神竜の顕現 1
僕は知っている。苔を、ほんのわずかずつ飛行島の全てに放っているから。苔達を通して、僕は知っている。
「教主様、御急ぎ下さい」
神竜の魂を教主に差し出し、付き従うこの男、竜神官ヒバがショウゲンさんに何をしたのか? どんな思惑なのか? 僕は知っている。
「ああ。・・ショウゲンは間違いなく飛行島外に遁走したのだな?」
「確認しました。土壇場で契約の上書きに気付かれたのは無念です」
「そうか。世界の更新後、最初の試練となるな。まぁもはや大した勢力ではないが。ククッ」
教主は嗤って、光る苔に包まれ槍を持って眠る神竜の元にきた。僕も側にいる。
「おい、苔。神竜様の身体の再生に問題は無いな?」
「・・うん、無いよ。苔で竜達の死骸の栄養もたくさん送っておいたよ」
「ふむ、ではお前は暫く大人しくしておれ。次の世界では万病に利く霊薬でも作って稼いでもらわねばならぬ。くくっ」
教主が魔法式を操ると僕は球形の光の中に閉じ込められ、そこで膝を抱えるようにして強制的に眠らされてしまった。
「・・・」
僕の本体は眠ってしまったようだ。でも僕の苔は飛行島全体にいる。彼らの結末を見てみようと思う。
「神竜様、貴女様の魂を御返し致しますっ!!」
教主が結晶の心臓の形をした神竜の魂は浮き上がった。それに反応して神竜の胸の骨が牙のように開いて、心臓は神竜の胸の中に収まった。
ドクンッッ!!!!!
鼓動だ。僕の中の竜の血が騒ぐ。神竜が、
「・・ッ!!」
目を開けた。
2位の風の上位巨人の背に乗って飛行し、凍り付く雲の中にあった飛行島の前までようやくたどり着いた。
俺の中のマウスマン達の半分は消えちまった。チッ、つくづく俺達は脆い。何か、次の世界にも続くつもりでいるヤツらに爪痕を残してやらなくてはっ!
『遅かったか。まぁ、どのみちだ』
「何?」
原始巨人の声を訝しんでいると、
「っ!!」
飛行島の城のような大きさの廃墟の最奥中央辺りから光の柱が立ち上がり、凄まじい竜の気配を感じるっ!!
『我と同格よ。殺れるか?』
「・・上等っ!」
『アヒッ』
俺は風の巨人を飛行島に突撃させた。
騒いで群がってきた竜教徒と使役している下位竜の雑魚どもは風の巨人に任せ、俺は廃墟内に飛び込む! 最初から文明の力を解放し熱線、熱弾、熱爆を連発して廃墟内の重武装の竜教徒と中位竜を一掃して進んでゆくっ。
ドドドドドドドドッッッッ!!!!!!
「存続し、繁栄してぇかッッ?!!! させねぇがなッッッ!!!! ハハッ!!!」
障壁付きの扉をブチ壊して光と竜の力が溢れる最奥の間に押し入った。途端っ、
ザァンッッッ!!!!!
俺は両断された。
「は?」
槍を持った女が、俺の、目の前にいた・・
我らが神竜の力は圧倒的であった。一撃っ、たった一撃でマウスマンに憑依した原始巨人の右足部位を真っ二つした。
二つにされたマウスマンは床の左右に惨めったらしく落ち、上手く再生できず、眷属の下位巨人の生成もままならず、わけがわからないといった様子で何事か呟いていた。
「素晴らしい! さすがですっ」
私は讃えようとしたが、
「・・まだだ。原始巨人よ、戯れは程々にせよ」
『戯れとは心外だ。我はお前と違い、信徒を持たぬ。その、代わりに』
邪な原始巨人の思念が響く、
『怒り、絶望し、滅び去りし者どもの慟哭を集めねばならなかった。まぁそれも、我のほんの一眠りの夢物語に過ぎぬがな。アヒヒッ!!』
けたたましく嗤い、割れたマウスマンの身体は一瞬で黒い風に消し飛ばされ、無数の目を持つその魔風は壁を突き破って逃れていった。
神竜は光の矢のようになってそれを追っていった。
「よしっ! ヒバっ、1000年掛かりの魔法式っ。今こそ発動させるっ!!」
「御意」
私は歴代の信徒達が、教主達がっ! その魂を掛けて編み出した魔法式を、生き残りの全ての信徒達の力を集め発動させたっ。
ヴゥゥウウウンンンッッッッ!!!!!
島全体を巨大な魔法陣が覆うっ! この陣に、世界の創世権を持つ者は干渉はできないっ。さらに!
ねば付く赤い液体が床から染み出し、それが集約して一つの鮮血色の杯を形成した。
「くくくっ、天意簒奪のゴブレットっ! これで世界の再構成は我らの思うままっ!! ショウゲンもっ、あの何とかという鳥の魔術師の一派も問題ではないっ」
「・・神竜が勝利、世界の再構成後、神としてこの宇宙に残留する可能性も若干ありますが?」
「問題無い。ヤツが眠っている間に、命尽きるまで力を高める魔法式を施しておいたわっ。これは私の代で開発した、革新だっ! これで神の座は我らの物! 原始巨人撃破も確実! 勝たせてやるのだから、むしろ感謝してもらわねばならんぞ? あのトカゲ娘にっ!! プッ、ハハハハッッ!!!!」
大笑いしたところで私は部屋の中に外部の映像とある程度の音声を通す光の壁を作った。
神竜は上空で不定形の気体の状態の原始巨人と激しく交戦をしていた。
「なんだ? まだどちらも本性を出していないではないか? 何をもたもたしておる?」
「神竜の方は魂だけの状態の原始巨人を今の内に少しでも削っておきたいのでしょうな。我々が強化したのでいささか一方的になってはいますが」
ヒバは妙に呑気な調子で言った。
「逃げられると厄介だ。むぅ・・」
「こんな狭い箱庭の世界では逃げようがありませんよ? 気長に待ちましょう」
「それもまた、一興、・・おっ?!」
不定形の原始巨人が邪気を周囲に放って神竜を弾き、天地を繋ぐ闇の光の柱に姿を変えたっ!
「おおっ! 来るぞっ。正に神話の再来っ!! 終極の時!」
ズズズズズズッッッッ!!!!!!!
歪む天から上半身が、歪む地から迫り出し、合わさった。いずれも大山のごとき巨躯っ!
黒々とした機械のようでもある身体に無数の目と数十の腕を持ち、顔は逆巻く嵐の中にある一つ目玉であった。
旧世界の支配者。旧人類の進化の果て。個を捨てた完全生命体。それが、原始巨人!
これに神竜も呼応した。
「オオォォーーーッッ!!!」
雄叫びを上げ、爆発的な発光と共に原始巨人に匹敵する巨竜の姿に変容したっ! 額に鋭利な角を1本持っていた。
「ジァアアァーーーッッッッ!!!!!」
吠える神竜!!!
「ベォオオオゥゥーーッッッ!!!!!」
呪詛の様に呻く原始巨人!!!
両者は、天地を引き裂きながら激突を始めた!!




