狭間の鼠 3
壊滅していた遺構に最も近いマウスマン達の集落を後にして、我々は狭間の遺構を目指した。
寒冷化が増し、吹雪だし、竜達の気配が強くなり他の魔物の気配はほぼ消えた。
氷雪に覆われた辺りの植物の竜の特性も強くなり、蠢き、巨木化の傾向もあり不用意に触れるのは危険であった。
「ヤッポ、行けるか?」
「腕輪の魔術道具が効いてやす」
「そうか・・なら、この環境でも動けるな?」
吹雪の向こう、蠢く巨木の先から7体の奇怪な形態の6位級竜達が現れた。もはや隠れもしない。
「救済救済救済救済救済救済・・・」
「じょ、上位っ! 上位上位上位っっ」
「刷新っ! さっ、ぽぅっ、ぽ、新、ししし!!!」
竜達の体表に無数のマウスマン達が融合している!
「認識を改めよう。ただ狂信の類いじゃない。彼らにはなんらかの確信がある!」
「契約? ここの竜には知性が無いようだけど? スー、毛玉はギリギリまで使うな、火力が違う!」
「はいっ」
「・・魂のようなモノの、担保と現状からの離脱。つーとこか? そんな都合よく願いを叶える竜がゴロゴロいるかぁ? マヌカとヤッポちゃんはスーから離れんなよ」
「わかった」
「心得てやす」
「そこで竜教だろう? ・・来るぞ!」
マウスマン融合竜達は大口を開け、それぞれの特性の竜の息を吐き出す構えを見せた!
我々、狩り手3人はグレネードガンで照明弾を撃って初撃を防ぎ、荷負い人達はグレネードランチャーで炸裂弾を撃って融合竜3体の頭部を撃ってドラゴンロアの発動自体を一旦封じた。
シェルパ達は飛び退き、狩り手3人は攻撃に転じる!
「森よぉっ!!」
「風よ! 雷よ!」
「おっらぁーっ!!」
ヨイチは炸裂弾で撃たれていない4体に植物の力を込めた矢を4本纏めて射ち、私は槍に風の力を纏わせて高速移動しながら穂先に雷を溜め、ノノイは私を追う形で突進したっ。
植物の力を込めた矢に射たれた4体は矢から竜の体液を糧に爆発的に発生した根に侵食されて動きと口を封じられた!
私は封じられた4本を飛び越え、体勢を立て直そうとしたシェルパの炸裂弾を受けた3体の喉を電撃の刃の一閃で纏めて搔っ切ったっ。
のたうち、喉から各々の力の炎、冷気、毒気を溢れ出させる融合竜達! 体表のマウスマンも喉の傷の痛みが伝わり苦しむが、溢れた炎と冷気と毒に当たって自滅もしていた。
遅れて飛び付いたノノイが身体を旋回させて狩り手の斧を振るい、動きを封じられた2体を粉砕した!
ヨイチも続けて放った電撃の力を乗せた3本の矢で喉を割かれた3体の傷口に正確に射ち込み体内から通電させて倒す!
私とノノイは根の拘束を引き千切った最後の2体に飛び掛かった。
「せぇあっっ!!!」
「もう一丁っ!!!」
私は無属性のドラゴンロアを吐いた融合竜の熱線を風と雷の狩り手の槍で突き破って頭部を砕きっ、ノノイは衝撃波のドラゴンロアを吐いた融合竜の攻撃を掻い潜って下腹部から頭頂部まで斬り上げて打ち倒した!
体表のマウスマン達も呻きながら爛れ、萎れて死んでいった。
「目につく範囲で竜はもういないみたいっ!」
凍り付いく蠢く大木に油断無く登って望遠鏡で確認中するマヌカ。
「モフモフを使い損ねましたね」
「使いたいんでやすか?」
スーに若干引く、ヤッポ。
私とノノイは取り敢えず遺骸を検分しようとし、ヨイチは近付きながらも狩り手の弓の構えを解いてなかったが、
「あっ! ヨイチ様っ。2時の方向っ!!」
マヌカの警告にヨイチは即、無詠唱で念力の力を込めた矢を2発、示された方向の樹の陰に同時に放った!
ドッ! ドッ! 2人射殺され、その死体を起点に吸い寄せられて、マウスマン9人が纏めて私とノノイの前に浮かされて運ばれ、雪の上に落とされた。
気配隠しの陣に潜んでいたようだ。
彼らは最初武器を構えたが、間近で竜と同胞の無残な遺骸を見て観念して構えを解いた。中にはザムゾと、その補助員だった者も数名いた。
全員負傷の痕と半端な竜化の痕があった。
「竜に同化できなかったように見えるが?」
「・・だが竜の血を得た! 私達はっ」
「傀儡となれ」
ヨイチは話し出した女のマウスマンの腕に精神支配特性の矢を軽く射掛けた。
「あっ・・」
虚ろな目になる女のマウスマン。
「ヨイチ」
人や亜人への精神支配付与は基本的に御法度だ。
「竜化してるし、言ってらんねーし。洗いざらい吐け。お前達は何をしたい? 何を知っている?」
「・・我々の魂は、竜と一体となることで・・竜族として次の世界にゆける。もう、底辺種族では、なくなる!」
「次の世界、とは?」
ヨイチは冷たく質問を続ける。
「終末は近い・・終わりの時、竜族によって外の世界が始まる。ふ、ふふふっ、これで、我々は、救われるっ! ふふふっ」
女のマウスマンは虚ろに笑い続けた。
「君達は、雲界の外にゆきたいのか?」
「竜に頼って一回死ぬ件、必要? 行きたきゃ自分達で勝手に行きゃいいのに」
「お前達に何がわかるっ?!」
笑いの止まらない女のマウスマンに変わってザムゾが吠えた。
「何百年も試された! だが誰1人霧の外の世界から帰ってこないっ。だがっ、神竜さえ復活すれば世界の摂理は変わるっ!! 我らの望みは叶うっ」
「神竜・・」
「急に飛ばしてきたよ?」
神竜に関しては狩り手は複雑なところがあった。
神竜は雲海の創造者であるはずだが、眷属の竜族は少なくとも人間や亜人達にとって最大の敵対者となっている。
その理由に関する解答を教会、寺院共に様々な宗派で定義付けていたが一定ではなかった。
それから神竜が近々に復活する根拠をザムゾ達に問い質したが、復活するから復活する。竜教と確約した。竜の力を使うことはできた。竜を使えたんだから間違いない。と、理屈の飛躍が目立つばかりで要領を得なかった。
竜教の現在の拠点や組織規模や連中の方針さえロクにわかっていない。
「キリヒコ、コイツらはマウスマンの中でも末端だ。竜使役に加えて竜との同化によるより直接的な操作と強化も行える。竜化を前提に自決を肯定する思想を持っている。この辺を把握できただけでも一先ず十分じゃねぇの?」
「まだこの場に止まるなら竜達の遺骸の処理をしないとマズいよ?」
「・・わかった。君達の信仰通りなら近い内に世界は変わるんだろう。もう、これ以上争いに関わらず何処かで隠れているといい。探索屋や解答屋は甘くなく、狩り手の中には気の荒い者もいる」
「また見逃すのかぁ?」
「自決上等なら益々連れてゆけないだろう」
「なんだかねっ!」
仲間達に不満はあったが、我々はザムゾ達竜との同化に失敗したマウスマン達を遺骸の側に置いて出発した。
激しい吹雪の中、約2時間後、入口付近の石材構造物が露出した所以外はただの雪の小山にしか見えない狭間の遺構近くまで着いた。
遺構の入口のすぐ脇に造り掛けながら強力な魔除けの結界で覆われた狩り手ギルドの野外拠点があった。
戦闘の痕とあったが設備の破損は殆んど見当たらず、仕止められた竜の遺骸は拠点内に運び込まれて積まれ、協力している解体屋達が作業していた。
積まれている竜の中にはマウスマンの融合体竜も多少見られる・・
「さすがに3位級主体の野営地は仕事が速い、つーかクレバーつーか」
「融合体も解体してるじゃん! うぇっ、使う気?!」
「とにかく中に入ろう。ヤッポとマヌカも疲れたろう」
「私も疲れました。重いので」
「あ、うん。スーもお疲れ・・」
出入口で探知魔術道具等で通常より厳格に検査された後、野外拠点に入り、屯所にしている屋根に角度を付けた平屋の建物に向かって歩いていると、
「ゲッコぉっ!」
「ノノイ~っ」
「キリヒコ様!」
屯所の方から防寒着を着て頭に帰るを乗せたマメと、やはり防寒着を着た薄氷沼の竜退治で知り合ったミルスが! マメの操る飛行する絨毯に乗ってやってきたっ。
「マメ!」
「ミルスか?」
「ゲコぉっ」
「ヨイチとマヌカもお久ぁ~。なんかエラいことになっちゃったねぇ」
「終末論がブームになってるぜ?」
「その絨毯乗ってみたい」
ミルスが浮遊する絨毯から降りると入れ替わりにマヌカが絨毯に乗った。
「私、マメ様の弟子になりました」
「マメ様だってよっ」
ウケるノノイ。
「別に面白いとこじゃないからねぇ」
「そうか、魔術師になったんだな」
「はい、短い間に、色々なことを知ることができました。私は自分の見聞を世に役立てたいですっ」
ミルスは別人のように晴れやかな目をしていた。
「いつかの透け透け娘と同一人物とは思えやせんね」
「それは・・」
「ヤッポ!」
「へへっ」
ミルスが赤面するので妙な空気になってしまった。と、右手の平屋の建物の屋根の方から雷撃のような勢いで何者かが飛び掛かり、旋回する2連打を私に放った! 慌ててブーストランスで防いで飛び退き、雪を散らすっ。
「半年ぶりくらいに会ってみりゃあ、透け透け娘にほだされてるなんて・・呆れた弟子だよっ、キリヒコっ!!」
伸縮構造の柄の両端に穂先を持つ狩り手の双刃槍を手に吹雪の中、意味不明に薄着で長身の妙齢女性っ!
「サクヤ師匠っ!」
「ほだしてませんっ」
「ゲッコぉっ!」
1位の狩り手、私の師であるサクヤ・ロセがそこにいた。
・・・奇妙なくらい綺麗な粉雪の中、俺達は逃れていた。
「はぁはぁっ」
「きゃあっ?!」
「げぅっ」
「次の世界に栄光あれっ! べぇふぅっ」
次々と殺されてゆく。不完全とはいえ竜の血を得ていた。むしろ早く死ぬべきなのだが、俺達を取るに足りないと迷惑顔で見逃した狩り手達の冷めた対応が、鉄の決意だった俺達を不安にさせ、この世界での死を恐れさせた。
探索屋と解体屋の連合隊は冷徹に俺達を追い詰め、殺していった。
気付くと凍り付き蠢く巨木の森の中、逃げ惑うのは俺だけになっていた。
矢が腕を掠めた。焼けるように痛み、痺れだす。毒だ。
もう、いいか? 里長はこれで皆、救われると言った。反対した連中は皆、死んだ。俺も柱に縛られて毎日殴られて、いかに大義が大事か説教されて10日くらいでそれが正しいことだと理解できた。
狩り手には通用しなかったが、この地の支援組織に打撃を与えられた。俺達は使命を果たせた。
もう、いいだろう・・酷く眠い。そういえば柱に縛られてる頃から、いや子供頃から、間引きされた病気の姉の肉を刻んで家畜の鱗豚の餌にした頃からもう、酷く眠かった。
そうだ俺は、休みたかったんだ・・・
「気に入ったっ! 終極のこの時この場所に現れたその間抜けさっ、惨めったらしさっ、愉快であるっ!!」
突然の俺の目の前の雪から青黒い、人の子供の右足に悪趣味な人形のような手足の生えた、足の裏に多数の目と1つの歪んだ口をもつ化け物が飛び出し、雪の上をピョコピョコ跳びながら俺の横に並んで喚きだした。
なんだ? 魔物? 喋ってる? 俺は、いよいよ狂ったのか?
「忘れたか? 我が最も卑小な眷属よ? お前達はこの時の為だけにこの出来損ないの世界に発生させたのだ! 今、こうして! 巨人の主たる我の為に! 使命を果たせることを悦べっ!! アヒヒヒッッッ!!!! 愉快っ! 愉快っ!!」
巨人? このチビが?? うっ、背にも矢が刺さった。
「なんと不敬なっ! 巨人とはっ!! 不遜の権化なりっ! 溢れ出しっ! 埋め尽くしっ! ついには全てを踏み砕く者っ! わかるか? ザムゾ・ハイロールっ! 我が愛しい忌み仔よっ、約束された放逐者よっ、のうのうと豚を喰った馬鹿者よっ! 愚鈍で、無知で、無力で、無価値っ! アヒヒヒッッッ!!!」
その右足は俺の肩に飛び乗った。それに触れられた途端、全身の竜化した部位が青く燃え、鼠でもない・・人? の肌になった。人、だと?
「我に残された顕現せし肉体はもはやこの右足のみっ! その力、お前にくれてやろう。ただし・・お前の肉体とまだ生きてる者、既に竜どもに奪われた者、問わず、お前の卑小な同胞の全ての魂を我に返すのだ。お前達鼠は我が発生させてやったのだからなぁ? ほれ、その実在を我に返せ。ほれ、ほれ」
耳を摘まんでくる右足の者。そんなことをして、俺に、俺達になんの得がある?
飛来する矢や弾丸が見えざる盾に弾かれるようにはなっていたが・・
「俺達等、お前はどうでもよいのであろう? 否、お前達であったとしてもだ。アヒッ。ザムゾ・ハイロール。お前、怒っているな? その怒り我ならば1つの炎に変えてやろう。お前はずっと怒っていた。お前達はずっと怒っていた。それを、我は、許す」
・・・・いい、だろう。お前に、俺達を、返してやるよ。
「良い、心掛けだ。神竜を屠った後、また卑小な眷属として創造してやろう」
2度とごめんだ。俺達を、もう、創るなっ!
「アヒヒヒッッッ!!! やはり愉快っ! この者でよしっ」
その右足は溶けるようにして肩から俺の身体の中に入った。その瞬間、
俺以外の全てのマウスマンとその魂が死んだことを俺は認識させられた。
身体が、変わる。
ボグゥウウウゥッッッッ!!!!!
右手は巨大に膨れ上がりだし、欠けた指が生え、その腕に発生した無数の目が氷の森に潜む全ての探索屋と解体屋の位置を看破した。だが、個別に狙う必要等無かった。
なぜなら俺は巨人だから。
肥大し続ける右腕を一薙ぎすると森ごと追跡者達を消し飛ばした。
『今よりここは華奢な箱庭となったっ! ザムゾ・ハイロールっ! お前に、この原始の巨人の力を与えたっ!!!』
頭の中に声が響く。俺の影が拡大し、そこから次々と下位巨人達が涌きだした。
「・・ククッ」
俺は笑った。そうか、救われたかったんじゃない。俺達は、巨人になりたかったんだ。不遜の仔として!!!




