竜の墓 3
装備を解いて、30分だけでも仮眠を取ろうとした矢先に制圧した24階が騒然となった。
「なんだっ?」
慌てて装備を纏い直して、この階の仮の本部にした竜教の教会になっていた廃墟に向かうと、既に臨戦態勢だった。
我々のルートの指揮役を務めている2位の狩り手ムラクモさんと2位の魔術師シェニン氏が壇上に上がった。
「地上の拠点が巨人族の軍勢に襲われた! 既に手遅れの様相だっ」
「相手には首魁がある。原始巨人の部位体とみられるよっ!」
どよめきが起こった。
「マウスマンに寄生、ないし契約によって融合したような形態を取っているっ。経緯は不明! 各地でマウスマン達の大量死の報告もあるが、我々は事実にのみ即応するっ!」
「発生させている巨人族は下位種が主体。5位や4位の上位種もいくらか混じる。いずれもこの地の竜同様知性は後退しているねっ」
引き続き造反したマウスマンとして我々に対抗しているのか? 巨人族として竜教の攻略隊を狙うついでなのか??
「原始巨人部位体は透視、感覚器官の異常発達。身体の自在な超巨大化と操作、超再生能力。超加速的な挙動。1位級相当の耐久性と剛力の特性と解析された。しかしベースの身体の大きさはマウスマンだ。メチャクチャなヤツだっ!」
「我々魔術師の補助無しでは交戦自体不可能っ! よって上階の隊や別ルートの団と申し合わせ、隊の組み合わせを変えて対応しようっ」
「ここで原始巨人部位体が現れた以上、竜教の攻略隊が狙っているらしい最下層の竜族の秘宝とやらは、やはり神竜復活に直結する物と想定する!」
「まずは原始巨人部位体が対処可能な存在か確認することが必用っ。初見で殺された者達が繋いだ情報は無駄にしないっ!」
「各自振り分け後っ、即応っ!!」
我々の隊の狩り手3人とマメ、ミルスは魔術師の足り無い20階の制圧拠点の1つと合流することになった。
参戦不能と判断された荷負い人は、他の非戦闘員と共に下層への進行ルートから外れ尚且つ安全の確認されたエリアに避難する。
別れ際に各自シェルパから竜鱗盾を受け取った。
「坊っちゃま、お気を付けて・・」
「ノノイ様、撃破より生存を優先して下さいねっ」
「わたし、いい薬持ってるから、大丈夫っ!」
我々はシェルパ達と別れ、全員マメの飛行する絨毯に乗って20階に引き返しだした。
・・発生させた巨人どもを7割近く殺された。無尽蔵に出せるのかと思ったが、俺の中のマウスマンの同胞達がいつの間にか随分減っちまってる!
このクソ右足はなんとも言やしねぇが代わりはいくらでもいる、ってことだろう。チッ。
拠点をブッ潰し、俺は残りの巨人どもに生成負荷が少ないらしいトロルどもを足しながら、狭間の遺構に突入した。
竜教が先に攻略しだした遺構のルートを狩り手のギルドとその協力者どもがタダ乗りで制圧していったらしいが、関係無いっ!
俺は強引に押し入った。
「っ?!」
襲い掛かってきたのは狩り手やその協力者達ではなく、凍て付いた遺構上層の環境を利用して造ったらしい氷の魔術人形の大群だった。
半数は俺を抑えに掛かり、残り半数は巨人どもの内、生成し辛いギガースどもばかりを狙って突貫してくるっ!
背後では魔術師の使い魔らしいのが様子を伺ってやがるっ。
『アヒッ! 対応されだしたなっ。魔術師どもは我と神竜の知恵の一部を解き明かしている。面倒だぞぉ? ザムゾ・ハイロールぅっ!!』
「どうでもいいっ!」
俺は群がる氷のゴーレムども肥大化させた腕でっ、足で! 次々叩き潰していった。だが、凍結種以外のギガースどもはどんどん削られてゆく! トロルどもは右往左往するばかりで役に立ちゃしねぇっ。
チッ。忌々しい! こんな人形どもを潰しても俺の不遜は少しも満たされねぇっ。魔術師ども本体と、狩り手どもはどこだっ?!
俺は全身に無数の目を開き、透視を始めた。ああ、いる! いるいる!! この階にも地下にもっ! どこが一番多い? どこが一番意味のありそうなヤツが溜まってる? 俺が御破算にしてやるぜっ。
『っん?!』
「おおっ?」
突然、俺の中の右足野郎が何かに反応した。
『のんびり遊び過ぎたか・・ザムゾ・ハイロールよ。どうやら最下層の神竜の魂は外部に今、持ち出された。巧妙に気配を隠されたが直に島までは跳べなかったようだな・・』
「チッ、ここは用無しか? とんだ無駄・・っ!!」
俺の目の1つが見付けたっ。俺は全身を肉の錐に変え、巨人どもも人形どもも置いて、激しく旋回して床に潜りだした。
『オイッ? 何をしている。戻れ、ヤツの行き先は身体のある飛行島だ。下にはもう用は無いっ』
「貸しの有るヤツらを見付けたっ!」
『はぁ? 我が神竜に勝てばどうせ全員死ぬ、放っておけ』
「そういうことじゃねぇだろっ?! 貸しは、貸しだっ!! ハハハッ」
あの迷惑顔、忘れねぇっ! 殺すべき時に殺さねぇ舐めた手加減のツケっ、払わせてやるっ!!
飛行する絨毯に乗って、我々は21階まで上がってきていた。と、最初にマメの使い魔の蛙が反応した。
「ゲッコォッ!!」
「っ! 上だねぇっ。来たよっ。盾いるねっ! ミルス、加速魔法準備ぃっ!!」
「えっ?! あ、はいっ」
ミルスとマメはそれぞれ魔法式を練りだし、我々狩り手3人は狩り手の武器と竜鱗盾を構えた。
凄まじい力と敵意を感じたっ!!
ギュルルルルゥゥッッッ!!!!!
旋回する巨大な錐のような物が天井を突き破り、即座に肥大する2本の肉の鞭を放ってきたっ!
狩り手3人掛かりでどうにか盾の魔力障壁砕かれながらも受け流したが、弾かれた肉の鞭は遺構の壁や床を激しく砕いた。
我々3人はすぐに飛行する絨毯から飛び降りた。
相手も着地したが、
「ザムゾっ?!」
見逃した竜の血に適応できなかったマウスマンだ。なぜ??
「名前を覚えてたかっ。そういうトコも・・ムカツクぜぇーっ!!!!」
ザムゾは全身の筋肉? を7~8倍に肥大させ、無数の目玉を体表に出し、焼け付くような魔力を高めた。
理由を問う余裕は無いかっ。
「のろまになれっ!」
「加速してっ!」
角と翼を出した蛙と連動してザムゾの減速の魔法を掛けるマメっ。我々3人に加速の魔法を掛けるミルスっ!
「ああっ?」
面倒そうな顔をするザムゾに私とノノイは片手に盾を構えたまま、伸縮できる武器の柄を扱い易く縮めて突進した。
突進の力が付与されたので、距離感を見失いそうになるくらきの速さが出たっ。ヨイチは側面に高速移動するっ!
無詠唱で私は爆破の力を穂先に宿し、ノノイは刃に強く魔力を乗せ、猛烈な連携連撃をザムゾに打ち込む。
ガガガガガガガッッッッ!!!!!!
体表の目を潰しなが、ザムゾを削ってゆくっ。高速で位置取りするヨイチも、溜め撃ちで雷の力を付与した矢を雷撃その物に変えて、正確にガードや反撃しようとするザムゾを妨害する形で撃ち込んでゆくっ!
私の爆破もだが、ヨイチの着弾時の放電も今は配慮してられないっ。
削って削って削ってゆく! マメとミルスの魔法は長く持ちそうにないっ。今押し切らなくては!
『・・勇ましいことを言っても、所詮は鼠よな。文明の力を貸してやろう』
おぞましい念話が辺りに響き、次の瞬間、機械と融合した結晶が2つザムゾの肩から露出して波紋状の力場を張って我々の攻撃を防いだ。
「くっ?!」
「いぃっ?!」
続けて背から露出した6機の奇妙な砲身から追尾する高速魔力弾を一斉に連射して全ての魔力弾でヨイチを攻撃した。
咄嗟に背の留め具に止めた盾を構えるが、張った障壁は全弾着弾した衝撃で砕けたっ!
「ヨイチっ!!」
「うっ・・」
ヨイチは腹部と左肩に深手を負って、その場に倒れ込んだ。
「しくった。・・あと、よろしく」
昏倒するヨイチっ。
「コンニャローっ!!」
勢いを増して攻撃するノノイだったが、波紋の力場が硬く、通らないっ。
「効かねぇんだよっ!!!」
背の追尾弾で今度は私とノノイを狙うザムゾっ。マズい、このままでは・・。
「・・・」
やるしか、ないか? 私が自分の狩り手の槍の封印を解こうとした、その時っ!
空を裂く鋭い音と共に十字の刃が4枚飛来し、波紋の力場を砕いて両肩の結晶を砕いた!
「ぐうっ?」
結晶が再生しないっ! 飛び退くザムゾ。
「キリヒコ、奥の手はちょっと待ちな。この時はこの時だけど、今じゃないでしょ?」
遺構の奥から左手に狩り手の双刃槍を持ち、右手には魔力に発光する腕輪を嵌めたサクヤ師匠が姿を表した。
「師匠っ!!」
師匠は腕輪で操り十字の武器を全て手元に引き寄せ、代わりにブーストダブルランスを私の足元投げ付けて床に突き刺した。
「それは2位竜の遺骸から造ってる。素で使う分には火力ある。ノノイはキリヒコの盾も使って壁役っ! マメ達はヨイチを回収して踏ん張ってっ」
「了解っ!!」
私は盾双手持ちになったノノイのフォローを受けながら、魔力をガッツリ吸われるが破壊力の大きいブーストダブルランスに持ち替え雷属性を付与して、力場を失ったザムゾに攻勢を掛けだしたっ。
師匠の十字の武器3枚もすぐに加勢に入る。1枚はガード用に側に残していた。
マメは減速魔法を維持しながら念力で昏倒したヨイチを近くまで引き寄せると、別の蛙の使い魔2体をポフンっ! と召喚させて手当てさせだした。
「ミルスっ! 私に強壮剤の飲ませてっ。キツ過ぎて死ぬっ」
「はい? え~とっ・・」
私とノノイの加速を維持しながら念力で強壮剤の小瓶を取り出して開け、マメに飲ませるミルス。
「んぐぐっ、ぷっはぁっ! あんたもちょっと飲みなぁ」
「あ、はい・・うっ、凄い味っっ。ありがとうございます・・」
魔術師2人も青い顔で気張ってくれていた。
「オオオォッッ!!!」
「おっらぁーっ!!!」
機械化して硬くなった肥大化腕と足で殴り付け、ガードするザムゾに突貫する私とノノイ。だが、一番火力が高くどうも再生阻害効果のあるらしい師匠の十字の武器を直撃させることが最優先だった。
「右足の原始巨人っ! あんたのねぐらで拾った1位巨人から造った武器はちょっとは効くみたいだねっ」
『ええいっ、ザムゾっ! もうよいっ!! 離脱せぬのならここで切り離すっ』
「・・チッ、こんなもんかっ。俺らしいな!」
ザムゾは再び飛び退き、足元から大量の機械化したトロルを召喚して俺達にけしかけると、また錐の姿に変わって天井から逃れていった。
原始巨人分体となったザムゾと戦っていた我々には機械化トロルはもはや敵ではなく、手早く殲滅した。
「・・逃げられた。いや、他のことで気を取られてたか?」
「おそらく神竜の復活に必用な秘宝を竜教、たぶんショウゲン君が手に入れて下層の転送門で離脱されたんでしょうね。他の竜教徒達も無事な転送門から次々逃げてたわ」
「師匠、助かりました」
「でしょう? むっふっふっ」
我々はヨイチの手当てを応急手当て済ませ、一先ず20階の制圧拠点を目指すことにした。
原始巨人は既に分体が活動している。神竜も復活がもう確定だろう。・・何が、できる? どうすべきなんだ?? 私は困惑していた。
4ヶ所もコルジオ達の魔術師グループの隠し拠点の転送門を渡り継いで、ようやく飛行島の館の閉鎖区域にあるらしい隠し転送門に出ることができた。
「随分念入りだったな。ここもコルジオ達の隠し部屋か」
「まぁねぇ~」
「竜教の隠し拠点はどこもマズい。だが飛行島内は教主のテリトリーだ。強硬派も大人しくするさ」
「ふむ・・」
「じゃ、オイラはここまでね! 神竜には勝たせるつもりだし、ショウゲンの最初の国にも興味はあるけど、ぶっちゃけ竜教とは合わない感じなんで、次の世界ではそのつもりでよろしくっ! じゃ、ね~っ!!」
コルジオは来たばかりの転送門でさっさと戻ってしまった。おそらく接続を切られ、転送のルートも断たれたろう。
「調子のいい鳥だなっ! まぁいい。ゆこう、ショウゲン! いよいよ大願成就だっ」
「ああ、まぁそうだな」
私は少し、浮かれていたのかもしれない。無警戒に一歩踏み出し、ほぼ同時に背から胸部まで、小剣で貫かれた。全身に燃えるような痛みが拡がるっ。
「竜殺しの、毒かっ」
私を貫いた小剣は塵と消えていった。私は膝を突き、血を吐いた。吐いた血が、即座に毒で燃え上がった。
「1位竜の遺骸で造った小剣が一撃でこの様だ。やはり貴方はもう人ではないよ、ショウゲン」
私の前に周り、冷然と言い放つ竜神官ヒバ。
「ヒバ・・変節、か?」
「いや、どうだろう? 現教主は選民意識が強く、教主に相応しいとは思わない。次の世界に強い王が必用だとも思う。だが」
ヒバは私を見て、私の中の竜達がよく知る、人の悪徳に満ちた歪んだ微笑みを浮かべた。
「そのどちらも私1人で十分でなかろうか? テュフフフッッ」
私の手から神竜の魂を奪うヒバ。
『ヒバ、愚かなことを・・』
神竜のテレパシーが響く。
「神竜様、契約してもらえますよね? 勝ちたいんでしょう? 原始巨人に。御安心下さい数百年程、栄華を愉しんで飽きたらそれ以上は望みませんよ? 貴女様は私に決して、神罰を下すことができない。それで、よろしいですね?」
『・・すまぬ。ショウゲン。この悪を見過ごすより他無い。契約しよう、ヒバ。私は、お前を、決して罰しない』
「テュフフフッ!!!! 御ありがとうございますっ。では、ショウゲンっ! 御苦労っ。次の世界では私の教団か王国を守護する知性の無い竜にでも転生させてやろうっ!! テュフっ!」
ヒバは勝ち誇り、私は竜殺しの毒の炎に焼かれだした。
「神竜、様・・」
隠し部屋から去りゆくヒバ。炎が、私を包んでいった。




