ドルフ村④
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
*GW期間の平日(5/1、2)は、午前と午後の計2回投稿(1日2回)します。
投稿時間は朝と夜を予定しております。
ココミが「お花、可愛いのに・・・」と残念そうに呟いている。話を聞けば、ココミが再建する家屋のデザインとして、玄関しかり窓辺しかり、そして壁全面しかりと花でいっぱいに飾り付けたいという。しかし、主に男性の村人から「気恥ずかしい」「前のままでいい」という意見が出ているらしい。
(なるほど、土地の境界線問題とかじゃなくて、デザインの好みか・・・)
少し拍子抜けしたが、平和な悩みではある。しかし、この復興作業はただ元通りにするだけでなく、村を再編する意味を込めたい。これを機会にして、より良い村にしていくべきだろう。
「まあ、それも一つの意見だろうが、せっかく新しくするんだ。少し考えてみないか?」
アルドはココミと村人たちに語りかける。
「実は今回の復興に合わせて、村の区画整理をしてみてはどうかと考えていた」
「区画整理、ですか?」
ココミがきょとんとした顔で聞き返す。
「そうだ。現状の村は、道が入り組んでいて少し分かりにくいだろう? これから村が大きくなっていく可能性も考えて、今のうちに大通りを中心に、商業地区、住宅地区、そして役場区画を設けてはどうだろうか。そうすれば、見た目も整うし、機能的にもなる」
これは先ほどユキナに深読みされた「一手」というわけではないが、純粋に村の将来を考えてのことだ。
「わぁ! それ、すごくいいですね!」
アルドの提案に、ココミがぱっと顔を輝かせた。
「広い大通りができたら、そこに私のお店を開きたいです! 小さいけど、可愛い錬金術のお店で、薬とか、甘いお菓子とかを売るんです。そして、村の人の困りごとなんかを解決できたら素敵だなって。そんな夢が叶ったらいいなって」
目をキラキラさせて自分の夢を語るココミの姿は、年相応の少女そのものだ。
「ココミ様のお店、とっても素敵です!」
隣で聞いていたミアも、興奮した様子で声を上げる。どうやら女の子同士、通じるものがあるらしい。アルドは微笑ましく思いながらも、ミアに向き直り、あえて敬称をつけて尋ねた。
「ミア様はこの計画について何か付け加えたいことはありませんか? この村の長は、ミア様なのだから」
あくまで復興の主体はミアであることを示す。それが彼女の成長に繋がり、ひいては村の未来のためになるはずだ。ミアは少し考え込む仕草を見せた後、はっきりとした口調で答えた。
「はい、アルド様。その計画で進めたいと思います。それでお願いがあります。大通りは商業地区になるとのことですから、ココミ様のお店もできますよね? だから、大通りにはたくさんお花を飾ってもらいたいです。きっと、とっても可愛くなると思います!」
「なるほど。確かに、花で飾られた大通りは商業地区も映えるだろうな」
アルドは大きく頷き、ミアの頑張りを労うように、その小さな頭を優しく撫でた。
(まだ12歳なのに、本当に立派なものだ)
傍から見れば、まるでミアの後見人のように見えただろう。こうして聖霊の使者アルドが次期村長ミアを支える、という構図は、村人たちの目に自然と焼き付いていく。
基本的な方針が決まると、ココミは早速、懐から羊皮紙のようなものを取り出した。いよいよ彼女の聖霊魔法が披露される。興味深そうに、ルルナである蒼綿毛もココミの手元に近寄っていく。おそらく制御式とやらを観察したいのだろうな。
「ココミさん、それは?」
アルドが尋ねると、ココミは少し照れたように答えた。
「はい。これは私たちがいた国ーーーストラクト・フォンズで学んだ生活系の魔法なんです。こうやって完成のイメージを込めます」
ココミが羊皮紙に手を置き、集中する。すると、羊皮紙の表面に複雑な幾何学模様が淡い光と共に浮かび上がり、見る見るうちに一つの形を成していく。これがココミの制御式か。どの程度の規模の魔法なのだろう?
やがて光が収まると、出来上がった制御式が羊皮紙の上で輝いている。ココミはそれを、まるでシールの台紙から剥がすかのように、ぺりっと丁寧に剥がし取った。
「え?」
思わずアルドは声を上げた。魔法陣や呪文とは全く違う。制御式をシールのように扱って、それを地面に貼り付けるとは。あまりにも予想外の光景だ。
ココミが制御式の描かれた羊皮紙を、区画整理を始める地点の地面にぴたりと貼り付ける。すると、地面が唸りを上げ、土がひとりでに動き出した。みるみるうちに地面が平らにならされ、計画された大通りの道筋が形作られていく。
しかし、しばらくするとその動きは止まった。道はできたが、表面はまだ剥き出しの土のまま。
「えーとですね・・・」
ココミが少し困ったように説明する。
「イメージしたのは石畳の大通りなんですけど、材料の石材が足りないみたいで。制御式は石材が供給されるまで、この状態のままなんです。でも、この制御式の近くに石材を置けば、自動的に石畳を敷き詰めていきます。十分な資材が集まれば石畳の大通りの完成なんですけど・・・」
ああ、なるほど。とアルドは合点がいった。ココミの聖霊魔法は、千年前の世界で言うところの設計図兼、自動建設機械のようなものか。重機や工場設備が、この小さな制御式に凝縮されていると考えればいいのかもしれない。
(制御式が機械装置の役割とは・・・斬新だ)
『マスター。聖霊魔法の生活系とは、概ねそのようなものです』
ルルナが脳内で補足する。
(え? そうなのか? 攻撃魔法とは随分と違うんだな)
俺のイメージするファンタジーの魔法とは異なり、生活系の魔法はより実用的で、文明の利器に近い働き方をするらしい。
(なんていうか、魔法って予想外過ぎるっていうか・・・不思議なもんだ)
結局、材料不足のため本格的な舗装や建築は後回しになった。まずは村人たちが安心して眠れる場所を確保するのが先決だ。ココミは村の中央広場に、再び聖霊魔法で簡易的な宿舎をいくつか建てていく。もちろん材料は、半壊した家屋の使える部分を資材としてリサイクルする。エコなのは良いが、やはり根本的に材料が足りていない。これは早急に手を打たねばならない課題だな。
それでも、あっという間に一部屋だけの小さな家がいくつも完成していった。
「家族ごとに一軒ずつ使えるように、ちゃんと戸別にしました。プライバシーは大事ですからね!」
ココミが得意げにふんすと言う。確かに、集団生活になったとしても、最低限のプラベート空間は必要だ。そこまで配慮が行き届くとは、さすが生活職1位ってわけだ。
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