ドルフ村②
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
*GW期間の平日(4/30、5/1、2)は、午前と午後の計2回投稿(1日2回)します。
投稿時間は朝と夜を予定しております。
アルドの内心の叫びが聞こえたかのように、ルルナの声が脳内に響いた。
『マスター、どうかなさいましたか?』
(いや、どうしたもこうしたも・・・俺がただ人手を呼び戻そうって話しただけなのに、ユキナはやけに感心してるし、ミアはキラキラした目で見てくるし、ロウが何か言ったみたいなんだが俺にはさっぱり分からん!)
アルドが脳内で早口に説明すると、ルルナは少し間を置いてからいつもの冷静な声で解説を始めた。
『なるほど、そういうわけでしたか。ユキナのような人物は、常に複数の可能性とその利害を天秤にかけて思考するものです。マスターの「出稼ぎ労働者を呼び戻す」という、一見単純な提案を、彼女は現在の周辺状況における極めて重要な戦略的布石と解釈したのでしょうね』
ルルナは続ける。
『ユキナはおそらく、このドルフ村の歴史的背景と地理的条件を瞬時に計算に入れたはずです。帝国の庇護下にあるとはいえ、ドワッフ王国との繋がりが深いこの村。その人的資源をまず確保するというマスターの一手は、今後の選択肢――帝国との関係を強化するのか、ドワッフ王国との新たなパイプを築くのか、あるいは独立した第三勢力としての道を模索するのか――そのいずれを選ぶにしても、絶対に欠かせない盤石な基盤を築くための、凡庸に見えて、実は最も有効な一手に映った。特にゴブリンの被害が周辺地域にも及んでいる可能性が高い場合、この村が避難民の受け皿となり、一大勢力に成り得ると見越したのかもしれません』
『そして、マスターがそこまで見越した上で「どう思う?」と、まるで彼女の力量を試すかのように問いかけたと感じた。だからこそ、ユキナは自身の分析と思考の深さを示すことで、マスターの信頼に足る策謀家であると、自分自身をアピールした。そういうことでしょうね』
(え? いや、だから俺は人手が欲しいと思っただけで、そんな難しいことは何一つ・・・)
アルドが内心で呆気に取られていると、ルルナは少しだけ感情的な響きを声に乗せて付け加えた。
『ちなみに、ユキナがマスターに妙に接近してくるのは、おそらくマスター、ひいては聖霊である私を取り込もうとしているからでしょう。彼女はマスターを女性としての魅力で篭絡し、この村の、そして聖霊の力さえも手中に収めようと考えている。なかなか鋭いですが、少々、癪に障りますね』
『ですから、私もココミさんに接近して、彼女たちの内情を探ると共に、ユキナへの対抗策を講じているのです。彼らの中心はどうやらギルドマスターであるココミさんのようですから。もっとも、マスターは感覚で物事を判断される方。私がその思考を補い、支えることで、ユキナの策謀に嵌る心配などありませんが・・申し訳ありません。これは余談でした』
そして、ルルナは再び冷静なトーンに戻る。
『ロウがミア様に耳打ちしたのは、もっと単純なことでしょう。つまり、「アルド様は村を見捨てずに、この村が最も良い方向へ進むように考えて下さっている」ということです』
(見捨てず・・・いや、まあ、そうなんだが)
『ええ。ミア様にとって、アルド様がこの村の未来を真剣に考えてくれている、それだけで十分な希望なのです。だから、あのように安堵し、期待の眼差しを向けたのですよ』
(ああ、そういうことか・・・)
ミアのキラキラした瞳の理由が分かり、アルドは少し照れくさいような、しかし同時に身が引き締まるような思いを感じた。
(なるほど。やはりルルナの説明は分かりやすい。それにしても、俺の一言がここまで深読みされるとはな・・・。聖霊の使者ってのも、なかなか大変な役回りだ)
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