒が鼻先を掠める。恐怖はない。あるのは、大地と一体になったような揺るぎない安定感。
『マスター! 敵の頸動脈へ。―――刃縁、硬化』
脳内に響く冷静な指示。アイダの体は、その攻撃目的である部分に、引き絞られた弓のように爆ぜる。
踏み込み、抜刀。
その刹那、鞘走る刀身に土属性の魔力が纏わりつく。カロリックが刃にさらなる鋼を生成する。その鋭利な鋼の刃が、生命を殺す切れ味を生む。
―――ザンッ!
手に伝わる、肉を断つ重厚かつ滑らかな感触。すれ違いざま、ゴブリンの首から鮮血が噴き上がる。小鬼は自分が斬られたことすら気づかぬまま数歩進み、どうっと地面に崩れ落ちた。
「ふぅ・・・」
アイダは刀を振り、こびりついた血糊を払う。 刀身に帯びていた淡い光――土属性の魔力残滓が、ふわりと霧散した。
「すごいな、ルルナ。これが、お前の力か?」
『いいえ、マスター。私は大地を整え、剣をわずかに研ぎ澄ませたに過ぎません。それを使いこなし、一撃のもとに敵を屠ったのは、紛れもなくマスターご自身の「武の才」です』
ルルナの声が、どこか誇らしげに脳裏に響く。
千年後の世界。AIの演算と、聖霊の力。そして、若返ったの肉体。これらが組み合わさった今、恐れるものなど何もないように思えた。
「大地を整える、か。最高のサポートだ」
アイダはカチリと刀を鞘に納めた。 ただの中年男だった自分が、異形の怪物を一撃で葬った。その事実は、これから始まる過酷な世界での生存を予感させるには十分すぎる「希望」だった。
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