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雲界の狩り手  作者: 大石次郎


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狭間の鼠 2

日暮れに伝達屋と探索屋の共同拠点近くの雪を被った岩場の陰に来れたが、拠点には襲撃の痕があった。

強力な魔除けを付与した2重の城壁の内、外側の城壁はあちこちが崩れている。

拠点周辺には処理が追い付かなかったらしい6位以下の竜の遺骸が多数放置されていた。

マウスマン達の死体は見当たらなかったが弾痕や爆薬の痕もあったのでなんらかの手段でけしかけたのは間違いないだろう。

竜の遺骸には周辺の魔物達や本来の竜の知性からすると信じ難いが8位級竜達まで群がり、かなり危険な状態になっていた。

我々は消臭剤を使った上で簡易に張った岩陰の気配隠しと魔除けの陣の中で、少し思案した。


「内部までの大きな被害はまだ出てない感じだね」


「マウスマン達の反旗、こりゃマジな上に規模大きいぜ?」


「このままだと野生の魔物と竜達によって落ちる。ヤッポ達は燃焼剤(ねんしょうざい)霊木(れいぼく)の灰の準備をっ」


「了解っ!」


「ヨイチ、矢は足りるかな?」


「抵抗しない死骸を動かすだけなら、余裕!」


「ノノイは作業が終わるまで陽動頼める?」


「そういうの得意っ」


「よしっ、じゃあ・・散開っ!」


狩り手3人は岩陰から飛び出した。


「風よぉっ! とっ」


「風よっ! 火よっ!」


「こっちだっ! 来ぉーいっ!!」


ヨイチは狩り手の弓(ブーストボウ)に風を付与して飛び上がり、私は城壁から距離を取りつつ狩り手の槍(ブーストランス)を起点に自分の左右に風の塊と火の塊を作り出した。

ノノイは狩り手の斧(ブーストアクス)に魔力を込めて、これ見よがしに振り回して城壁周辺の魔物と下位竜の群に突貫してゆくっ。

ノノイが敵を引き付ける中、上空のヨイチはブーストボウに念力の力を込めて十数発の矢を放ち、発動の起点になる大型の個体の遺骸に矢を当て、その個体に引き寄せるようにして念力を連動させ、全ての竜の遺骸を城壁の周りに浮かび上がらせた!


「上手くやってるな」


私も風と火の塊の力を高める。後衛の私に気付いて向かってくる魔物や下位竜には風のカマイタチが通りそうな相手には、風の塊からカマイタチを飛ばし、それが通らない相手には火の塊から火球を飛ばして牽制した。

ヨイチが遺骸の移動の仕上げに掛かる!


ドォオオオオオーーッッッッ!!!!


相当数の竜の遺骸を私の視界の範囲で、城壁周辺では開けた場所に纏めて落とすヨイチ! 大地が揺れ、雪が巻き上がるっ。


「仕上げだっ!!」


私はまず風の塊を操って岩陰で荷負い人(シェルパ)達が用意した霊木の灰と燃焼剤を巻き上げ、竜の遺骸の山にその芯までに! まぶし込んだっ。


「ノノイっ!」


「んっ? 近いかっ」


ちょっと遺骸の山に近い所で暴れていたノノイを下がらせ、私は火の塊を竜の遺骸の山に放った!


ゴォオオオオーーーッッッ!!!!!!


浄めの炎で爆発的に炎上する竜の遺骸の山っ! 魔物と下位竜達は慌てて氷雪に包まれた森へと遁走していった。


「やりやしたねっ! 坊っちゃまっ」


「まぁ・・」


煙の量が想定の5倍は出てるっ!


「ちょっと美味しそうっ」


「ノノイ様?」


シェルパ達とノノイがこちらに来た。ヨイチもゆるゆる、煙を避けながら降りてくる。


「ヨイチっ! 煙で城壁の中が燻製になってしまうっ。ちょっと手伝ってくれ!」


「オイ~~っ、加減はよ、キリヒコぉ」


「あ、中から様子見に出てきた」


城門から出てきた探索屋や伝達屋らしき人影を差すマヌカ。くっ、このままではありがた迷惑と誤解されかねないっ。煙が落ち着くまで風向きをフォローせねば・・



遺骸の始末を付け伝達屋と探索屋の共同拠点内に入ると、人的被害は限定的だが彼らは火器類や魔術道具をかなり損耗していた。

何より強固な一層目の城壁を破壊されており、修復作業には相当なコストとリスクを被るハメになったようだった。


「伝達屋まで襲うなんて正気じゃないよ?」


煙管(きせる)で煙草を吹かしながらこの拠点の探索屋の代表は言った。

伝達屋は大昔はその名の通り手紙の配達を生業にしていた者達だが、現在では竜の遺骸から作る重さと容量限界に干渉できる魔術道具、ウワバミ鞄を使って様々な品を運んでいた。

遺構付近には組織力も戦闘性も足りない行商達は進出していないので、伝達屋がいないと拠点の維持は困難であるはずだった。


「解体屋連中も含め野外活動中の者達や、比較的簡易な拠点にいた者達の中には大きな被害があったようです」


強襲で片目を失ったらしい伝達屋の代表は手当ての後の包帯から血が滲んでいたが、淡々としていた。伝統的に伝達屋は物を運ぶ自分の感情は表に出さない傾向が強い。


「マウスマン達の変心や、信仰? については?」


「本来ならば顧客に関する情報は一切出せないのですが、状況が状況ですね。・・はい、逃げ足がとにかく速いので今の時点ではなんとも言い難いですが、彼らの鬱屈は相当な印象はありました。繁殖力が高いので人口抑制に失敗した集落では間引きを、よく見掛けました」


「それはここじゃなくても変わんないじゃないの? まぁ、養える制限はキツいだろうけど」


茶請けに出され甲虫の串焼きをゲンナリした顔でマヌカの皿に置いてマヌカに睨まれるヨイチ。


「・・いくつかの概ね公になっている竜教拠点との行き来や物のやり取りもありましたが、通常の交易の範囲に見えましたね」


「ウチら探索屋はマウスマン達は現地民、竜教の連中は竜と近しいヤツら、くらいの認識だったね」


「う~ん・・」


ギルドとの電信は情報が錯綜しているが、狩り手の被害はシェルパ等の周辺構成員のみで、あとは状況の整理待ちといったところだったが、それを待つしかないか?


「信仰に関しては、竜教かどうかはともかく、以前から方舟的な信仰は彼らの中に見掛けることはないではなかったです。多数派でもなかったですが」


「なんか言ってたな。ケッ」


ノノイはスーと一緒になって甲虫の串焼きをモリモリ食べていた。私とヤッポは若干気圧されている。


「終末信仰の典型の1つです。今の世界は終わるが、なんらかの安全圏に入れた選ばれた者は次の世界にゆけて、祝福も得られる・・」


この種の信仰は教会や寺院の宗派の伝承にもしばしば見られた。


「安全圏がこの禁域であったり遺構その物であったりマウスマンの集落であったり、文字通りの不思議な船であったり。結末の部分や選ばれる理由に違いはありました」


「それで竜教のそのタイプの宗派にハマったって? こんな急に、全員??」


「理由はわかりかねますが、使役法があるにしてもこれだけの規模で中位竜を扱って禁域全体で一斉に襲う、というのは急ではなく準備期間がそれなりに必要だったのでは?」


「マウスマン全体の洗脳ないし反対派の始末して一枚岩にするのに数年、強襲準備に数年・・少なく見積もっても5年は掛かるんじゃないかい? 5年くらい前に何か切っ掛けがなかったか? それを調べた方が早いだろうね」


探索屋は亜人を含め人の社会に纏わることに活動のリソースを割くことを疎む傾向が強い。煙草の煙を吐きながら、心底うんざり顔をしていた。


「まぁ、どっちにしても落とし前はつけさせてもらうよ? 伝達屋は領分じゃないだろうけど、解体屋とウチら探索屋はマウスマン達を殲滅するっ! 狩り手達にも邪魔はさせない」


宣戦布告ではなく、死刑宣告だ。探索屋代表の目の奥は極寒だった。


「それは、我々も構成員に犠牲が出たようだから、致し方ないが」


全面抗争の報復に容赦は無い。非戦闘員も助からないだろう・・。



改めてのギルドとの電信の結果、利害等に不明な点はあるもののマウスマンと竜教過激派との結託は確定した。

一方で竜教の者達は拠点を引き払っていて、我々とは別ルートの入り口から狭間の遺構に既に潜入しているらしかった。

我々の隊には遺構付近の拠点設営に形が付いた後は、周辺の竜教拠点の調査ではなく遺構の内部調査に合流するよう指示が切り替わった。

我々は狭間の遺構までの詳細な地図と、さらなる寒冷化に備え、狩り手全員とマヌカの耐寒魔術ベスト、スー用の防寒着、ヤッポ用の寒さ避けの魔術道具の腕輪、昼間の照り返し対策に遮光ゴーグルを購入。

その他、物資を揃え翌朝伝達屋と探索屋の共同拠点を出発した。



さすがに伝達屋と探索屋の地図は詳細だった。詳細過ぎて判読し辛い程詳細! 紙面が真っ黒な程の書き込みだっ。

困ることは困ったが案内人いらずで比較的安全に進み、襲撃リスクの低い、祓い所ではないが比較的環境の安定した場所と指定された所で休憩も取れた。

いいペースだ。日暮れまでに遺構近くの拠点予定地に着けそうだった。上手い具合に魔物や竜の気配も遠い時、ノノイがボソッと話し掛けてきた。


「キリヒコ、5年くらい前って・・」


「ああ、ショウゲンが箱を奪っていったのもそれくらいだ。そっちは何もわかっていないが」


「・・実はあたしも、っというか、妹を竜教の過激派に拐われたことがあるんだ。すぐ取り返したけど」


「すぐ取り返したんだ」


苦笑してしまう。ノノイらしい。


「うん。でも少し竜の肉を喰わされたみたいで、身体が少し竜化してる。今はギルドが保護してる竜化した人達の集落にいるよ」


「うん」


「妹はなんだかんだで今は薬師の見習いしてるし、彼氏もできたっぽい。大体上手くいってるんだ。色々あったけど・・マウスマン達や竜教の連中は違うんだろうが、あたしは今が壊れてほしくないよ」


「だな。・・師匠はこの時はこの時、とよく言ってた。ノノイ。できることやってこう」


「いいこと言うなぁサクヤさん! マメ達とこっちに来てるっぽいけど」


「何ぃーっ?!」


師匠が来てる??


「えーっ? 知らなかったのか??」


「マメは聞いてたけどっ」


急に緊張してきたっ。


「オイっ、2人とも! あれっ」


ヨイチは氷雪の森の向こうに上がる煙を示した。地図上では・・


「遺構に一番近いマウスマンの集落だな」


迷ったが、多少時間に余裕はある。確認くらいはしておくことにした。



行って見ると酷い有り様だった。


「出入口全てからけしかけられてやすね・・」


集落を見下せるかなり離れた高台から望遠鏡で見て顔をしかめるヤッポ。

マウスマンの集落はあらゆる門を爆薬等で吹っ飛ばされた後、おそらく臭い袋等で誘き寄せた魔物の群れをけしかけられて壊滅していた。内部には竜まで入り込み、城壁自体破壊されだしていた。

完全に袋小路の餌場になっていた。ここのマウスマン達が強襲に参加したかどうかもよくわからないのだが・・。


「探索屋と解体屋は殺るときゃ殺っちまうもんな」


「次の世界より今の世界だろうに・・」


「どんなノリだったにせよ、張り切って先走るからさ」


ヨイチは言い切り、たまたまこちら気付いて飛来してきた大型の魔物を矢で射殺した。

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