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205/205

204_20時43分

 祟さんはタクシー後部座席の風音さんの隣、琥太郎は助手席に乗り込む。


「運転手さん、新宿駅西口までお願いします!」

「西口の地上と地下、どちらにしますか。」

「地下のロータリーでお願いします!」


 タクシーが走り出し、駅前の商店街から細い路地を抜けて、環状6号線とも呼ばれる広い山手通りへと出た。差し迫る時間を前に、タクシーの中はジリジリとした重苦しい雰囲気に包まれる。タクシーはここから山手通りをしばらく走り、甲州街道を右折して新宿駅方面へ向かう事になる。甲州街道へ向かい緩い上り坂となっている山手通りの先の上空には、やや赤みかかった真ん丸の巨大な月が不気味に浮かんでいた。


「月が、物凄く大きいですね…」


 重苦しい雰囲気の中、風音さんがボソリと呟いた。

 タクシーのメーター横のデジタル時計には20時42分と表示されている。


「いよいよですね…」


 祟さんが、自身の腕時計とタクシーのメーター横のデジタル時計を交互に確認している。

 タクシーは甲州街道の交差点にさしかかり、信号待ちで停車した。ここで時計の表示が20時43分となる。ついにスーパームーンの時間が訪れた。

 交差点の信号の右矢印が点灯し、タクシーが再び動き出して甲州街道を右折する。タクシーの中の3人は、誰も言葉を発しない。すると、ここで突然異変が起きた。


ドォーンッ!!!…


 遠くの方で巨大なビルでも倒れたのではないかというような大きな音が聞こえた。その直後、辺りの空気が突然陰気で重苦しいものへと変わる。それと同時に、何かに心臓を握られるような息苦しさが襲ってきた。琥太郎はすぐにこの辺り一帯が濃厚な妖気に包まれた事を理解した。それは妖達が纏っている妖気とは少し違うものの、紛れもなく、非常に濃厚で邪悪な妖気だ。


「えっ、何?!」

「なっ、何か凄い音がしましたね…、新宿駅の方からでしたけど。ゴホッ、ゴホッ」


 タクシーの運転手さんが、突然の爆音を心配しつつ、濃厚な妖気に当てられたのか急に咳きこみ始めた。風音さんと祟さんも僅かに顔をしかめているので、やはりこの濃厚な妖気が辛いようだ。

 それを見た琥太郎は、漂ってくる濃厚な妖気を防いでタクシーの車内に入ってこないよう操作する。風音さんと祟さんはちらりと琥太郎の方を見たので、琥太郎が「気」を操作して妖気を防いでくれた事に気が付いたようだ。


「琥太郎さん、ありがとうございます。」


 タクシーの外を見ると、歩道を歩いている人々が胸を押さえて咳きこんでいたり、電柱に掴まったまま苦しそうに立止まっていたりした。中には座り込んでしまっている人もいる。


「これだけ強い妖気がこんなに広範囲に広がるなんて…、私こんなの見た事ないです。」

「あまり考えたくはないですけど、やはり黒川さん達が何かをしたと思って間違い無さそうですね…。」

「くっそ~!、いったい何してやがるんだ…」


 琥太郎の焦りとは裏腹に、甲州街道では突然渋滞が始まった。強い妖気に当てられたドライバーが運転を続ける事が出来ずに一斉に停車し始めたようだ。停車する車で路肩が埋まった挙句、停車場所を探す途中で動けなくなったドライバーの車が車道の真ん中にも止まり始めてしまったようだ。甲州街道の西参道口交差点手前で、琥太郎達のタクシーもついに完全に動けなくなってしまった。目的地である新宿の目までは、まだここから1km以上あるだろう。


「運転手さん、この様子だと当分車が動けるようにならなそうなんで、もうここで降ります。」

「そうですね。いったい何が起きてるんでしょう。」


 琥太郎によって強い妖気を防がれているタクシーの運転手には、周りのドライバー達がどうしてしまったのかが全くわからないようだ。

 ここまでの料金を支払った琥太郎がタクシーから降りながら運転手さんに声をかけた。


「運転手さん、俺達がここから離れたら、運転手さんもちょっと苦しくなるかもしれないですけど、なんていうか、頑張ってください。どうもありがとうございました。」

「えっ?、苦しくなる??…」


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