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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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蟲愛づる姫 13.00

 28.特設会場-選挙ホール


 協議の結果、俺が提案した選挙の追加ルールは承認された。委員会としては避けたい展開だったろうが、選挙の理念に反するとまで言われては、却下するにしても明確な根拠が必要という判断だろう。

 その他の箱が最後まで残るのは既定路線であり、ぶっちゃけ知らないゴミが決選投票まで残ることはあり得んでしょという読みがあった。

 つまりこの選挙は最初から不公平になるよう仕組まれていたのだ。そうでなくては決着が付かない。

 しかし俺が公の場で空気を読まない発言をしたことで潮目が変わった。

 選挙の「不備」を指摘されたことで、委員会はそれに乗っかることを選んだ。

 俺が分かりやすく例に挙げることで、次に打つ手も決したのである。

 その他の箱を段階的に切り崩す。

 最初にその他から分離したのは着ぐるみ部隊の皆様だ。怪しい三角頭巾たちが神々の箱を置いていく。俺の箱もある。その他ごと消えると困るので、立候補したのだ。

 三角頭巾の一人が代表してカンペを読み上げる。


『選挙委員会だ。すでに布告したルールを変更するのは我々としても不本意だが……より良い方法があるならば我々はメンツを捨てよう。非難は甘んじて受け入れる。だが、あくまでも決定権は我々にある。追加するルールは三つだ』


 三つ?

 一つ目と二つ目は俺が提案したルールだ。もう一つは?

 三角頭巾が指を三本立てて宣言する。


『三つ! 立候補者は最終的な勝敗が決するまでホールの退出を許可しない! 退出した場合、不正があったと見なし即座に失格とする! これは立候補者の覚悟を問うものである!』


 おい! 待て! 場外は失格ってことか!? 殺されたらどうすんだよ!


『女神像はすでに我々が占拠した。普通に考えれば確認するまでもないことだが……不可抗力か、そうでないかは見れば分かる。権利を有していると判断した場合は会場まで丁重にエスコートさせて頂く。無論、立候補したからには国民を蔑ろにすることはないと……信じている。他の何よりも選挙で戦い抜くことを優先してくれると……』


 なに……。

 ……自分の足で立って歩き、ここを出て行ったら失格にすると……そう言ってるのか?


『そうだ』


 な、なんの意味がある?


『ルールの意味を教えるのは……我々の仕事ではないな』


 ……ま、マズいぞ。選挙ホールを出たら失格だと? 「失格」という概念……! 国民が代表者を選ぶというレールから外れつつある。意図が読めない。この不気味さ……!

 しかし……指摘はできない。立候補者が無尽蔵に増えることを防ぐ狙いもあるのか。俺が提案した追加ルールの不備を補う形になっている。反論したら立候補者の随時募集が取り下げられるかもしれない。随時募集は俺が先生に勝つのにどうしても必要なルールだ。ここは受け入れるしか……。

 ハッ、サトゥ氏……!

 サトゥ氏が挙手している。選手宣誓でもするかのように、まっすぐ腕を伸ばしている。

 くっ、仕掛けて来やがったな……! 何を言おうってんだ……!

 三角頭巾に発言を許され、サトゥ氏がマイクを口元に寄せる。


『俺は棄権する。ただし出て行かない。ここに残る。もちろん構わないよな? 出て、戻る……。それだけのこと。俺にも投票権はある筈だ』


 棄権だと……。


『認めない。ただ……やむを得ない事態はあるだろう……。我々もリアルには干渉できない。棄権は認めないが……自らの意思で会場を出たなら、失格とする……』


 サトゥ氏が懐から即席ラーメンを取り出した。袋を破り、ムシャアと齧り付く。

 ズッ……と現れた等身大の五面ボス……サトゥ氏の母体だ……が背後に立ち、拳のラッシュで壁を砕く。

 ウッ……! スタンドのような使い方を……。な、なんなんだ……。サトゥ氏のガムジェムはインスタントラーメンの形態をしているのに……俺はヤツがお湯を注いでいるのを見たことがない。

 サトゥ氏は崩れた壁から外に出た。大きく伸びをして、戻ってくる。その表情に一片の憂いなし。


 サトゥ氏、失格……。


 すかさず三角頭巾がドシュッ、ドシュッと魔石を投擲した。印を結ぶように人差し指と中指を絡めて呟く。


「【Naive-Restore】」


 投げ付けた魔石が繭を張り、壁の穴を修復した。

 三角頭巾がサトゥ氏の箱を撤去していく。

 サトゥ氏が……マイクを握りしめて言う。


『見ての通りだ。俺は失格になった。俺を応援してくれたみんな……すまない。でも分かって欲しい。それだけ俺は本気ってことだ。勝者は一人だからな……。俺はウチのリチェットを推す。リチェットは……生ぬるいところはあるけど……効率さえ良ければいいのか?って言われたら、人間って、そうじゃないよな……。アメリカのカートリッジは脅威だ。ドイツのサイボーグ、中国の仙人……。そいつらと渡り合うには、どうしたらいい? 真似するのが一番だ……。俺はそう思う。でも、リチェットなら、別の答えを見つけ出せるかもしれない。どうしたって甘さを捨て切れないヤツだからな……。俺は、彼女のガムジェムの輝きに賭ける』


 くそっ、やられた……!

 最初からリチェットに票を固めるつもりだったのか……!

 いったん立候補してから棄権したほうが目立つし、状況の変化に対応しやすい。組織力のアピールにもなる。そもそも立候補者に相応しいだけの「格」を持つプレイヤーが三人も四人も居る時点でおかしいのだ、【敗残兵】というクランは。


 サトゥ氏に太鼓判を押されてリチェットは照れている。化粧っ気のない、しかし瑞々しい唇にマイクを寄せて、目線を逸らしつつ呟く。


『あ、ありがとう。がんばる』


 リチェットというプレイヤーの恐ろしさは、俺やサトゥ氏と違い、小賢しい演技をしないことにある。

 ぱちぱちと拍手をしたのはサクラかもしれないが、椅子の上でますます照れて縮こまるリチェットの態度に、この俺ですら欺瞞の色を感じることはできなかった。

 暖かな拍手の輪が広がっていく……。


 ま、マズい。票が割れるぞ。どこまで計算してる? たぶん大多数の生産職は先生かシロ様クロ様を支持している。ちょっと感動的なスピーチをしたからって、そこは大きく揺るがない。だから強いんだ。

 ……? 有権者の中から一人の女キャラが挙手している。マイク、マイクと手を伸ばして要求する仕草に愛嬌がある。優しげな雰囲気の女性だった。

 壇上に登る女性に三角頭巾が手を貸す。ついでにマイクを借りた女性がぺこりとお辞儀をした。有権者のほうを向き、カンペを取り出す。


『ありがとう。えー。ヤマダさんより言伝を預かっている。知ってるかな? ヤマダさん。犬の人だ。犬種はマルチーズ。白くてふわふわしている。垂れた耳が愛らしいね。中身はお侍(さむらい)さんだが。弟子は取らないと言う割に日々の鍛錬を欠かさない辺りに尋常ならざる苦悩が見て取れるな……』


 ……先生だ。


『そのヤマダさんからの言伝だ。えー。すまん、行けん。以上』


 証明をするようにパッとカンペを広げて見せる。

 先生はカンペを仕舞って、コホンと咳払いをした。


『えー。このような姿で申し訳ない。着ぐるみ部隊の羊担当、Goatです。姿を見せるつもりはなかったのですが……私の投票箱が置かれたということは、私の活動が高く評価されたということだと思う……。それに関しては、素直に嬉しい。私は、特に政治理念を持たないし、なにぶん急なことで、将来的なビジョンも特にない……。けれど、こうして選挙で国民の代表者を決めるという取り組みは、大変素晴らしいと思う。とても、とても素晴らしい。私はみんなを誇りに思う』


 先生! 先生ー!

 俺は誰よりも率先してバチバチと拍手した。

 割れんばかりの歓声が場内を包む。

 神の言葉だ。俺は感涙した。

 やはり先生しか居ない! この腐り果てた人外魔境を立て直すことができるとすれば、それはまさしく神の御技である!

 ついて行こう……! この人に、一生……!


『少しいいだろうか』


 スマイルてめぇー! 引っ込め! お呼びじゃねんだよォー!

 ハッ!?

 叫んでから、俺はハッとした。

 そ、そうだった。俺は先生に勝たなくてはならない。スマイルくんは俺の同志だ。先生に票が集中しないよう立ち回らなければならない。


『……素晴らしいスピーチだったが、あなたは自分が選挙に勝つとは思っていないということだな? その自己認識はあまりに甘いと言わざるを得ない。謙虚と言えば聞こえは良いが、過ぎた過小評価は国政に携わるものとしての資質に疑問がある。参考までに聞くが、あなたは神か……?』


 スマイルくん?


『神ではないね』


『ふっ。自論は曲げない、か。清濁併せ呑むという言葉もある。綺麗事だけで、どこまでやって行けるか……。ここで皆に思い出して貰いたい。この選挙で決するのは、実質的に戦争の指導者だ。新時代の幕が開け、プレイヤーの立場はより厳しいものになりつつある。かかる国難に弱腰の指導者では心許ない。有権者一同、今一度の熟考を勧める。私は神の国を見てみたい。以上だ』


 本音と建前が入り混じった演説に静かな狂気を感じ、ゴミどもがざわざわとザワつく。

 しかしスマイルくんの言うことも分かる。神はあまねく世界を光で照らすもの。一国を贔屓する訳には行くまい。我、神兵となりて神敵を罰し打ち滅ぼさん。

 


 第三回の投票結果は波乱があった。

 その他の箱が生き残ったのだ。

 さすがに着ぐるみ部隊を分離すればその他は潰せると思ったが……おそらく【目抜き梟】のクリスマスライブで有権者を釣った所為だろう。

 しかしその他の得票率は一回目、二回目と比べて大きく下がった。

 次は潰せる。

 問題はその他から誰を出すか……。

 ここでの人選が大きな分岐点となる。

 追加ルールで、その他の箱は過半数を割り込んだ時点で排除される決まりだ。

 アイドル気取りどもの箱を並べたところで、ヤツらは特設会場に来れない。ファンも来なくなる。

 ライブの開演時刻が迫れば、【目抜き梟】メンバーの得票率が低下していくのは必定。

 選挙委員会の腕の見せ所だな。

 知ってるか。ドルオタってのは推しの評価に敏感なんだぜ。政治は関係ねーだろなんて理屈は通用しねぇ。ヘタすりゃメンバー間で順位が決まっちまうからな。

 ええ、おい。どうすんだよ〜。

 協議している三角頭巾の脇を肘でつっつくと、三角頭巾がバッと俺の腕を払いのけた。


「寄って来るんじゃない。立候補者だろ。あっち行け」


 話があって来たんだよ〜。

 お前らはたぶん【目抜き梟】のメンバーを選ばない。確証はないが、モッニカかネフィリア辺りからそれとなく言われてる筈だ。メンバーがプレイヤーに対して不義理を働いたと思われるような事態は避けて欲しいとな。お前らが責任をおっ被るんだろ? その為の「その他」でもあった訳だ。それについては同情するぜ。選挙を盛り上げる為に仕方なくやったとは言えんよな。

 三角頭巾はコメントを避けた。


「話とは? 言っておくがルールの追加は受け付けないぞ。どんなに理に適ったものだろうが、君の提案はもう受け付けない。この理屈は分かるな」


 俺の言いなりってのは外聞が悪いからな。俺自身にも反発が来るだろう。そんなのは分かってる。どうしてもってんなら他人を通すさ。でも俺の用事はそうじゃない。今からネフィリアんトコのクランメンバーをこっちに呼んで、ちょっとしたミニライブをやる。本当はメインストリートでやる予定だったんだが……お前らが余計なルールを追加した所為でそうも行かなくなった。


「……何故だ? 彼女たちは立候補していない。好きにすればいいだろう」


 俺が居ないところでか? 人前で踊るってのは、そんな簡単なことじゃないんだぜ。まして素人が。説得するのも苦労した。ここでやっぱり俺は行けませんなんて言ってみろ。ネフィリアが見に来るからボイコットはされんでもトラウマもんの騒ぎになるぜ。


「……何故その話を我々に?」


 べっつにぃ? 話を通しといたほうがいいかなって思って。そんだけ。じゃあな。

 俺は言うだけ言ってさっさと席を立った。

 ……言わんでも分かるだろう。見過ごせってことだ。委員会は【目抜き梟】メンバーの箱を出さない。しかしファンは納得しない。出しても出さなくても不満の声は出る。矛先を逸らすことはできなくとも、刃先を丸めることはできるかもな。小娘どもによる、ちょっとした余興で。

 委員会に話を通しておくのは俺にも利がある。ハッキリ言って止められてもおかしくないのだ。退出禁止のルールがあるのに、外部と連絡を取ってミニライブを決行するのは微妙だろう。

 三角頭巾はすっとぼけたが、俺がそういう催しを実現できるというのは、それ自体が得票率に影響する。

 ……選挙ホールの中央では、整形チケットで羊ボディを取り戻した先生がゴミどもに胴上げされていた。

 先生の得票率は30%近い。その他を除けば断トツだ。他の着ぐるみ部隊の皆様が演説しに来れば、もう少し均一になっただろうが……。

 三度の投票で、知らないゴミは粗方ふるいに掛かって消えた。中には今後の世界情勢について鋭い見識を持つゴミも居たが、あまり得票には結び付かなかった。

 結局は知名度だ。

 俺は結構ギリギリだった。ここらでテコ入れをする必要がある。

 ムィムィ星人の組織票はできれば決選投票まで温存したい。妻子を人質に取ってるとかではないので、一度目はまだしも二度目は怪しい。先生の人となりに触れたら信者になってしまう。とはいえ、決選投票前に落選したら元も子もない。どうする……。

 ん? スマホがぶるぶると振動している。誰だろう。ギャルかな?

 いや、ギャルではなかった。

 通話をオンにしてスマホを耳に当てるなり、


「コタタマっちー! 応援に来たゼ!」


 カシラが電話口で悪びれずに言った。


『娘がそっちに行った。一時間は待つ』


 ああ……。来てますね。一時間ってのは?


『俺の娘が降りてるんだ。ウチのモンを納得させるのにお前の指示を待つのはあべこべだろう』


 っスね。俺は通話を切った。色々と文句を言いたかったが、一時間というのはどう考えても破格の条件だった。

 このギャルは組員にも人気があるのだ。

 ふさふさのしっぽをふりふりしながらお嬢が爆破兵パイセンを目印にこちらへと小走りで駆け寄ってくる。

 奇妙な話だが、俺は、俺のプランをメチャクチャにした女の顔を見てホッとした。これで良かったとすら思った。先生の第一使徒としてあるまじきことだ。それでも……。

 ネフィリアの言葉が脳裏をよぎる。


(ディフェンスが甘いぞ! プレッシャーをゆるめるな!)

(スリー! リバンッ!)

(リバウンドを制するものはコートを制す……!)


 それでも……ついリアル女に良い目で見られようとする俺が居て……。


 お嬢のほうを見たゴミどもが脱力し、ブンと分身した。伸びのある跳躍。十字架に磔にされたような姿勢で、こちらに背を向けたまま飛んでくる。恍惚とした表情は、もう我慢しなくていいんだと安堵しているようですらあった。


 事件になるからオフ会はしないってのも、単純じゃ……! ない!

 俺は魔石と黒魔石を融合した。黒い繭を突き破って有刺鉄線が走り、先端に桔梗と似た花が咲く。暴れる有刺鉄線を押さえ付ける腕を引き、視界に混ざるノイズをねじ伏せるように叫ぶ。

 カーチェイスッ!

 黒桔梗の花弁がゴミどもの首を刎ねた。役目を終えた律理の羽もどきが、自らが何者でもなかったことを思い出したかのようにボロボロと崩れていく。

 俺はガクリと片膝を付いて肩で息をする。

 ごろりと転がったゴミどもの首はどれも勝ち誇るように笑っていた。理由は聞かなくとも分かる。俺の手札を晒したことによる愉悦だ。同じ手はもう通用しないかもしれない……。

 俺だって、こんな下らないことに奥義を使いたくなかったよ。でも負けらんねぇだろ……。


「んおおっ! 死んじゃった! エモっ」


 ごろごろと転がるゴミどもの死体に興奮を隠しきれない様子でキツネ系女子がぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 俺はお嬢の護衛だからな……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 やはりヒューマンには無理か。条件を一つ満たすのに、この騒ぎよう……。まぁ分かっていたことです。この【翼】は下位存在に扱えるものではない(チャキッ)。

 マレたん、お腹すいたー! ナイツーっ、キサマ! どけ! そこは私の席だッ!



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] スマイルくん壊れちゃった・・・いや今更か [一言] コタタマのくせに強い技もってんじゃん
[良い点] 狂信者しかいねぇ [一言] 神いぃぃぃ!!
[一言] 世界情勢が良くないので内政向けの先生は今のトップに合わない。それはそうとして神の作る国が見てえ……ッ! ってことかな?
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