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ドルフ村④

注)10/17に加筆修正。ココミの「お花を~」の部分から感じるMMO組に対する違和感を修正しました。


5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。

*GW期間の平日(5/1、2)は、午前と午後の計2回投稿(1日2回)します。

投稿時間は朝と夜を予定しております。


 ココミが「お花、可愛いのに‥‥‥」と残念そうに呟いている。周りを見渡せば困惑の表情が見てとれた。MMO組とのギャップが顕在化したともいえる。村人たちからすれば、命からがら生き延び、今日明日の食料さえも万全ではないこの状況で、あまりにも現実離れ―――楽観的な提案に聞こえてしまうからだ。ここでMMO組と村人との対立を呼び込むことは得策ではない。


 アルドは黙ってココミの目を見つめた。そして、ゆっくりと口を開く。その声は、彼女の意見を否定するものではなく、優しく諭すような響きを持っていた。


「ココミさんの気持ちは、とても嬉しい。ありがとう。村を美しくしたいというその想いは、絶対に失くしてはいけないものだ」


 彼は一度、そこで言葉を切った。そして村全体を見渡しながら、より一層、真剣な声で続ける。


「だが、今はまず、生き残るための基盤を固めるのが最優先だ。 雨風をしのぐ屋根、獣や魔物を阻む壁、そして冬を越すための食料。これらがなければ、俺たちは花を愛でることもできない。‥‥‥今は、歯を食いしばって、泥にまみれる時なんだ」


 アルドの言葉は、その場にいる誰もが心の内で思っていたことだった。村人たちが抱くであろう「そんな場合じゃないだろ」という至極もっともな感覚を、アルド自らが代弁したのだ。ココミは「‥‥‥はい、そう、ですよね」と少し俯く。


 しかし、アルドはそれで話を終わらせなかった。彼は俯くココミに向かって、力強い笑みを浮かべてみせる。


「だから、これは目標にしよう」

「え‥‥‥?」

「村の再建が一段落し、誰もが安心して眠れるようになったら、その時は、みんなで花を植えよう。村中が花でいっぱいになるくらいにな。それが、俺たちがこの悲劇に打ち勝ち、ここで生活を再建したという『勝利の証』だ。 辛い時には、その花畑を思い浮かべて、もうひと踏ん張りするんだ」


 アルドの言葉に、村人たちはハッとした表情で顔を上げた。 それはもう、単なる装飾の話ではなかった。 未来への希望。苦難を乗り越えた先にある、確かな約束としてアルドは皆に提示して見せる。見渡せば、先ほどの困惑が消え去り、一致団結する気概が見て取れた。

 そして、ココミも、アルドの言葉にハッとして顔を上げた。ただ自分の意見を否定されたわけではない。もっと大きな、村全体の未来のために、自分の夢を位置づけてくれた。そのことが分かった瞬間、


「勝利の‥‥‥証!  それ、すごくいいですね!」


 アルドの提案に、ココミがぱっと顔を輝かせた。


「そして、そのためにもココミさんには村の区画整理をしてもらいたい」

「区画整理、ですか?」


 ココミがきょとんとした顔で聞き返す。


「そうだ。現状の村は、道が入り組んでいて少し分かりにくいだろう?  これから村が大きくなっていく可能性も考えて、今のうちに大通りを中心に、商業地区、住宅地区、そして役場区画を設けてはどうだろうか。そうすれば、見た目も整うし、機能的にもなる」


 これは先ほどユキナに深読みされた「一手」というわけではないが、純粋に村の将来を考えてのことだ。


「広い大通りができて村がお花でいっぱいになるときが来たら、そこに私のお店を開きたいな。 小さいけど、可愛い錬金術のお店で、薬とか、甘いお菓子とかを売るんです。そして、村の人の困りごとなんかを解決できたら素敵だなって。そんな夢が叶ったらいいなって」


 これから先の未来に、目をキラキラさせて自分の夢を語るココミの姿は、年相応の少女そのものといえた。


「ココミ様のお店、とっても素敵です!」


 隣で聞いていたミアも、興奮した様子で声を上げる。どうやら女の子同士、通じるものがあるらしい。アルドは微笑ましく思いながらも、ミアに向き直り、あえて敬称をつけて尋ねた。


「ミア様は、ほかに何かご提案はありませんか?  この村の長は、ミア様なのだから」


 あくまで復興の主体はミアであることを示す。それが彼女の成長に繋がり、ひいては村の未来のためになるはずだ。ミアは少し考え込む仕草を見せた後、はっきりとした口調で答えた。


「はい、アルド様。その計画で進めたいと思います。それでお願いがあります。大通りは商業地区になるとのことですから、ココミ様のお店もできますよね?  だから、大通りにはたくさんお花を飾ってもらいたいです。きっと、とっても可愛くなると思います!」

「なるほど。確かに、花で飾られた大通りは商業地区も映えるだろうな」


 アルドは大きく頷き、ミアの頑張りを労うように、その小さな頭を優しく撫でた。


(まだ12歳なのに、本当に立派なものだ)


 傍から見れば、まるでミアの後見人のように見えただろう。こうして聖霊の使者アルドが次期村長ミアを支える、という構図は、村人たちの目に自然と焼き付いていく。

 基本的な方針が決まると、ココミは早速、懐から羊皮紙のようなものを取り出した。いよいよ彼女の聖霊魔法が披露される。興味深そうに、ルルナである蒼綿毛もココミの手元に近寄っていく。おそらく制御式とやらを観察したいのだろうな。


「ココミさん、それは?」


 アルドが尋ねると、ココミは少し照れたように答えた。


「はい。これは私たちがいた国ーーーストラクト・フォンズで学んだ生活系の魔法なんです。こうやって完成のイメージを込めます」


 ココミが羊皮紙に手を置き、集中する。すると、羊皮紙の表面に複雑な幾何学模様が淡い光と共に浮かび上がり、見る見るうちに一つの形を成していく。これがココミの制御式か。どの程度の規模の魔法なのだろう?

 やがて光が収まると、出来上がった制御式が羊皮紙の上で輝いている。ココミはそれを、まるでシールの台紙から剥がすかのように、ぺりっと丁寧に剥がし取った。


「え?」


 思わずアルドは声を上げた。魔法陣や呪文とは全く違う。制御式をシールのように扱って、それを地面に貼り付けるとは。あまりにも予想外の光景だ。

 ココミが制御式の描かれた羊皮紙を、区画整理を始める地点の地面にぴたりと貼り付ける。すると、地面が唸りを上げ、土がひとりでに動き出した。みるみるうちに地面が平らにならされ、計画された大通りの道筋が形作られていく。

 しかし、しばらくするとその動きは止まった。道はできたが、表面はまだ剥き出しの土のまま。


「えーとですね‥‥‥」


 ココミが少し困ったように説明する。


「イメージしたのは石畳の大通りなんですけど、材料の石材が足りないみたいで。制御式は石材が供給されるまで、この状態のままなんです。でも、この制御式の近くに石材を置けば、自動的に石畳を敷き詰めていきます。十分な資材が集まれば石畳の大通りの完成なんですけど‥‥‥」


 ああ、なるほど。とアルドは合点がいった。ココミの聖霊魔法は、千年前の世界で言うところの設計図兼、自動建設機械のようなものか。重機や工場設備が、この小さな制御式に凝縮されていると考えればいいのかもしれない。


(制御式が機械装置の役割とは‥‥‥斬新だ)

『マスター。聖霊魔法の生活系とは、概ねそのようなものです』


 ルルナが脳内で補足する。


(え?  そうなのか?  攻撃魔法とは随分と違うんだな)


 俺のイメージするファンタジーの魔法とは異なり、生活系の魔法はより実用的で、文明の利器に近い働き方をするらしい。


(なんていうか、魔法って予想外過ぎるっていうか‥‥‥不思議なもんだ)


 結局、材料不足のため本格的な舗装や建築は後回しになった。まずは村人たちが安心して眠れる場所を確保するのが先決だ。ココミは村の中央広場に、再び聖霊魔法で簡易的な宿舎をいくつか建てていく。もちろん材料は、半壊した家屋の使える部分を資材としてリサイクルする。エコなのは良いが、やはり根本的に材料が足りていない。これは早急に手を打たねばならない課題だな。


 それでも、あっという間に一部屋だけの小さな家がいくつも完成していった。


「家族ごとに一軒ずつ使えるように、ちゃんと戸別にしました。プライバシーは大事ですからね!」


 ココミが得意げにふんすと言う。確かに、集団生活になったとしても、最低限のプライベート空間は必要だ。そこまで配慮が行き届くとは、さすが生活職一位ってわけだ。


ご一読いただきまして、ありがとうございます。

もしよろしければリアクションをば、宜しくお願いします。

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