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202_新宿の目

「では、そろそろ始めていきますので、しばらくは静かにしていてもらえますか。」


 祟さんがそう言って、お香に火をつけ、魔法陣の周りに立てたろうそくにも火を灯した。次に、魔法陣の真ん中に置いた美澪の髪の毛に、小さな小瓶に入ったオイルのような液体をかけて、何か呪文のようなものを唱え始めた。


「סמן את מיקומו של אובייקט זה.」


 英語では無さそうだが、琥太郎には何を言っているのかさっぱりわからない。祟さんはいくつかの呪文を唱えた後、じっと黙ったまま魔法陣を見つめている。琥太郎の横では、風音さんもそれを少し心配そうな表情で見ていた。

 魔法陣には何も変化が起こらない。重苦しい静寂に包まれたまま、じりじりと時間だけが過ぎていく。美澪達の身を憂慮する琥太郎は焦燥感に苛まれ、吐き気がするのをこらえていた。

 誰も言葉を発しないまま、5分近い時間が経過しただろうか。そこで魔法陣に変化が起こり始めた。

 まず、魔法陣の上で、それまでは真っすぐ上に立ち昇っていたお香の煙が、魔法陣の円に沿うように渦を巻いて立ち昇り始めた。そして次に、黒マジックで描かれていた魔法陣が薄っすらと青く光ると、同時に、魔法陣の真ん中付近に置かれていた小指の先程の小さな鉱石が、赤色で淡い光り放ち始めた。

 琥太郎と風音さんが驚いてそれを見ていると、淡く赤色に光る鉱石が少しづつ移動し始めた。羊皮紙に記載された方角で言うと、ちょうど北東方面だ。

 ここで、今までジッと黙って魔法陣を見つめていた祟さんが口を開いた。


「あれっ…、自宅じゃなかったか…。」

「何か判ったんですか。」

「転移先の候補として、あの人の自宅を想定していたんですけど、そうでは無さそうなんですよね。黒川さんの自宅って確か隣駅の幡ヶ谷だったはずなんですけど、方角が逆ですね。あっ、黒川さんの自宅の場所を私が教えたとは言わないでくださいね。このお店の名簿でも見たって事にしてくれたら助かります。」


 一応顧客情報の漏洩を気にしているようだ。


「承知しました。ところでこの石がこっちに動いてるって事は、ここから見て北東って事ですよね。」

「そうです。まだ動いてるんで、どこまで離れるかがわからないですけどね。あっ、止まった。」


 淡く赤色に光りながら羊皮紙の上をゆっくりと移動していた鉱石が、その動きを止めた。

 祟さんはそれを見ながらタブレット端末を立ち上げて地図を開く。そしてかばんから定規と分度器を取り出した。


「この位置だと、ここから北東方面に直線距離で2km弱位か。あまり遠いと場所を特定するのが難しくなりそうで心配だったんですが、以外と近そうですね。」


 琥太郎と風音さんも祟さんの説明を聞いて自分のスマホで地図を確認する。


「北東に2km弱って、ほとんど新宿駅じゃないですか。」

「方角的には新宿の西口って感じですね。あの辺ってホテルがあるから、ホテルの部屋なのかなぁ…、もうちょっと駅寄りな感じもするけど。」


 ここで、タブレットの地図上で定規と分度器を使い場所を確認していた祟さんが呟いた。


「これって…。 まさか…、そこを使うのか…」

「祟さん、場所が判ったんですか。」

「新宿駅西口のスバルビルの跡地で間違いなさそうですね…。ここって、魔術界隈では結構有名な場所なんです。数年前に解体されちゃいましたけど、新宿西口のロータリー沿いにスバルビルっていう高層ビルが建ってたんですよね。このスバルビルの地下部分には新宿の目っていうオブジェがあって、このオブジェはビル解体後もコンコース沿いにそのまま残されてるんです。かなり目立つところに設置されてるので、琥太郎さん達も見た事があるんじゃないですか。」

「あぁ、なんか西口の地下のロータリーのところにある、でっかい目玉のやつですか?」

「はい、それです。」

「あっ、それ私も知ってます。東京に出てきて地下通路を歩いてた時に、なんだか凄いインパクトでちょっとびっくりした覚えがあります。」


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