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雲界の狩り手  作者: 大石次郎


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20/28

竜の墓 1

狭間の遺構、63階は砂漠の環境だった。3位級相当の砂や炎の巨人達が次々と襲い掛かってくる。

共に戦う竜を駆る竜教徒が次々倒されてゆく。

私が駆る3位級竜スカンジナも炎の巨人が投擲した燃える巨大な斧で腹を焼き裂かれた。


「スカンジナ!」


『・・ここまでだ』


スカンジナは最後の力で無属性の竜の息(ドラゴンロア)を吐き、巨人群の4割近くを滅ぼし、砂漠に墜ちた。


『ショウゲンよ、我の力も使え』


「すまん」


私は狩り手の大剣ブーストグレートソードをスカンジナに突き刺し、その生命を剣に吸収した。


『お前は竜族の希望。お前の力で我は原始巨人の呪いから解放され、今日まで戦士として戦えた。礼を言う・・ありがとう』


スカンジナは骨と化し、塵と消えた。


「手は汚させたがな・・」


呟き、群がる残りの巨人の群れを私はスカンジナのドラゴンロアを付与した剣の一閃で纏めて両断した。


「65階に拠点を作れるはずだっ、ゆくぞっ!」


背後で竜達と竜教徒達が雄叫びを上げた。あと一息、あと一息なのだっ!!



・・遺跡近くの拠点の設営補助の段取りと、内部突入の我々の割り当てがおおよそ決まり、狩り手は3時間。荷負い人(シェルパ)は5時間の休息の許可が出た。

屯所本体近くの宿舎にしている仮設の建物の一室が5時間半限り我々の部屋になり、換気を確認してから泥炭を固めて乾燥させた泥炭石(でいたんせき)のストーブに火を点け部屋付きの樹脂タンクの水を入れた薬缶を置き、改めて協議することになった。

屋根からちょっかいを掛けてきた後は遺構から戻ってきた隊に聞き取りに行っていたサクヤ師匠もすぐ部屋に来た。

別動するらしい師匠はあまり時間が無いようだ。


「状況の進行が目まぐるしい。まず、最近の私の活動を伝えておくよ?」


師匠は私から強奪した塩煎り胡桃を摘まみながら離した。


「当初は増えていた地震と特定地域の巨人族の活性化を調べてたんだけど、結果的に雲界に分散している原始巨人(げんしきょじん)の身体部位の伝承のある遺跡を調べて回っていた」


「原始巨人?」


神竜が復活するというのなら対となる原始巨人がいても不思議はないが、どちらも今まで教会や寺院の説法の中だけの存在だったモノだ。


「私も、伝承に実体があるとしても竜でいうところの1位級の上位巨人(ギガース)の遺骸、ないし休眠状態の個体が封印されているのではないか? と思ったんだけど、現地に行ってみると1ヶ所を除いて全て遺跡は崩壊していたわ。それも比較的最近、数年内に破壊されたようだった」


冷や汗が出る。マウスマン達の変心といい、タイミングが合致し過ぎている。


「サクヤさん、その1ヶ所、っていうのは?」


スーと一緒に不味いと有名なギルドの長期保存型チョコバーを齧っているノノイ。


「右足、の部位が封じられた伝承があった遺跡だ。内部では激しい戦闘の痕と竜教徒、竜、巨人達の死骸も多数あった。内部の巨人族は完全に壊滅していた。最下層の最奥の祭壇前には2位級相当の巨人の死体さえ転がってたわ」


巨人族は通常は目撃自体が少ない。2位級相当の巨人等は、記録にある限り百数十年前に竜族と激しく争って損耗していた個体が倒されたのが最後だ。


「祭壇の間も激しい交戦の後があったけど、2位級以上の巨人が暴れたにしては足場の被害が大人しかった。なんだろう? パワーがあっても巨大ではないヤツが暴れた? みたいな」


師匠も困惑していたが、俺達も上手く相手を想定できなかった。パワーがあって、巨大ではない??


「それだけじゃないんだ。天井に小さな穴が空いてた。人の拳1つ分くらいの」


「穴、ですか?」


「その穴は、最下層の地下33階から地上まで貫通してた。攻撃の痕というのは考え難い。私はあれは何かが逃げた痕だと考えているんだ。おそらく原始巨人の部位、右足そのもの。右足の核みたいなモノかもしれないけれど」


ヨイチは考え込んでいたが、俺とノノイは息を飲んだ。


「崩壊して入れなかった遺跡の残骸は完全に力を失って周囲で目撃されていた巨人族も弱体化していた。一方で、右足が逃げたと仮定する遺跡は設備の機能が失われていない様子で、遺跡周囲の巨人族も健在だった。つまり!」


「何者かがここ数年、竜教と組んで原始巨人の部位を破壊して回っていた。が、最後に右足には逃げられた。そして、時期、立場、能力からすると・・部位狩りをしていたのはショウゲン・フガク! つー、ところですか?」


ずっと蜜柑を食べているマヌカの隣で黙っていたヨイチが纏めた。


「そゆこと。戦闘の痕なんかでもショウゲン君だな、って気はしたわ。私が知ってる力の8割増し、って感じだったけど」


「なぜショウゲンが原始巨人の部位狩りをっ?」


私は内心に、仇で倒すべきショウゲンは倒されて当然の悪事を働いていてほしいという気持ちと、そんなワケがない、という気持ちで混乱があった。


「それはわからない。ただ、キリヒコ。君には悪いけど、私はやっぱりショウゲンはただ秘宝の類いを奪って悪巧みする為だけにあんなことをしたとは思えないのよ」


「・・・」


上手く、答えられない。どんな大義があれば許されるというのか?


「ごめん、割って入るよぉ? 魔術師ギルドとしてはね。改竄された上で奪われた箱、は原始巨人部位が封じられた遺跡の鍵だったんだと推測してる。記録にある限り、遺跡の入り口は全て封印されていて解除不能だった。どんな魔法も魔術道具も無効。破壊もできなかった。状況から見るに奪われた箱が鍵だったとみるべきと判断している。ただ」


マメはミルスがハンカチの上に置いて出したクッキーを食べていた。


「やってることは巨人狩りだよね? なぜ狩り手のギルドと組まないのか? なぜキリヒコの両親が、おそらく決死の覚悟で土壇場で鍵が奪われることに抵抗したのか? それがわからないんだよねぇ」


「・・神竜と原始巨人が実在するとして、ショウゲンは神竜に勝たそうとしてる。その結果、なんらかの居住可能な広大な土地を神竜は発生させる。それにはおそらくリスクがあって、それをおいてもショウゲン君は神竜の勝利を優先している。よほど原始巨人というモノが邪悪なのか??」


「そもそもなんでやすが・・」


通常、狩り手同士で話している時は口を出さないヤッポが恐る恐る話しだした。


「神竜と原始巨人は争ってるんでやすかね?」


「・・・」


我々は少し固まってしまった。確かにそもそもな話ではあった。



サクヤさんが先行して単独て遺構に向かうのを確認してから、俺はマヌカは宿舎に置いて、見回りしてからじゃないと休んでられないとかなんとか我ながら苦しい理由をキリヒコ達に言って宿舎を抜けた。

風の力を狩り手の弓(ブーストボウ)に付与し、仮設の拠点から上空に飛び上がった。全く、冗談じゃないぜぇ! めちゃくちゃだっ。

近くまでは来ているはずだ、飛行島が。

途中、低い高度で飛行種の魔物に、高い高度では飛行種の竜に絡まれそうになったが振り切る! 竜にはグレネードガンで臭気弾を撃ち込んでやった。

風で守ってはいるが竜革のレインコートに霜を張り付けながら厚い雪雲を抜けると、雲海の先に積乱雲ように見える盛り上がった雲の山をすぐ見付けた。


「いたいた!」


俺は雲の山に直進した。内部にある多重の魔除けの結界をぬけ、俺は姿を表した浮遊島に霜をバリバリ散らしなが、着地した。


「ヨイチ殿っ?! 自力で来られたのですか??」


見張りの竜教徒は度肝抜かれたようだった。だろうよっ! 俺も自分で飛んできたの初めてだかんなっ。


「見ればわかんでしょうがっ? 脳ミソは?」


「教主様はウワバミの間の403ですっ。大変なことになっていまして・・」


「それは俺も知ってるっ!」


俺はウワバミ間へ向かった。飛行島の館の内部は何やら騒然としていた。

ウワバミ間はウワバミの鞄と同じ性質を持っていて、外部から見ればただの小部屋だが、中は1つの都市国家並みの広さで部屋はいくつもに分かれ、出入り口も多数あった。

俺は中の扉をいくつも開けて目当ての部屋まで来た。


「なっ? はぁ???」


脳の肥大した教主のいた大広間になっている403の部屋にはマウスマン達の死体が山積みされていた。


「ヨイチか。全ては回収できていない。狩り手とその協力勢力には大量死は直に知られるだろうが、全滅までは暫く気付かれないだろう」


「全滅したのかよっ?」


勝手に暴れ出したばかりだろ??


「契約に従って2位竜に吸収された魂も全て持っていかれた。間違いない、原始巨人だ。これは攻撃というより契約だな。2位竜の時点で種族全体に及ぶ魔術的効果を発揮していた。それよりも上位の存在ならば、可能だろう」


俺は血の気が引いた。


「・・勝てるのか?」


「問題無い、相手は右足1つ。死に体のマウスマンどもの生命を喰らった程度では大したことはできんさ。遺構でショウゲンが神竜の魂を手に入れれば、万全の神竜が復活する! 我らの勝利だっ。クククッ」


「狩り手のギルドにも他の勢力にもバレバレになってきてんぞ?」


「もう遅いさ。それに・・事が済めば彼らは忘れるだけだ。なんの不満もあるまい」


脳ミソ野郎は既に勝った気でいるようだ。次の世界にコイツを持ち越したくねーが、この増長はどっかで隙になるんじゃねぇかな?


「・・パニオと神竜は?」


「パニオ? ああ、苔か。神竜の間だ。アレはいい仕事をするな」


「ちょっと話してくるわ」


俺はマウスマンの死体だらけの大広間からいくつかの部屋や通路を経由して神竜の間に入った。

その部屋は光る苔に覆われていた。中央の台座では既に輝く鉱石が砕け、苔で覆われた槍を持つ娘が座ったまま眠っていた。


「ヨイチ! マヌカちゃんは?」


神竜の間の一角には苔の無い子供部屋のようなスペースがあった。画材や詩集の他、野外活動道具や様々な書籍が置かれていた。

そこに法衣を着た小柄な人の形をした苔がいた。パニオだ。


「状況的に連れてくるのは無理だった。神竜は石から出てるんだな」


「うん、たぶんマウスマン達が全滅したタイミングで激しく反応して砕けたんだ。魂が無くても天敵の動きはわかるのかもしれないね」


「どの程度回復してんだ? このお嬢さん」


「ふふ、身体の物理的な構成はほぼ回復したよ? 僕はイジれないけど、神竜本体が回復するとあの槍も復元してゆくみたい。あとはショウゲン様に頑張ってもらうだけだよ」


「結局、ショウゲンさん頼りかぁ。なんもかんも押し付けちまって・・」


面目無いぜ。

と、パニオは手にしていた詩集を置いてこちらに歩いてきた。


「これ、ショウゲン様にも渡したけど、持って行って。回復の苔」


圧縮されて緑の宝玉のようのなった球を2つ俺に渡すパニオ。


「竜の血を抜いて僕からも切り離しているから、1つくらいなら汚染されないと思う」


『この部屋は竜教の人達に物見(ものみ)の球を使われてるから、声も聴かれてる。上手く合わせて』


パニオの念話(テレパシー)だ。


『わかった』


「マジで? 助かるわぁ。マヌカと分けるよ」


「マヌカちゃん元気?」


「元気、元気! 肉とか魚をあんま食わないからさ、チーズを」


俺はどうにか雑談の流れを作った。


『苔を使って少しずつ調べてた。竜教の人達は契約を守るつもりないよ? 狩り手とその関係者も次の世界の材料にされて個としては引き継がれない。別の2位竜を使って契約を上書きされた』


『・・マジかよ』


「でも、サクヤさんって胸のボリュームあるじゃん? 雷魚付きの治療魔術師の人も捨て難いけど」


「そういう話を僕にされてもなぁ」


『裏も取ってみて。ただ竜の力を使うショウゲン様には気付かれるから、ショウゲン様とその関係者は上書きされてない。君やマヌカちゃんもね。それでも数が少ないから、次の世界が始まったら一気に潰すつもりみたい。上位竜を殺せる毒も、もう用意してる』


『・・わかった。マヌカ以外の仲間を使って裏は取る』


「ま、パニオも頑張ってくれよ。この島来る機会もこれで最後かもしんねぇから。また次の世界でよろしくなぁっ!」


「うん、マヌカちゃんも一緒にね!」


「おうっ!」


『気を付けて』


『ああ、お前もな』


俺は眠る神竜を一瞥して、部屋を後にした。宿舎に戻ろう。少しは休んで、このケッタクソ悪い終極を乗り切るパワーを蓄えねーとなっ!

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