196_置きっぱなし
琥太郎が明日お店に行くというのを伝えて電話を切ると、なんとなく話の内容を把握した美澪が話しかけてきた。
「琥太郎、私も行く。」
「うん、美澪もいてくれたら心強いな。黒川が滝井さんのお店に来て何かしてたっぽいんだけど、何をしたんだろう。呪術とか魔術的な事だったら見れば判るんじゃないかと思うんだけど…」
「凄く弱い蛟だから狙われたら終わり。」
「うん…、絶対に守らなきゃ。」
翌日琥太郎は会社に出勤するとすぐに風音さんに滝井さんの事を伝えて、今夜一緒にお店に行けないかを相談してみた。
「大丈夫です。今夜は特に予定も入ってないので、私ももちろん行かせてください。だけどその様子だと、絶対に何か良からぬ事をしてそうですね。その黒川って人の能力とか実力なんかが全くわからないから余計に怖いです。」
「呪術とか魔術的な仕込みだったり、魔道具的な何かを設置したりしてるのであれば、俺が見れば「気」の流れなんかである程度は判ると思うんだよね。だけど呪いを含めた何かしらの術自体に関しては俺じゃほとんど解らないから、風音さんがいてくれれば本当に心強いよ。それと、美澪も一緒に来てくれるって言ってたんだ。だから、式神なんかを召喚されたとしても、腕力的な意味では大分安心かな。」
夕方、琥太郎達は30分程残業が入ってしまったものの、6時30分過ぎには会社を出る事が出来た。あらかじめ約束していた美澪とも会社の前で合流すると、早速3人で滝井さんのお店へと向かった。
「こんばんは~…、あれっ…、滝井さん、こんばんは~…。」
お店の入り口を入り、琥太郎が中に声をかけるも返事がない。
「どうしたんだろう。なんか返事がないね。トイレとかじゃないよね。」
すると美澪が、つかつかつかっと中に入っていき、ガチャっとトイレの扉をあける。
「トイレにはいない。」
「ちょっと美澪、そういう時はノック位するべきじゃない。」
「だけどどうしたんですかね…。コンビニにでも行っちゃったかなぁ。」
「ちょっと電話してみるよ。」
プルルル……
ウィーン、ウィーン…
琥太郎が滝井さんの携帯電話宛に電話をかけると、なんだか隣の事務所部屋から携帯の着信音とバイブの振動の音が聞こえてきた。
「えっ、置きっぱなし?!」
トンッ、トンッ
「滝井さん、失礼します。」
琥太郎がそういって事務所的な部屋の扉を開けると誰もいない部屋の中で、机の上に置かれた携帯電話が鳴っていた。
「やっぱり誰もいないですね…」
「う~ん…、もしかして、本当に携帯を置きっぱなしでコンビニか何処かに出かけてたりするかもしれないから、取り合えずちょっと待ってみようか。」
琥太郎がそう提案すると風音さんもそれに同意した。美澪も特に反対する様子は無いので、とりあえず3人で入り口横のパーテーションで区切られた待合室に移動する。
「風音さん! 美澪もっ! ちょっと待って!!」
風音さんと美澪がソファーに腰をかけようとしたところで、琥太郎が突然叫んだ。
「2人ともこっちに来てっ!」
待合室の入り口付近に立っている琥太郎が、慌てたように2人を呼び寄せる。
「えっ、琥太郎先輩どうしたんですか?」
「そこに何かある。そのソファの後ろ。なんだか邪悪な感じの「気」が蠢いてるんだ。そこに座るのは危なそうだからやめた方がいい。」
「じゃあ、黒川がここに何かしたって事なんですかね。」
「まだわからないけど、その可能性が高いんじゃないかなぁ。それと、さっきから店内のあちこちに同じような邪悪な感じの「気」を感じるんだよね。だからたぶん他にも同じようなのがいくつかあると思う。」




