第188話 地元じゃ負け知らず そうだろうか?
ということで、メアリさんが改めて額縁を持って来た。
「メアリ! まずは私が確認するのですわ! また恥ずかしい思いをするのはごめんなのですわ!」
「そうですか……。クレア様は、私を信用してはくれないのですね……。長い間粉骨砕身の覚悟で仕えさせていただきましたが、信用を得るにはまだまだ足りないということですね」
いや、粉骨砕身て。
というか、そう翻訳されるってことは異世界にもそういった言葉があるんだな。
「ある意味で信用しているからなのですわ! ともかく早く見せるのですわ!」
そう言うとクレアは、メアリさんに近づいて絵を確認していた。
……俺はこのやりとりに抱腹絶倒すればいいのだろうか?
「……ふぅ。この絵で問題ないのですわ。それではメアリ。改めて、その絵をハクトさんたちにお見せするのですわ!」
クレアの指示に従い、メアリさんがこちらに絵を見せた。
「……えっと。この絵って、マオ、だよな? ……もしかして、クレアが描いたのか?」
そこには、かっこいいポーズをした、マオだと思われる人物が描かれていた。
「いえ、違います。先ほどお見せした絵からわかりますように、クレア様はあまり絵が上手ではありませんので」
いや、子供が描いた絵だなー、くらいで、それ以上は考えていなかったんだけど……。
「あの絵には触れないでほしいのですわ! ……こほん。こちらの絵なのですが、このお城に昔からある肖像画なのですわ」
昔からある肖像画ってことは、少なくともクレアがマオに会ってから描かれたものではない、ってことだよな。
……うーん。
ハヤテが昔、マオの肖像画を描いて渡した、とか?
俺よりはリューナの方が詳しいかな? と思い後ろにいるリューナを見ると、深刻な表情をしていた。
「昔、ということは、おそらくあの頃に描かれた……。いえ、それよりも。……クレアさん。私たちにその絵を見せたという事は、お二方はマオがどういった存在かを知った、ということでよいのですね?」
……あっ。
え、じゃあ、つまり、二人にマオの正体がバレた、ってことなのか?
「そうですわ。……こちらの肖像画は、昔とある画家が魔王を見て、思わず描いた絵だそうですわ。……こちらの絵を見せたのは、マオさんが本当に魔王なのかを確認したかったからなのですわ。何か問題があった、とかではないのですわ」
……まあ、マオの顔が魔王の肖像画と同じだったら気になるもんな。
けど、マオの正体については問題視していなさそうだし、よかったな。
そうであれば、ちょっと質問させてもらおうかな。
「……答えにくければ、答えなくていいんだけどさ。クレアはマオに合う前は、魔王についてどう思っているかを聞いてもいいか?」
「大丈夫なのですわ! ……魔王については、私が生まれるよりずっと前の出来事ですので、あまり強い印象はないのですわ。ただ、お城にある文献をいくつか読んでみた時に思ったのは、その……、地元で強いからと調子に乗っている若者が都会に出てはしゃぎすぎた、といった感想なのですわ」
「ぷっ……」
あ、リューナが思わすふいた。
……けど確かに、そう言われればそう見えるかも。
「あっ、私が今言ったことはマオさんには秘密なのですわ! それに、この前マオさんに出会うまでの印象だったのですわ! 今はそんなことは思っていないのですわ! マオさんは昔のことを反省し、真摯に行動することのできる素晴らしい方だと思うのですわ!」
「……いえ、私は昔からマオをよく知っているのですが、クレアさんが言っているように、やんちゃな、わか、ふふっ。……失礼。若者といった感じでしたので、その印象は正しいと思います。……まあ当時は私も若気の至りと言いますか、マオと一緒に悪い魔族を成敗する、といったことをやっていましたので、あまりマオのことを悪く言えないのですが」
リューナはマオとはライバル関係だったし、ちょっと中二病の気もあるから、そんなこともあったんだろうな。
……その当時のリューナがどうだったか想像できないし、ちょっと見てみたくなるかも。
負ける気せぇへんコンビやし、とか言って、は流石にないか。
「リューナさんがですわ? それは少し意外なのですわ。……ってメアリ! どうしてまた私の絵を持っているのですわ!」
「いえ、誰しも若い時はある、というのを示そうと思いまして」
「そ、そうだったのですわ。……ただ、恥ずかしいのでその絵は早く仕舞って欲しいのですわ!」
……いや、メアリさんはそんな理由で持ってたわけじゃないと思う。
「あー、えっと。クレアがそう思ったってことは、少なくともこの国の人は、魔王に対してあんまり悪い印象を持っていない、ってことでいいのか? 魔族全体ならともかく、魔王について書かれた本は色々とあるみたいだしな」
「それは、わからない、としか答えられないのですわ。……以前、私が初めてアオイさんと出会った時のことは覚えているのですわ? あの時は魔族の偉い方と話す、ということで緊張してしまったのですわ。……それは、私が魔族についてほとんど何も知らなかったからなのですわ。ですので、何か失礼なことをしてちまったら、もしも私が原因で魔界との関係に問題が出たら、なんてことも考えてしまったのですわ」
そういえば、そういうこともあったな。
最近は、魔皇と俺の知り合いとが自然に話している場面しか見なかったから、ちょっと忘れていた。
けど、そっか。
あの時緊張していたのは、ただ魔界の偉い人と話す、ってだけじゃなくて、自分が王女という立場だったから、ってのもあったんだな。
「ですので、ほとんどの人にとっての魔王とは、魔族というあまりよく知らない方々の一人で、昔人間界で何かやらかしたらしい、くらいの情報しかないと思うのですわ。ですので、個々人によって様々な印象を持ってしまうと思うのですわ。……やはり、あまり良い印象を持っていない方も存在する、のですわ」
……まあ、そうなってしまうか。
前にモニカからは魔族についてはよくわからない、って聞いていた。
けど、魔王という有名な存在ならもしかしたら、なんて思ったけど、それも希望的観測だったな。
けど、少なくとも、クレア自身はマオに悪い印象は持っていない。
それはやっぱり、お互いについて知らないから、ってことだと思う。
そして、知らないのであれば、知ることのできる機会を作ればいいはずだ。
「例えばだけど、マオをこの国に連れてくることは可能なのか?」
「ハクト様、それは……」
「うん、わかってる。ただ、一応確認しておきたいんだ」
「……私の持つ権限で可能ではある、のですわ。ただ、この国の法律では、マオさんの正体を様々な方に明かす必要があるのですわ。そしてそれは、あちこちで混乱やトラブルが起きてしまう可能性があるのですわ。ですので、現状では難しい、と言わざるを得ないのですわ。……けれど、そんな状態だからこそ、もっと魔界との交流を進めていきたいと私は考えているのですわ」
やっぱり、マオの正体を隠して、ってのは難しいよな。
けど、クレアも俺と同じ考えを持っているし、他の皆もその方向で色々と考えている。
それなら。
「ああ、俺ももちろんそう思っているよ。……俺が今日確認したいことっていうのは、それに関係することなんだ。実は、俺が主導になって、教会周辺でイベントを開催したいと考えている。……そして、できれば、マオにもそのイベントには参加してもらいたい、とも考えているんだ。それで、そのイベントなんだけど……」
と、俺が考えている計画についてクレアに説明することにした。




