第191話 忘却の某客
残りの大きな予定は、メレスに俺のいた世界のスパイスについて教えることだな。
メレスは俺のいる街にはあまり詳しくないということで、ディニエルが俺の家まで案内してくれた。
案内はディニエルの方から申し出たようで、俺への連絡が遅れたことを気にしていたみたいだ。
……話し方とか性格はちょっと変わってる印象だけど、そういったところはきちんとしているんだよな。
メレスは俺の家を見て、
「異世界から来たのに、こんな立派な家を建てているなんてねぇ。……何か、悪い事をしているとか、ないわよねぇ?」
と、ジト目で見てきた。
俺は慌てて、
「いやいや。えっと、俺の持つ異世界の知識が思いのほかあちこちで役立ってな。……俺としてはそんなに儲けるつもりじゃなかったんだけど、教えた相手も報酬はきちんと受け取って欲しいと引かなくてな」
と言い訳をした。
「ふふふっ、冗談さね。……この世界には異世界の知識がそこそこ持ち込まれているはずだけど、それでもまだまだ需要があるのねぇ。いえ、私もそれを知りたがっている一人だし、人の事は言えないか。……え、ちょっと待って。もしかしてハクトから知識をもらうのって、かなりお金が必要なのかい!? もちろん、何かしらのお礼はするつもりだったけれど、あんまり高い金額は払えないわよぉ!」
「いやいやいや。そもそもお礼を貰うつもりはなかったよ。ただ、錬金術というのに興味があって、今度時間がある時にメレスのお店にお邪魔させてもらえたら、とはちょっと思っていたけど。ああ、それと、ディニエルから聞いてるかな? スパイスを買いたいって希望している人がいるんだ」
「……それなら安心さね。それと、買いたい人がいるってのも聞いているわ。料理が得意な人たちって聞いているし、そういう人たちからの注文って、何か新しい発想が得られたりするのよねぇ。だから、そっちも楽しみにしてるわ」
まあ、ソフィアは変わっているけど、食事関係の知識はすごいからな。
異世界の知識だけでも、俺以上にあるだろうな。
……あれ、これって俺必要ないのでは?
いや、流石にソフィアは異世界のハーブソルトの味までは知らないか。
焼肉のたれも食べたことはなかったしな。
◇
というわけで、俺の家にある会議室に案内した。
ソフィアとメイはいつものように図書館にいるはずなので、すぐに呼びに行くことにした。
……図書館と教会にあるソフィアの部屋とは転移門で繋がっているとはいえ、教会の巫女がほとんどこっちにいるのはいいのだろうか?
まあ、それは俺が悩むことではないな、と思いながら図書館に行くと案の定二人ともいたので、メレスを待たせずに済んだな。
ちなみに、メレスはまだソフィアとは会ったことがないので図書館に入る許可は出ていない。
ディニエルの知り合いだし、話した感じでは連れてきても大丈夫だとは思うけど、まあそれはソフィア次第だな。
さて、二人を連れて会議室に戻って来たのだが……、
「戻って来たみたいねぇ。それじゃ、軽く自己紹介でもさせてもら……」
と、二人の方を見たメレスが固まってしまった。
急にどうしたんだろう?
……と思ったら、ギギギ、と音を出しそうな動きで、メレスは首から上だけをこっちに向けてきた。
「ハ、ハクト。……あの、黒い髪の女の子、パレードで見た闇魔皇様にそっくりなんだけど、どういうことだい?」
あ。
……そういえば、メレスはどの魔皇にも会ったことがなかった。
それと、前回メレスに説明した時は、魔皇じゃなくて偉い魔族って誤魔化して話をした気がするし、何も知らない状態で魔皇が出て来た、ってことになってしまってる。
最近まで魔界に旅行に行っていたのもあって、うっかりしていた。
ど、どうしよう。
……今はそっくりさんってことにして、メイと親しくなった辺りで改めて教えれば、大丈夫だろうか?
「本人。メイさん。煮込み料理が得意」
……いや、ディニエル。
なぜ今得意料理の情報を出した。
そして、俺の考えたそっくりさん作戦は使えなくなったな。
まあ、元々それで誤魔化せたかはわからないけど。
なんて考えていると、メレスは俺からディニエルに向き直り、肩を掴んで揺らしながら、
「どうして闇魔皇様がここにいるんだい!? というか、ディニエルはどうしてそんな偉い人と知り合いなんだい!?」
と、問い詰めていた。
……とりあえず、一度落ち着いてもらうしかないな。
◇
「つまりは、私からスパイスを買いたいと希望しているのが、教会の巫女さんと闇魔皇様だったってことかい。……せめて、事前に言っておいて欲しかったさね。いや、顧客について確認していなかった私も少しは悪いかもだけど、ねぇ」
困った時のリューナ、ということでお願いすると、メレスを半ば強引に椅子に座らせ、収納から取り出したティーセットを使い鎮静効果のあるお茶を淹れる、という作業を流れるようにしていた。
……俺と一緒にいるといつかこんなことがあるだろう、と準備していたらしい。
そして、落ち着いたメレスに対しソフィアとメイが軽く自己紹介をして今に至る、といった感じだ。
「あー、えっと、その。……言い訳というわけじゃないんだけど、二人とはよく会う機会があるから、感覚がマヒしていたみたいだ。申し訳ない」
よく会う、というか、ここのところほぼ毎日だけどな。
「まあ、それはもういいさね。ソフィアとメイ、さんも、あくまで一人の客として私に会うつもりだったみたいだからね。……それに、考えようによっては魔界とのコネができたとも言えるさね。いや、そもそも二人はハクトからの仲介だから、ハクトのコネがすごいってことになるわね。前回会った時も只者ではなさそう、くらいには思っていたけど、この調子だと他にも色々な繋がりがありそうねぇ」
「あ、あはは」
……うん、笑って誤魔化すしかない。
「そうですね。それだけでなく、ハクト様は魔皇全員と親交を深めています」
と思ったら、まさかのリューナからの裏切りが!
「王女様。今井商会。それと創、色々」
ぶるーたす!
……というか最後、創造神とか言おうとしなかった?
「やっぱり、ハクトがおかしいってことね。それにしてもまさか、世界樹の葉を買いに行ったことでこんなことになるとはねぇ。……いえ、そもそもディニエルと知り合っていた時点で時間の問題だった気がするわねぇ」
「そ、それより、今日来た目的をすませようぜ。魔道具もちゃんと用意してあるしな」
流れが悪いので、強引に話を逸らすことにした。
◇
というわけで、例の魔道具を利用しハーブソルトの味をメレスと共有することにした。
魔法な塩とか熱狂的な塩、小さな商店とかで調合した物など、俺の知っている限り色々と思い浮かべてみた。
なんで俺が色々と知っているかというと、俺の祖父が一時期ハーブソルトにはまっていたからだ。
元々キャンプに行くのが趣味だったのだが、その時に色々なハーブソルトを買っては試していたのだが、一個一個の量が多く、余ったハーブソルトは必然的に家で消費することになり、俺も色々と食べる機会があった、って感じだ。
それと、せっかくだからとかいう理由で、ソフィアとメイ、リューナにまで味を共有することになった。
まあ、味噌とか醤油を使った物など、変わった物を使用したハーブソルトに関してはメレスでは分析できず、ソフィアたちが成分を言い当てていたので必要なことだったと思おう。
さて、次はソフィアたちの番なのだが、メイが収納から袋を取り出し、
「……これ、魔界のハーブ。……色々な種類が、入ってる。……何種類か、いい感じに調合してほしい、かも」
と、メレスに依頼していた。
……いや、ざっくりすぎない? というか、買うってわけじゃなかったのね。
なんて思ったのだが、メレスは魔界にあるスパイスには前から興味があったようで大歓迎って感じだった。
ちなみにお昼は、メレスがお試しとばかりにお肉用にハーブを調合してくれたので、それを使った料理になった。
大変おいしゅうございました。




