神竜の顕現 2
最大の魔力障壁を張りながら、文字通り天地を引き裂いて争っている神竜と原始巨人からなるだけ離れて、雷魚艦は飛行島に向けて直進しているはずなんだ。
非常灯だけ点いた薄暗い、めちゃ寒い艦の第3ドッグの中であたし達はジリジリと待ってる。
生き残りの狩り手と魔術師だけじゃない。動ける者は荷負い人も解体屋も探索屋も非戦闘員の伝達屋まで後衛支援員としてドッグにいるんだよ。
もうどこも安全じゃないようだし、手の付けられない神竜と原始巨人以外で事態を悪化、ないし全てが終わった後に始末の負えないことになりそうな要素を、今間に合うあたし達だけでなんとかしとかないと!
「ノノイ様、これが最後の蜂蜜チョコレートです」
スーが、のそっ、と板チョコを差し出した。甘い香り。
「来たぁっ。お前も半分食べな! この世界での最後の晩餐かもしれないぞ?」
「はいぃ・・」
泣くスーの頭を撫でてやりながら、2人でチョコレートを食べた。美味っ。
「マメとミルスが見当たらないな。サクヤさんは艦橋かな? キリヒコとヤッポは・・うわっ、キリヒコめっちゃ目が据わってる!」
壁の一点を見詰めてるっ。ヤッポは空気を読んで気配を消して側に控えてた。
「仇とケリを付ける覚悟なんでしょうね」
「大丈夫かアイツ?? ・・マヌカは伝達屋の護衛、だっけ? ヨイチがオッパイ先生の医務室送りだかんなぁ。えーと・・あ、いたいた。っ! 話す相手がいないから1人でちょこんっ、て座ってんぞっ? 完全にぬいぐるみっ!」
目が合うと、疑わしそうな顔をされた。
「あんまり可愛い可愛い扱いするとヘソを曲げられますよ?」
「のほほっ、怒った顔も可愛い過ぎ! さてと・・」
あたしは狩り手の斧を取り出した。メンテの暇の無い連戦で、刃零れが目立ってた。
「スー、やるだけやろうな」
「はいっ!」
やがてドッグに衝撃警戒のアラームが鳴った。
神竜と原始巨人からは不可侵であるはずの島が、揺れた。
「ヒバ様! ギルドの雷魚艦が飛行島に揚陸っ!! どうも位置をコルジオ一派がタレ込んだようですっ」
「あの鳥めっ・・だから、物理結界も張れと進言したのだ。だが、このパターンも想定していた!」
私は透視不能の私と配下以外は立ち入れない飛行島地下の隠し拠点で、仕上げの魔法式の確認をしていた。
持ち場にゆくと神竜の間を出て、仕込んだおいた影武者と入れ替わってのことだ。
念の為、入れ替わる瞬間に神竜間近くで時限式で暴走させる魔法式を施した中位竜を暴れさせて注意を引いて実行した。できることは全てやるっ。
これから行うことは単純だが、タイミングを誤ると命取りだ。
私は作業を配下に任せ、拠点に設置した音声付きの物見の玉を起動させた。
見るべき場所を全て映し出す。視点になる魔法式は何十年も掛けて隠蔽した物だ。
「呆れた戦闘力だ」
1位の狩り手、ベラニオ・アノバスとサクヤ・ロセを中心に瞬く間に竜教の兵と使役竜どもを撃破してゆく!
先に原始巨人憑きの哀れな鼠によって主な戦力を失ったとはいえ圧倒的だっ。魔術師ギルドの者達の支援も厄介な様子であった。
何のつもりか? 非戦闘員も後衛支援員として参戦させていた。
ロクに事情がわからずとも世界が終わるらしいことを察してヤケにでもなっているのだろう。デュフフッ!
教主側も黙っていない。すぐに虎の子の使役巨人の大群を纏めて召喚して侵入者どもにけし掛けた。魔力障壁の張られた部屋の巨人の制御器が発光しているっ。
「ボォアアァーッッ!!!!」
暴れ回る巨人の群れ。後方からも出現させたので支援員や魔術師どもにも被害を与えた。地獄絵図だ。
「・・ヒバ様。爆破による暗殺は不確定です。ヤツらを使った方が」
「わかっている! だが、4割は減ってもらわねば。アレが全て我らに来られては、何の為に神竜の神罰を回避したのか? バカらしいことになる」
私は待った。減れ、もっと減れ。潰されろ! 2割、3割・・4割!
「よしっ! やれっ!!」
配下は魔法式を操り、巨人制御器のある間に技官として潜入させた配下を自爆させたっ。破壊される制御器!
支配を失った巨人達は錯乱し、統制を失い敵味方問わず襲いだし、隙を突かれて次々と倒されていった。
教主は裏切り者の存在を察知し、現時点では特に確証は無いはずだが元々信用していなかった私の暗殺を直系の手勢に命じたようだ。
私の影武者はそれまで前線の指揮室で共に作業していた教主手勢によって、ものの数秒経たぬ内に竜殺しの毒を仕込んだ剣で四方から刺され、炎上して死んだ。
ふんっ、あの毒が竜の血によく効くことはよく知っている。デュフッ、これで教主は私が死んだものと暫くは錯覚しているだろう。馬鹿め!
「狩り手どもっ、残存5割程で神竜の間に突入します!」
「よしっ、ここだ。ここだぞ? 天意簒奪のゴブレットは奪わせんが、タイミングがあるっ。魔法式3つ! 念入りに用意しておけ、発動は私自ら行う」
私はいくつか用意した杖の内、殲滅機獣の杖を取り、物見の玉の神竜の間の映像に目を凝らした。
願いが、正に叶おうとしていたっ。私が! 創造主だっ!!
苦し紛れにけし掛けてきた知性の無い2位竜2体をみんなで撃破し、私とベラニオさんは先陣を切った。
頭部が奇妙に膨らんだ教主が放った致死的な雷撃魔術を同じ雷属性で払い、と無属性の竜の息を避け、最後に張った障壁を砕いて、眼前に迫った。
「ディヤァーッッ!!!」
「ハァッッ!!!」
放電する私の狩り手の双刃槍とベラニオさんの狩り手の大長刀が教主を引き裂き、感電させたっ。
「ボババッ?! 愚かなっ、私ならば、永遠の平安世界を与えられたというのに・・」
教主は焼け焦げ、崩れ去っていった。
「余計な御世話だよっ!」
「ショウゲンが見当たらないな。しかし、これは・・?」
ベラニオさんは妙に苔の多い部屋の中央で浮遊し、怪しく輝く赤い杯に困惑していた。
「魔術師達の出番だね。というか、この子、キリヒコ達の討伐した苔じゃないの?」
杯の近くには、光の玉の中に封じられて眠っている苔の子供もいた。部屋には子供部屋のようなスペースもあり、苔だらけな点も含め、ここはこの子の部屋としても使われてたようでもあった。
取り敢えず、だいぶヘバってる生き残りの魔術師達とキリヒコも近くに呼ぼうと振り返ると、
バチィィーーンンッッッ!!!!
「っ?!」
突然、私達、狩り手の武器の魔力付与が失われ、酷く重くなった!
続けて赤い杯を包むように魔力障壁が発生、拡大して私とベラニオさんと近くにいた苔の子の光の玉を弾いた。
私とベラニオさんは素の魔力障壁でガードしたけど、苔の子は吹っ飛ばされた先の壁に激突して光の玉が砕け、床に落ちてもまだ眠っていた。よほど強い魔術で眠らされたんだろね。と、
障壁で守られた赤い杯の側に転送陣が発生し、1人の竜教徒が現れた。
「今度はなんだい?」
「・・テュフフッ、島内のブーストウェポンは全て封じた。巨人遺骸製でも発動不可だっ。この世界の再創造に干渉する魔道器っ! 天意簒奪のゴブレットぉっ、渡さんよ?」
竜教徒は持っていた機械の杖を発動させた! 竜教徒の周囲に7体の、相当な魔力を有した浮遊する蟲のような機械の魔物が出現するっ。
「我々が解析した旧世界で原始巨人に従わなかったまともな、人類を殲滅した機械の獣の上位個体だ。1体1体が、2位級竜相当の力がある。魔術も通用せんぞ? 旧世界でも魔術は発達していたようだからなっ! デュフフッ。武器無しで、どこまでやれるかな?」
視線は外せそうに無い。ベラニオさんはバッドタイミングで、両手で武器を構えていた。
「上等じゃないのぉ? ポンコツなんか目じゃないよぉ?」
私は腰の後ろで片手のハンドサインを使い、負傷者と非戦闘員の後退。魔術師達にはタイミングを合わせて狩り手と自分達に補助魔術を掛けるように大まかな指示を出した。
「では、1体。試しにどうぞ」
竜教徒がそう言うと、魔術師達が対応できない速度で機械の獣が私とベラニオさんに迫った! 速いっ。ヤバっっ!!
でも最悪私らが殺られてる隙に補助魔法が間に合うし、相手のパワーや身体機能は黙視で確認できる。犬死にじゃない。
まぁ色々冒険できたし、弟子も何人か育てたし、まともな恋も1つはできた。悪い人生じゃ、
ドゴォオオオンンンッッッ!!!!
目の前の床を割って現れた、全身が何やら軽く燃えている大男が右の拳の一撃で迫った機械の獣を粉砕したっ!!!
「ええっ?!」
「デュフッ???」
鎧が壊れて露になった背中に燃える刺し傷の痕があり、全身の竜化が進んでもいた。この背中、首、肩、知っている・・。
「ショウゲン君っ!」
「ショウゲンっ」
「ベラニオ先生。今は申し訳ない。サクヤ。歳を取って、諦めがよくなったんじゃないか?」
「くっっ、ばっきゃろうっ!!」
くそっ、涙が出た! パッサパサに乾いてた乙女が今更復活しやがってっ、最悪っ!
「キリヒコ、・・後だ」
ノノイの隣にいるキリヒコは冷たい目で狩り手の槍を構えていた。
「解決できる風の口振りだなっ! ショウゲンンンッッッ!!!!」
竜教徒は全ての機械の獣をけし掛けてきたっ!!
ドゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!!
全個体っ! 拳打で粉砕っっ!!!!
「解決は、した」
「デュフぅぅ~~~っ????」
竜教徒はまだ殴られてないけど白眼を剥いていたっ!




