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203_スーパームーン

「あの新宿の目のオブジェの影響だって言われてるんですけど、あそこの周囲だけ、その周辺に比べて魔素が濃いんです。都内でも有数の魔素溜まりなんで、魔術界隈では結構有名な場所なんですよね。う~ん、あそこを使うって事は…。単に転移魔術だけ行使するのであれば、わざわざ魔素溜まりで行う必要は無いと思うんです。という事は、もしかすると何かしら大規模な魔術を行使するつもりなのかもしれませんね。」


 既に美澪が転移させられてから1時間半近く経過している。琥太郎は突然転移させられた美澪や滝井さんが心配でありながらも、少なくとも美澪の戦闘力であれば、人間相手にそう簡単にやられる事はないはずだと自分自身に言い聞かせていた。しかし祟さんの説明を聞いて、琥太郎の不安が更に募っていく。

 祟さんは、もう一度魔法陣上の鉱石の位置を正確に測り直しながら、美澪達の現在地に間違いが無いかどうかを確認している。


「やはりスバルビルの跡地で間違いないですね。わざわざ魔素溜まりを使うとは…。えっ、そういえばもしかして…、ちょっと待ってください!」


 考え事をしている様子だった祟さんが、急に焦ったように開いていたタブレットで何かを調べ始めた。


「すみません、完全に失念してしまっていたのですが、今日はスーパームーンなんです。」

「あぁ、定食屋さんで昼飯を食べてる時に、ニュースでちょっとやってるのを見ましたね。なんか月が大きく見えるってやつですよね。」

「私もスマホのニュースで見ました。夜に思い出したら見てみようかな位にしか考えなかったですけど…」

「魔術って、月と密接な関係があるんです。三日月とか上弦の月などと呼ばれる、月が欠けて見えている状態よりも、満月の方がより強い魔力を得る事が出来て、更に地球と月との距離が近いほど、更に強い魔力を得られます。スーパームーンっていうのは、1年で最も月と地球が近い位置での満月なので、今日は、言わば1年で最も強い魔力を使えるタイミングなんです。それで、えぇっと…、月に最接近するのが20時43分?! という事は、今が20時31分だからスーパームーンのタイミングまで、あと12分しかないじゃないですか…。何か大きな術を使うとすれば、間違いなくそのタイミングに合わせてきます。」


 魔素溜まりでスーパームーンのタイミング…、絶対に良くない事が起きる未来しか思い浮かばない。最悪の状況だ。


「俺はすぐに新宿の目に向かいます!」

「私も行きます!」


 風音さんもそう言うと、床に置いていた通勤用のリュックをすぐに手に取った。


「私も行きましょう。失敗した依頼の依頼主なのでちょっと気まずいですけど乗りかかった船ですからね。それに、これだけ大掛かりな魔術を目にする機会はなかなかないので、これはいろいろと自分の目で確認しておきたいです。」


 この人の場合は純粋な人助けというよりも、魔術に対する好奇心や探究心からの行動のようだ。しかし、それでも魔術の知識を持ち合わせていない琥太郎達にとって、専門家とも呼べる祟さんの同行はありがたい。


「俺達は魔術の知識が無いので、祟さんが一緒に来てくれるのであれば助かります! じゃあ、俺達は先に表に出てタクシーを捕まえておきます!」


 祟さんが魔法陣を急いで片づけている間に、琥太郎と風音さんはお店の外に出る。お店から50mほど路地を進むと駅前の商店街だ。そこまで走って移動するとすぐにタクシーを捕まえる事が出来た。風音さんに先にタクシーに乗り込んでもらい、運転手さんには少しだけ待って欲しいと伝える。そして琥太郎が外でお店の前の通りを覗いていると、祟さんもすぐにお店の方から小走りでやってきた。


「お待たせしました。」


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