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刀武家なる者①

5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。

*GW期間はまだまだありますので、5/5と5/6は夜の投稿を予定しております。


 闇が夜気を吸って、しんと静まり返っている。


 村のはずれ。

 真夜中の静寂は肌に冷たく、アルドは松明の頼りない灯りを頼りに小道を歩いていた。その小道は、人が一人ようやく通れるほどの道幅で、むき出しになった石ころに時折足を取られそうになってしまう。


 ひやりとした夜風がアルドの頬を撫で、背後へと吹き抜けていった。ふと歩みを止め、振り返れば遠くにドルフ村の篝火かがりびが数点――小さな灯火のように揺らめいているのが見えた。


 村の周囲の警邏は、先ほどココミに交代したばかりだ。割り当てられた家屋に戻り、休息をとるべき時間なのは分かっている。だが、どういうわけか少しも眠気が訪れなかった。脳内でルルナに相談してみると、『聖霊魔法で強制的に睡眠状態にすることも可能ですが・・・マスター、何か気がかりなことでも?』と、逆に問い返されてしまった。


(気がかり、か・・・)


 そう言われても、はっきりとは分からない。だが、胸の奥で昼間の出来事――否、この世界に来てからの戦いの記憶がずっとくすぶっているような感覚があった。ゴブリンとの死闘、そしてユニーク・ゴブリンに為すすべもなく打ちのめされた己の姿。結局は、MMOプレイヤーたちの力に助けられたこと。


(力が、足りない)


 自嘲気味に笑う。村の復興を手伝う。それも大事だ。だが、当初の目的――二度目の生を得たこの世界で、果たせなかった武術への道を歩むこと。その想いは消えてはいない。しかし、襲撃された村を見捨てられず、成り行きで「聖霊の使者」などという立場に祭り上げられてしまった。必死に生きようとする人々を目の前にして、己が刀を振るうことの意味を改めて問われた気がしたのだ。


「・・・なんにせよ、力が足りなさ過ぎる。俺はただのおっさんでしかないのは分かっている。だが、今から鍛えれば戦う力を・・・いや、どれだけ強くなれるって言うんだか」


 思わず漏れた弱音に、脳内から声が響く。


『マスターは、ご自身の力に不安を感じていらっしゃるのですか?』

「ルルナか。不安、というよりは・・・悔しい、んだろうな。もっと本気で、若い頃から武術に取り組んでいれば、なんて、今更な感傷だけどな」


 心臓の病気を言い訳にして、道場から足が遠のいたのは自分自身だ。何もかも、自業自得。それは分かっている。だが、この手にある刀は、ただがむしゃらに振るうだけでは応えてくれないだろう。刀剣の術理、その真髄に至る道は、凡才たる自分にはあまりにも遠い。師もいないこの世界で、どうやって技を磨いていけばいいのか。できることといえば、記憶にある居合の型を繰り返すことくらい。それも、我流の域を出ない拙いものだ。


(ま、結局はただのおっさん、か・・・)


 ため息が漏れた、その時。


『いいえ、マスターは最強です!』


 ルルナの、迷いのない声が響いた。根拠のない、しかし確信に満ちた響き。


「はは・・・ありがとよ。そう言ってくれるだけで、頑張れる気がする」


 アルドは苦笑しつつも、胸が少し温かくなるのを感じた。そうだ、くよくよしていても始まらない。MMOプレイヤーたちのように派手なスキルはないが、自分には自分のやり方があるはずだ。昨日より今日、今日より明日へ。少しでも前に進むために、今できることをするべきだ。


 なら、さっそく練習だ。まずは、あの抜刀の型。あれだけが今の俺が唯一、形にできる技だから。


「そういえば、タンスイは俺を見て『刀武家』とか言っていたな。あれは何のことか分かるか?」

『はい。それは、マスターが刀剣の術理において、いずれ至高の領域へと至る存在である、ということです』

「えっ? つまり、最強ってことか? さっきも言ってみたいだけど」

『はい!』

「いや、まあ・・・そうか。後ろ向きは良くないからな。余計なことは考えずに、練習あるのみ、だ」


 ルルナの言葉の真意は測りかねるが、今は目の前のことに集中しよう。


 練習する場所を求めて、知らず知らずのうちに足はあの場所へと向かっていた。森の中の、古びた祠。ゴブリンと初めて遭遇し、そしてユニーク・ゴブリンに打ちのめされた場所だ。あの時の恐怖と屈辱、そして強者への憧憬が、鮮明に蘇る。


(記憶に焼き付いてしまっている・・・だが、好都合だ)


 脳裏に、あの緑色の肌をした小鬼ゴブリンの姿を思い描く。あの時、為すすべもなかったゴブリンを相手に、今ならどう動く?

 アルドは腰の刀――祠に奉納されていた業物に手をかけ、ゆっくりと柄を握りしめた。精神を集中させ、呼吸を整える。


 その瞬間。


 ――ん? なんだ?


 握りしめた刀が、まるで生きているかのように微かに脈動し始めた。それと呼応するように、目の前の古びた祠も淡い光を放ち始める。


「は?」


 アルドが戸惑いの声を上げたのと、ルルナの声が脳内に響いたは、ほぼ同時だった。


『マスターの意志が、この地と刀を繋ぎました。これにより無道乖離むどうかいりへの道が開かれます。ご準備を!』

「ルルナ? 無道乖離って、一体何を言って――っ!?」




ご一読いただきまして、ありがとうございます。

もしよろしければリアクションをば、宜しくお願いします。

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