蟲愛づる姫 14.00
29.特設会場-選挙ホール
ダークでイカした俺のフィニッシュムーブはゴミどもに完全スルーされた。
ゴミどもの目はムィムィ製の宇宙ギャルに釘付けだ。
なんなん? もっとビビれや。俺は律理の羽をクラフトしたんだぞ。完全再現は無理だったからマリオのパックンフラワーみたいになったけども。
ムィムィ星人は小柄で非力だ。お嬢も例外ではない。お尻から伸びるふさふさのしっぽと、物音に反応してぴくぴくと動くケモ耳。それらは彼女が異星人であることを示していた。
いつの時代も人は異物を排斥し、自分たちとは違うというだけで差別をしてきた愚かな生き物だ。
醜い人間どもから、俺が……いや、俺たちがお嬢を守るんだ。
胸の裡にくすぶる「怒り」に気付いて、俺は無意識の内に人間どもに期待していたことを自覚した。
差別などというものは時代錯誤も甚だしい概念で、人と人は手を取り合って共に歩んで行けると思っていた。
それは「当然」のことで、「願い」や「祈り」といった先行きの見えないものではなかった筈だ。
……しかし……ムィムィ星に運び込まれた晶獣……。あれは人間どもの手引きがなくては為し得ないことだ。
俺は緊張に震える唇を落とすように【爆破兵】の腹に口元を埋めた。ムカデと似た身体を持つギルドが共に戦うと言うようにするすると俺の身体を伝って移動し、俺の胴に巻き付く。
爆破兵は強力な範囲攻撃を持つ兵科だが、選挙ホールにひしめく人間どもを相手にどこまでやれるのかは未知数だった。お嬢を守りながらの戦いになる。使える手札は限られたものになるだろう。
死闘を予感して強張る俺たちをよそに、ゴミどもの注目を一身に浴びるお嬢が元気に自己紹介した。
「私、ムムナ! よろしくナー。ムィっ、ムィっ!」
え、ナニそれ……。
頭の後ろで両手を立ててくねくねしたお嬢に俺はドン引きした。
……いや、可愛いは可愛い。可愛いは可愛いが……お嬢は種族人間で言う高校生で、そんな急に「ムィっ、ムィっ!」とかやるほど幼くないし、雇用者側の寛容さで心の成長は個人差だと受け入れようにも、「ムィっ、ムィっ!」が許されるのは精々が中学生までだろうという思いがあった。
しかしゴミどもは好意的に解釈したようだ。カワイイっよろしくっカワイイっと拍手喝采が飛ぶ。
俺の相互理解を半ば放棄した眼差しに、お嬢が一般常識の欠落を訴える。
「えー? 知らないの〜? 別の星の人たちにはこうやって挨拶すんだヨ?」
嘘だろ? 今まで一回も見たことねーぞ……。
「知らないんだ〜? ま、こーゆーのはニュースとか見ないヒトはネ……」
知ってらぁ! 俺は虚勢を張った。ギャルがッ。調子乗んな。誰がニュースとか見ない人だ。今のはキサマを試しただけのこと。時代の流行に乗り遅れるギャルなど哀れなだけだからな。知ってるよ。こうだろ。
俺はバシィッと頭の後ろに両手を立てて、自分はバカですと言わんばかりのロリボイスで「ムイっ、ムイっ!」と腰を左右にひねった。
狂態を晒した俺にゴミどもが急にスンとなって小声で呟く。
「うわ……」
「きっつ……」
死ね!
かくしてお嬢はおおむね好意的にゴミどもに受け入れられた。
思うにケモナーという概念が性癖の架け橋となって地球人とムィムィ星人の歴史的な和睦を実現したのだ。
30.企み
俺の応援をすると言うだけのことはあり、このギャルは良い客寄せパンダになりそうだった。
それでさっそく俺は更なる客寄せパンダを呼び寄せることとした。
小娘どもである。
個人差はあれど、全体的に色気がない小娘どもはロリコンの浮遊票を集めることができる。立候補者にロリ担当が居ないからな。バンシーモード継続中の俺がそうと言えなくもないが……幼女成分の多くは精神性に宿る。総合的に見たらリチェットのほうが血中の幼女成分比率は上だろう。
俺は薄々勘付き始めていた。
この選挙の裏にはびこる不気味な影……それは仕える神の違いから来るものであり、つまりは神々の代理戦争。選挙とは宗教戦争なのだ。
我が父エロスはセクハラ神の名においてありとあらゆる性癖を網羅するが……あるいはそれゆえに唯一、ロリコンだけは教義に反する存在として異端認定を下している。
それは相反する存在という訳ではなく、言ってしまえばロリータは性癖の母なのだ。つぼみが花咲くように少女が女性となることで、ようやく性癖は実を結ぶ。それは光と闇の関係に酷似している。
暗黒神ロリータは愛の神エロスと対をなす存在であり、決して相容れることがない。エロスなくしてロリータは生まれず、ロリータなくしてエロスは生まれない。一方が消滅すれば、もう一方も消失を免れないだろう。近しくも遠い……宗派によっては同一視されることもある。
暗黒神は強大な神だ。有史以来、最も法規制が進んだ現代において未だなお強い権勢を誇る。その闇は取り締まる法の網を掻い潜るようにサブカルチャーへと浸透し、支配力を増しているようにすら思える。
だが、俺は決して屈さない。表裏一体の存在ゆえ、暗黒神を滅ぼすことはできない。ならば利用するまで。
お前たちは愛の神エロスの尖兵となりて世に調和と安寧の日々を齎すのだ!
俺の叱咤激励を小娘どもは聞き流した。
スベリ倒した俺を気遣ってか、お嬢がネイルをいじりながら「ウケる」と感想を述べた。
小娘どもは新入りの猫が急に家にやって来た猫のようにお嬢を遠巻きに観察している。警戒していると言うよりは近付き難く感じているようだ。
「オーラが凄い……」
「完成体すぎる……」
「わ、私、負けない……!」
「マゴっち!?」
マゴットがクリケットの制止を振り切ってお嬢に挑戦する。
「あんた! む、ムイムイ星人ってやつでしょ! ネフィリアさんから聞いて知ってるんだから!」
……お嬢に友達が居ない要因の一つとして、本人に友達を作る気がないという点が挙げられる。
同情に値する事情もある。周囲のものはお嬢に友達を作るよう勧めるが、そうした連中は「八十組の長の娘の友人」を守ってくれる訳ではない。お嬢は小さな頃から自分の言葉に責任を持たない大人をずっと見て育ってきた。だからと言って、実は内心、友達を欲しがっているということにはならない。
お嬢の対応は素っ気ないものだった。
「なんだー? 勝負かー?」
お嬢は喧嘩を売られたら買うタイプだ。舐められたらおしまいという家訓をキッチリ継いでいる。
俺が間に立つこともできるが……それをやったところでな。結局は無難な対応に落ち着くことになる。
はいはい、喧嘩しないの。紹介するぞー。お前らー。こっちはお嬢。俺が世話になってる会社のご令嬢だ。お嬢。こいつらはネフィリアの弟子だ。俺の妹分ってことになる。
「あ、そーゆー?」
お。お嬢が興味を示した。よしよし……。俺は内心ほくそ笑んだ。
豊かな人生を送るのに友人は必要か。俺は絶対とまでは言わないが、わざわざ不要と断じるほどのことではないと思っている。他人は他人、自分は自分だ。ビジネスフレンドでもいいじゃないか。必要以上に友情を重く考えなくてもいい。自分の身が危ないと感じたら見捨てていいんだ。俺はジャイアンとスネ夫の関係はいっそ健全だと思っている。劇場版ともなれば急に熱くなる辺りが最高だ。人間に一貫性など不要である。
お嬢はギルドの密輸と密売をシキる違法ブリーダー。歩兵ちゃんたちを擁するクラン【提灯あんこう】メンバーとの相性はきっと良い。
意外だったのは小娘どものほうだった。案外、消極的なんだな。もっと、こう、スクラムを組んで正面からぶつかるくらいのイメージだった。
お嬢にまじまじと見つめられて、マゴットは気圧されている。美人と面と向かって目を合わせられないというリアクションだ。……お嬢は確かに美人さんだが……それを言うならこのゲームの女キャラはみんな美人だ。物怖じする理由にはなるまい。俺はそう思うのだが……小娘どもからしたら違うのかもしれない。なんだろう。不思議だなぁ。
マゴットが目をあちこちに泳がせながら、お嬢の肩にしがみ付いている衛生兵パイセンを指差して言う。
「そ、その子……知ってる。衛生兵、だよね……?」
お嬢はマゴットの不審な態度に無頓着だ。
「そだよ。そっちは【歩兵】を飼ってるんでしょ? 嬉しいナ〜。こっちだと違法でサ。あんま居ないんだ」
「そ、そうなんだ……?」
俺はメニューを開いて時刻を眺める。時間は有限で、ロスタイムを検討するには進展があまり見られない。チラチラと時計を見るような仕草をする俺に、マゴットが最後の勇気を振り絞る。
「あ、あの! コタタマにヘンなことされたりとか……!」
俺はピーッとホイッスルを吹いた。試合終了だ。親睦会は後回しにしよう。お嬢。俺は訳あってこの会場を出られない。俺を応援してくれるんだよな? そうしてくれ。狙撃兵パイセンは?
「狙撃兵ちゃんは真面目だからナ〜。外に居るヨ」
そうか。ならいい。
フリエア! こっちへ。事情はささやきで話した通りだ。場所変更はネフィリアにも伝えてある。通し稽古には参加できなかったが、仕上がりはどうだ?
「まぁ……そこそこかな。完璧にはムリだよ。時間が足んない」
上出来だ。例のブツは?
フリエアが「ん」とラッピングされた手提げ袋を突き出してくる。よし。俺は手提げ袋を預かって、そのままお嬢に手渡した。お嬢。持っててくれ。
何か言いたげなフリエアを制して言う。
お嬢には衛生兵パイセンが付いてる。ゴミに預けるより確実だ。むしろ怖いのは爆破兵パイセンで、このヒトの創作意欲は常に新作を求める。この会場で最も安全なのは俺だ。次にお嬢。いや、そんなことはないかもしれない。今、凄く俺を見てる。なんスかパイセン? やめてくださいよ。俺のことは散々爆破したでしょ?
爆破兵パイセンは興味を失ったように俺から目を逸らした。……それはそれで、なんか悔しいな。俺以外にアンタを満足させてやれる男が居るってのかよ?
まぁいい。そういうことだ。
よーしお前ら集合! 何故かお嬢も混ざってきたが、細かいことはいい。
機材は手配した。そろそろこっちに届く。準備が出来次第、始めるぞ。完璧じゃなくていい。ただ止まるな。約束は守る。ネフィリアのド肝を抜いてやれ。いいな!
「おー……」
何をするか分かっていないお嬢が一番元気に返事をしてくれた。「おー!」と握り拳を突き上げてぴょんと跳ねる。
「ナニナニ? ナニすんの?」
それがさぁ、聞いてくれよお嬢。
俺はお嬢と連れ立って選挙ホールの真ん中ら辺にトコトコと歩いていく。この客寄せパンダを使わない手はあるまい。
ニコッとゴミどもに営業スマイルを向けて広告を始める。
今から【提灯あんこう】のミニライブやりまーす! 【提灯あんこう】! 【提灯あんこう】でーす!
俺は別にネフィリアんトコの子ではないのだが、その辺の説明は不要だろう。
ぴんと来たお嬢が俺と一緒に小娘どもの宣伝を始める。
「【提灯あんこう】ー! 【提灯あんこう】だヨー!」
へへっ、この客寄せパンダ、随分と具合がいいぜ……。カシラの育て方が良かったんだなァ〜。
投票コインを手にしたゴミどもがなんだなんだと寄ってくる。
……ムィムィ星人の降下まで残り40分てトコか。決選投票は得票率で決まる。上位三名が他を大きく引き離すこと。それが決戦投票移行のルール。その他の箱は今回の投票で潰せるだろう。先生以外は団子状態だから、次が決選投票ということはない。仮に次の次が決選投票になるとして……俺にはムィムィ星人の組織票がある。今回の投票さえ乗り切れば決戦投票には残れる見込みだ。
先生を選挙ホールに引き込むのは成功した。今のところ俺の計画通りに事が進んでいる。
ただ、退出禁止のルール……これだけが……。一体なんの意味がある? 考えてもさっぱり分からない。不正行為を警戒しているのか? 何故? この選挙は不正行為があって当たり前だ。準備はとうに済ませてある。今更になって外部工作を封じたところで大した意味はない。不可抗力かどうかは見れば分かる……。それもそう。どんなにうまくやったところで警備ティナンの目を掻い潜れるとは思えない。
……深い意味はないのか? 委員会は俺の言いなりではないというアピールのため? そうかもしれない……。それはあり得そうな線だ。しかし……結果としてサトゥ氏は棄権し、自分の箱をなくすことでリチェットに票を固めることができた……。あいつは、やはり俺と似た発想をする。
退出禁止のルールに、もしも何か裏があるなら、それを見極めなければ負ける……そういう予感があった。
おっと、機材が届いた。課金アイテムのスピーカーとアンプだ。特設会場にはイベント用に同じ物が何台もある。盗まれたら困るからな。届いた機材にゴミどもがわらわらと群がる。こらこら、君たち。指一本でも触ったら殺すゾ?
知らないゴミが待ったと言うように俺に手のひらを向ける。
「いい。こっちは任せろ。お前は宣伝を続けろ」
任せる訳ねーだろ、バカか?と言いたいところだが……先生が現場監督をしてくださるようだ。神ィ……。
「どうだい?」
「イケます。この型なら触ったことがある。組み立てて配線を繋げるだけ。簡単です。しかし……おい! 崖っぷち! マイクが一本しかない! 足りるのか!?」
寄越せ。それは宣伝用だ。ミニライブと言っても曲を流して踊るだけだ。歌って踊れたら、そりゃ最高だが、難易度のケタが一つか二つは違う。
俺は知らないゴミからマイクを受け取った。
ふむ。いかにゴミといえど神の前で罪を犯す勇気はあるまい。組み立ては任せよう。
俺はお嬢が宣伝してくれている横でスチャッとマイクを構えた。演説の邪魔にならないよう音量を絞ってスピーチする。
『えー。【提灯あんこう】はマスターのネフィリアの下、活動しているクランです。このたび、こうした催しをさせて頂くのは、【目抜き梟】のクリスマスライブ並びに特設会場の設置、ひいては当該選挙の開催に多大なる貢献をしてくれたネフィリア氏への感謝を表したいと思ってのことです』
のこのこと会場に姿を現したネフィリアに俺はバッと手を向けた。
『会場の皆様。ご覧になれますでしょうか。あちらがネフィリア氏です。彼女に大きな拍手をお願い致します』
ゴミどもの拍手と歓声に、ネフィリアは眉一つ動かさない。トコトコと歩いてきて、壁にもたれ掛かるように背を預けた。可愛げのない女だ。
ふん、見てろよ。そのお上品な澄まし顔がどこまで保つかな……? 楽しみだ。
組み立てが終わったようだ。知らないゴミが指を二本立てて叫ぶ。
「ライブまで二時間ちょい! この日をどんなに待ち望んだことか……! こんなところでエネルギーを使いたくないって? 違うよなァ! 本番前の肩慣らしってトコだ! お前ら分かってるよな!? 俺らは王者だッ!」
なんの?
両腕を広げて天を仰いだゴミが吠える。
「気張って行こうぜーッ!」
怒号にも似た歓声が選挙ホールの大気を揺るがす。
……ヤベぇファンだった。こんなところで油売ってないでライブ会場に行けよ……。俺はそう思ったが、まぁ小娘どもを応援してくれるってんならとやかくは言うまい。
お嬢、宣伝サンキューな。そろそろ始める。そこの席に座って見ててくれ。
「ん? コタタマっちは?」
俺も踊るのさ。
小娘どもが寄ってくる。ノリのいいゴミどもが歓声を上げ、びっくりした小娘どもがぺこぺことお辞儀をする。顔を上げた小娘どもの表情は様々だが、緊張、不安、ちょっと楽しみといったところか。
小娘どもが配置に付く。俺は頷き、即席スタッフに合図を送った。
スピーカーから【目抜き梟】の曲が流れる。
こういうのは滑り出しが一番難しい。だから最初は俺のソロダンスだ。俺はアイドル気取りの曲の振り付けは大体頭に入ってる。まぁカンニングのようなものだ。俺は目に焼き付けた過去の出来事を録画した映像のように再生できる。
小娘どもが一人、二人とダンスに加わる。二、三人はトチるかと思っていたが、予想以上にキレイに合わせてきた。やるじゃん。
ネフィリア……。見てるか? コイツらは俺やお前とは違うよ。俺たちの予想なんか簡単に越えていく。お前だって本当は分かってるんだろ? コイツらの足を引っ張ってるのはお前だ。お前が光の当たる場所に出てくれば、コイツらはもっと輝けるんだ。
ド肝を抜いてやる!
俺はド肝を抜かれた。
ザッと席を立ったゴミが一人、また一人と小芝居を交えて踊り始める。
一糸乱れぬ連携。異様なクォリティ。野郎っ、仕込みやがったな……!
それはまさかのフラッシュモブ!
圧巻のオタ芸に俺はびびり、小娘どもは何故かイキイキし始めた。身体の強張りがなりを潜め、手足が伸びやかにリズムを刻む。待ってぇ……。俺は付いていくので精いっぱいだ。
やっと終わった。へたり込んでハァハァする俺に、小娘どもが輝くような笑顔で迫ってくる。
「もっかい踊ろ!」
「立って立って! ほらお客さんも!」
ゴミどもはアンコールを唱和している。
ええ……?
俺は小娘どもに腕を引っ張られながら、顔を伏せて鼻をこすった。
へへっ、なんだよ、コイツら。あんなに嫌がってたのに。ちょっとウケたからってコレか? 現金なモンだぜ。俺は目尻に浮かんだ涙をぐいっと拭って破顔した。
しゃーねーな!
再三のアンコールに応え、ミニライブは大歓声で幕を閉じた。
マイクパフォーマンスでもいっちょやったろかいとマイクを手にした俺の耳に、信じられない言葉が飛び込んでくる。
『では、これより決選投票を行う!』
なにィー!?
俺は驚愕した。
し、しまった! もうそんな時刻か! えっ、第四回投票はどうなった!? 決選投票だと!? バカな……! 早すぎる! 新手のスタンド使いの攻撃か!?
お、俺の箱……! 俺の箱はどうなった……!?
俺はマイクを放り投げて猛ダッシュで壇上に駆け登る。俺の箱……! 俺の箱は……!
あ、あった……。俺の箱はなんとか生き残っていた。俺の箱にしがみ付き、ホッとして脱力する。
他は……。
先生の箱は当然として……。
スマイルくんは……落ちたか……。まぁ再当選は難しい。どんなに存在感を示しても、人間は新しいものを求める。予想通りの結果だ。
生き残ったのは先生と俺。もう一人は……。
り、リチェット……落ちたのか!?
正直、俺はリチェットの上に行けるとは思っていなかった。ミニライブの反響が思ったよりも良かったとはいえ、決選投票は先生とリチェットの一騎討ちの構図になると読んでいた。
な、何があった!?
じゃあ……残り一人は誰なんだ!?
俺は壇上を見渡した。
落選したリチェットが、勝者を讃えるように、何故かぐったりしている女キャラに寄り添い、今にも倒れそうなそいつの肩を支えていた。
俺の喉から引き攣るような声が漏れる。
「り……」
リリララじゃない人……!
ゾォッと総毛立つような悪寒がした。
この瞬間、ミスターエンフレの覇者が、ふたたび俺の前に立ちはだかったのだ。
リチェットを下し、より強大な壁となって……。
悪寒が止まらない。
俺は、たぶん心のどこかでこうなることを恐れていた。
負ける。なんの根拠もなくそう思った。
壇上にへたり込んでガタガタと震える俺を、じゃない人がチラリと見る。
溜息を吐いて、こう言った。
「ま、やれってんならやりますよ」
これは、とあるVRMMOの物語
その毒は、わずか一滴で人を死に至らしめる猛毒……。今、最後の宴の幕が開く。
GunS Guilds Online




