197_転移
美澪と風音さんが、琥太郎が指さした場所を凝視して、じっと観察している。
「琥太郎先輩、私には何も見えないです。」
「んっ、何も見えないけど、確かにちょっとだけ変な気配みたいのは感じるかも。だけど、琥太郎に言われなきゃ気づけない。」
「えっ、う~ん、あれっ、そう言われてみると…、ソファの前のこの辺りだけ、ちょっとだけ空気が違うというか、温度が違う感じというか、何か微妙な違和感を感じるかも。」
美澪と風音さんがソファを遠巻きに見ながらその前を左右に移動したりして、ソファの後ろの壁部分の観察を続けている。
2人が僅かに壁に近づいて違和感の発信源となっている壁部分を覗き込むと、突然そこが光り魔法陣が出現した。
「「きゃぁっ~!」」
壁に出現した魔法陣の円から正面に向けて円柱状の光が真っすぐ放射される。そして、その円柱状の光の射線上にいた美澪と風音さんが一気に魔法陣に吸い込まれていく。しかしここで風音さんの体が一瞬光ったかと思うと、風音さんの体は床に落ちて倒れ込み、美澪だけが魔法陣に吸い込まれて消えてしまった。
パリンッ!
同時に発光して目に見えていた魔法陣が、ガラスが割れるかのように砕けて消えた。
「くそっ!、間に合わなかった…」
美澪と風音さんが魔法陣に吸い込まれそうになったのを見た琥太郎が、咄嗟に魔法陣から発せられていた邪悪な「気」を操作して魔法陣を破壊したのだ。しかしそれも僅かに間に合わず、美澪が魔法陣に吸い込まれてしまった。
「風音さんっ! 大丈夫?!」
「はい、私はなんとか無事です。だけど美澪が…」
「くっそぉー、ちゃんと見てたのに…。あの感じだと、何処かに転移させられたのか…。」
倒れていた風音さんが、床に落ちた時に膝を打ったのか、少し痛そうに膝をさすりながら立ち上がった。
「あぁっー! もぉー!…… すぅ~、はぁ~…」
美澪が魔法陣に吸い込まれて、焦りと怒りで冷静さを保つのに必死な琥太郎が、自らを落ち着かせるように大きく深呼吸した。
「ふぅ~………」
琥太郎が足を肩幅に開いて立ち、全身をリラックスさせる。そして目を閉じて軽く息を吐きながら集中し、美澪の「気」を探っていく。
「駄目だ…。美澪の「気」をどこにも感じられない…。」
そんな琥太郎の様子を見ていた風音さんが、しばらくジッと考え込んでいた後に口を開いた。
「琥太郎先輩、このお店の中に他にも今のような魔法陣がありそうなんですよね。まずはそれ調をべてみませんか。それで何か手がかりが見つかればいいんですけど…」
「うん…、そうだね、そうしてみよう。美澪の事が心配で気になっちゃって、落ち着かなくちゃいけないのは判ってるんだけど…、風音さんがいてくれて助かるよ。ありがとう。それとここも一応もうちょっとしっかり見ておくか。」
琥太郎はそう言って、魔法陣が現れたソファ周辺をあらためて集中して観察してみる。
「う~ん、やっぱり何も判らないな…。魔術のカスみたいな薄っすらとした「気」はちょっとだけ感じるけど、何か手がかりに出来そうな事はもう残ってないなぁ。」
ソファ周辺から手がかりを探す事をあきらめた2人は、琥太郎の「気」の感覚を頼りに同じような魔法陣が設置されている場所を探していく。
「そういえば美澪が魔法陣に吸い込まれた時、一緒に吸い込まれそうになってた風音さんの体が一瞬光ったんだけど、何かしたの?」
「私はいつも身代わりの形代を身に着けているんですけど、魔法陣に吸い込まれそうになった瞬間にその形代の術が発動して難を逃れました。あの形代を持ってなかったら、間違いなく私も吸い込まれてたと思います。」
「そっか、それで美澪だけが吸い込まれていったのか。」




