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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
773/990

蟲愛づる姫 5.00

 13.ムィムィ面談


 俺はカシラの部屋の前でスッと跪いた。

 カシラ。コタタマです。お世話になりました。そろそろこの星を出ます。その前に一つ、折り入ってお願いが……。

 部屋の中からカシラの声がした。


「入れ」


 はっ……。

 俺はカシラの部屋にお邪魔した。

 室内は薄暗い。三歩ほど進み、カシラとは距離を置いて床に正座する。ぺこりと頭を下げて待機。

 とにかく無礼がないようにしたい。ハッキリ言って俺はカシラに迷惑しか掛けていないのだ。他の組に金を握らされて何度裏切ったことか。お嬢さんはともかく、カシラには特に恩義を感じていないのでメチャクチャなことをやった。そんな俺をなんで雇ってくれるのかよく分からない。

 カシラはバスローブを着て、椅子に座り、机に向かってパソコンを操作していた。今時のインテリヤクザである。拳銃とドスを振り回して切った張ったという時代ではない。

 タタタとキーボードを打つ音が室内に響く。いったんキリの良いところまで作業を進めるようだ。

 キーボードを叩く音が止まった。

 カシラがスッと立ち上がる。

 床を歩く音。

 平伏する俺の前に、カシラがサッと片膝を付く。


「コタタマ。ご苦労だったな。娘が世話になった。あれには友達が居ないからな。お前が初めての友達ってことになるんだろう……」


 そういうお考えでしたか……。


「マツさんから聞いたよ。どうやら本物だな……。外で変身したのか。記憶が薄れていく感覚がある。寝たら忘れるな、これは……」


 俺をゴキちゃんたらしめるイヤなチカラである。他になんか使い道ねぇのかと思う。バレたところで別に困りゃせんだろ。いや、まぁ最近なんかカマキリ型がどうのとゴミに因縁を付けられることは何度かあったが。合成種がどうの、なんだ、かんだと。

 不満しかない俺をたしなめるようにカシラが言う。


「いいか、コタタマ。間諜兵の特性は情報封鎖だが、重要なのはそこじゃあないんだ」


 と言いますと……。


「お前はギルド堕ちだ。だから、まだいい。問題はギルドの【間諜兵】だ。こいつは見つからない。ゲストの目すら欺く。そういう兵科だからな。完全な擬態だ。バ・ズィはそいつらに陥とされた」


 ギルドの【間諜兵】かぁ。なるほど。ギルド堕ちに居るんだから、そりゃあギルドにも居るわな。

 しかしカシラ。ゲストの目を欺くってのは……さすがにどうなんスかね。ギルドは戒律を持たないでしょう? どんなにうまく化けてもモロバレっスよ。


「たぶん、そもそもギルドとして活動していない。自覚があるのか、ないのか……それも怪しい。さっき、ゲストの目を欺くと言ったが……お前の言う通り、ゲストならば、とも思う。だが、知っていても放置するかもしれない。ヤツらは大して困らないからな。困るのは……」


 カシラは間を置いた。何か言いにくいことでもあるのだろうか。


「……合成種(クロマキー)と言ってな。戒律とギルドの特性を両方持つ……そういう存在だと言われている」


 ……ギルド憑きのことですか? ギルド憑きが合成種なんですか?

 濡れ衣じゃねーかッ! 俺はそう思った。

 しかし早とちりだったらしい。


「いいや、違う。ギルド憑きはロストする。同じような力を持つが、分けて扱うのは理由がある。ギルド堕ちはロストしないんだよ。ロストらしきものはあるが、見せ掛けで、キャラクターデータは残り続ける。壊れることはあるが、死ぬことはない。ギルドと同じだ」


 うーん……。じゃあ、やっぱり俺のことなのか。

 どうもギルド堕ちというのは、普通はスキルを使えないらしい。俺も完全ギルド化するとそうなる。逆に言うと、俺はギルド化しなければスキルを使える。

 合成種ねぇ。イマイチぴんと来ねーな。だから何?って感じだ。


「【間諜兵】は不完全な合成種だ。お前も間諜兵なら分かるだろう。どちらかが強まれば、どちらかが弱まる。つまり合成種とは……遠い未来で完成した最高指揮官の予想図を指して言う。不滅の属性を代償に捧げ、莫大な力を得たギルドだ」


 あー。なるほど。なんか聞いたことありますわ。そりゃ強そうっスね。戒律ってのは命に価値を見出すルールだから……不滅、死なないってのは思い付く限り最大の条件なんスね。


「そういうことになる。そして代償に『不死』を差し出したギルドは殺せるようになる。GGO社がやろうとしてるのはそれだ。だからプレイヤーを集めて戦力を育てる。合成種がどれほどの化け物になるのかは……やってみないと分からないからな」


 まぁ俺には関係ない話である。俺が生きてるうちにそんな大事件は起きないだろう。何億年後に地球は膨張した太陽に飲み込まれますって言われても、ふーんとしか言いようがないのと一緒だ。漠然とその頃には人類は滅んでる気がするし。今からせっせと地球を脱出する準備を始めても人類が滅んだら意味がない。よって今は人生を楽しむターン。夏休みの宿題と同じである。


「……【間諜兵】はそれに近いことをやれる」


 そうか。そういうことだったのか。

 俺はようやく理解した。

 今、俺が直面しているのは奥義開眼イベントだったのか……!

 カシラぁ! 言うなれば合成スキル……ッてことですね!?

 ……そうなのか? にしては話の流れがおかしくないか? 俺は半信半疑ながらも間諜兵の特性を活かした奥義という展開に興奮した。


「…………」


 カシラは答えない。不自然に長い沈黙。なに? なんなの?


「ああ……! 俺がお前を強くしてやる……!」


 ええ? あんたそんなキャラでしたっけ?

 何はともあれ、まさかの修行編に突入である。



 14.ムィムィ修行


 細かい経緯は省くが、俺は奥義を習得した。


 室内では危ないということで、ガキンチョどもが走り回る公園にて。

 人の命よりも何よりも器物破損が面倒臭いのは、どこの星も一緒だ。

 とにかく人以外に当てると面倒なことになると配慮した結果、威力とかは全然実感できなかったけど、まぁビジュアル的にそれっぽいことはできた。

 俺は地べたに片膝を付いて肩で息をする。

 ハァ……! ハァ……! で、できた……!

 口だけ出して他は特に何もしてくれなかったカシラが満足げに頷く。


「今の感覚を忘れずにな」


 か、カシラ。


「ん?」


 あの、途中で言い出すのもアレなんで黙ってましたけど、俺、今のヤツ前にやったことありますわ。

 俺は最終奥義をとっくのとうに習得していた事実が判明した。危なっかしいので使わなかっただけで。なんなら忘れていた。


「そうか……」


 カシラは少し悲しそうだった。

 ケツにしっぽを生やしたガキンチョどもがワーワー駆け寄ってきてカシラの身体をよじ登り、カシラのご立派な角にぶら下がる。

 鉄砲玉かテメェーら!? 散れっ!

 カシラはシカ系男子だ。お嬢とは似ても似つかないが、そもそもムィムィ星人は変な遺伝の仕方をする。シカならシカ、キツネならキツネで混ざり合うことがなく、一方で隔世遺伝的なアレはあるらしい。いや、なんで? その二つって並び立つんか? ケモ度も半端で、カシラの場合はご立派な角くらいしかシカ要素がないのだが、つぶらな目が、どことなくシカっぽいような? そうでもないような? ああ、でも、シュッとした手足はそれっぽいかなぁ……と思わなくもない。

 俺の最終奥義は禍々しいビジュアルをしているため、ガキンチョどもを追い払うのに役立った。

 へっ、口ほどにもねえ。泣かしてやったぜ。

 息を切らして戻ってきた俺に、カシラがぽつりと言う。


「見てて思ったんだが」


 はぁ。


「合成種というのは、意外と大したことはないのかもしれないな」


 それは俺も思いましたね。不滅の属性を代償に捧げるって言うと凄そうですけど、なんかエラーが起きてる感がありますわ。

 あと、カシラ。手土産にウチの特産品ガムジェムを山ほど持ってきたんで兵隊を貸してください。


「何故か市場で枯渇しないという例の魔石か。この星の人間と規格が合うとは思えないが……子供は喜ぶかもな。いいぞ」


 バレてたが、許しが出た。

 このシカ系男子、俺に甘いな? なんでだろう。

 やっぱアレか。俺に同情してくれてるのか。

 お嬢の夢はギルドキングになることだ。

 実はギルド愛好家というのは結構居る。そうした連中が自慢のギルドを持ち寄って鑑賞したり、撮影会をしたりする集まりがあって、将来的に俺もお嬢に連れて行かれる予定だ。カラダが出来てからとか言ってたから、たぶん俺の兵科が仕上がるのを待ってたんだろう。

 でー、ギルド愛好家ってのは純粋なギルドはとても大切にするのに、何故かギルド堕ちに関しては扱いが雑というか酷使して自分の色を付けてこそ一流のギルドブリーダーという風潮がある。反抗的でギラギラしているギルド堕ちほど喜ばれるのだ。本当になんでなんだぜ?

 イヤだなぁ。ドーピング漬けは序の口らしいじゃん。お嬢はそんなヒデーことしねぇだろって信じてやりたいところだけど、あのギャル頭おかしいからな。カシラの育て方が悪かった。やっぱヤクザな商売はダメだわ。マツさんの言う通りだ。お嬢の場合は社交能力は高いし美貌や愛嬌といった天性の資質も備わってるのに、願望とか希求とかその辺がグロくてエグい方向に偏ってる。ヤバい女に目を付けられちまったぜ。でも俺はそういうヤバい女が嫌いじゃない。今はまだ衛生兵パイセンがポケモンで言うピカチュウポジションに居るが、うかうかしてたらその座を俺に奪われるかもナ? くくくっ……。

 とにかく、この星でやるべきことはひと通り終えた。警察には所轄の違いで縄張り意識ってのがある。長居をすると事務手続きバトルを制した面倒な連中がしゃしゃってくる。俺をブタ箱にブチ込むために自分はこの世に生まれたのだと勘違いしちまった過激派だ。そいつらは紛うことなき公僕で、飼い慣らされた犬だから、今はお偉いさんに「待て」をされてダラダラとよだれを垂らしてエサのお預けを食らっている。「ヨシ」が掛かる前にさっさとこの星をトンズラする。それが俺のプランだ。言っちゃ何だが、こういうのは慣れてる。

 俺はカシラと簡単な打ち合わせを終えて、UFO駐車場に向かった。



 15.ムィムィ脱出


 マツさんはベムやんが俺のことを気に入っているというようなことを言っていたが、俺はそんな大層なモンじゃないと思ってる。

 ベムやん号を俺が運転できないとマズい事態が多発して、ドライバー登録したら、あとはもう、なし崩しで習慣化していっただけだ。

 ベムやん号は俺のクルマだ。少なくとも法律上はそういう扱いになる。

 土足厳禁は当たり前として、クルマん中でメシを食ったら殺す。もしも例外があるとすれば微粒子レベルで食べカスを零さない能力を俺の前で絶対確実に証明できたヤツだけで、そんなヤツは今のところ一人も居ない。

 靴底をパンパンしてからしっかり袋に入れて、運転席に乗り込む。生体データを照合して、俺をご主人様と認識したベムやん号の車内機器が「お帰り」と言うように順に起動して光を灯していく。光の色彩はオールグリーン。

 自家用UFOはレーシングマシンと違ってスピードよりも安全性を重視せざるを得ない。だからひと目で消耗パーツの交換目安が分かるようになっている。緑→黄→赤というふうにだ。地球の車じゃ、この手の技術はまだ無理だな。ほとんど常に黄色サインになるだろう。

 俺は目がいい。聴覚や嗅覚は宇宙空間じゃ大して役に立たない。ニジゲンよりも、リリララよりも、俺はベムやん号をうまく運転できる。だから、これだけは……誰にも負けたくない。

 俺はハンドルを握った。サイドブレーキのロックを親指で押し込んで一時解除し、バーを押し込む。反重力装置が働き、車体が浮き上がる。

 駐車場でサングラスなど掛けて缶コーヒーを飲んでいたムィムィ星人が、スーッと真上に浮上したベムやん号を見て、ぴゅうッと口笛を吹いた。やるねぇと言わんばかりに俺を指差す。

 ムィムィ星人にしては長身の、サングラスを掛けた気取った野郎だ。動物らしい特徴が見る限り一つもない。

 俺は朗らかに声を掛けた。

 よう! 非番かい? そりゃ良かった。イイ服だな。キマってる。俺とのデートに、そんなおめかしして来ないよな? たまの休日だ。天気もいい。あんたの気持ちは分かるつもりだ。こんな日くらいは仕事を忘れてゆっくり羽を伸ばしたい……。そうだろ?

 グラサンを掛けたムィムィ星人は大仰に肩を竦めて、スマホを取り出した。ワンプッシュしてスマホを耳に当てる。

 ワンちゃんがよぉっ!

 俺はベムやん号を発進した。チラリと後ろを振り返ると、くだんのムィムィ星人がグラサンを外して俺を見つめていた。ドキッとするようなイケメンだ。男らしい厚い唇が微かに上下する。


「私以外には捕まってくれるなよ」


 そう言った。

 だったら通報すんなや! しかしヤツは宇宙警備隊のエースだ。ツイてる。ムィムィ星人は仕事熱心すぎて過去に色々あったのか、非番の警察官を現場に駆り出すにはかなり面倒臭い手続きが要る。今から手続きをしても申請が通る頃には俺はムィムィ星域を抜けているか、とっ捕まってブタ箱にブチ込まれているかのどっちかだ。

 発進前に見つかったのは不幸だが、ヤツが追って来ないと分かったのは大きい。条件は五分と五分。俺はまだ何も失っちゃいない。

 問題はコタタマくんとベムやん号という脱走コンボを匂わせるデッキが、公僕どもの縄張り意識にどう作用するか。

 ゴタつけっ、ゴタつけ〜……!

 俺は念を送る。が、ダメ……!

 おっほー! 警察署のある方角からパンダカラーの警察UFOが次から次へと浮上してくる。ヘタクソが! 車体がフラついてンぞ!

 もはや一刻の猶予もない。俺はベムやん号をデカいマンションに寄せ、八十組の本部に外から呼び掛ける。

 ベムやん! アンパン! こっちだ! 靴脱げ!

 左右の靴を手にぶら下げてベランダに出てきたベムやんがボヤく。


「結局こうなるのか……」


 文句を垂れつつもぴょんとジャンプしてスッと助手席に収まる。問題はアンパンだ。万が一にも車体が傷付いたらイヤだから、あまり幅寄せできなかった。俺は別にプロのレーシングドライバーでも何でもないのだ。

 アンパンはビビっている。

 アンパン! 飛べ! 俺が受け止める!

 意を決したアンパンがえいっとジャンプする。

 目測を誤ったか? アンパンの飛距離が足りない。しかし腕を伸ばせば届く。手が届けば引き込める。

 パンチラ必至のシチュエーションに俺は身体の底から湧き上がる力を感じた。ネカマであろうとパンチラに貴賎なし。届け……!

 空中でもがくアンパンがこちらへと腕を伸ばす。

 助手席のベムやんがイイ仕事をしてくれた。ベムやん号がアンパンに合わせて降下していく。

 俺とアンパンの指先が触れる。指を絡めて手繰り寄せるように手を掴む。

 その瞬間であった。

 時間にしてコンマ数秒にも満たない時間。手と手が触れ合った瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは……冷蔵庫であった。

 漫画とかでよくある展開だからイケるだろうと甘く考えていたことは否めない。女子の身体というのは羽のように軽いのだと思っていた。しかし特にそんなことはなく、冷蔵庫くらいの重さがあると理解(わか)った。二、三人くらいのクランで、本当に気心の知れた連中だけでやって行こうぜっていう方針のクランハウスに置かれる冷蔵庫くらいの重さだ。俺は詳しいんだ。

 俺は諦めてアンパンをぺいっと投げ捨てようかと思ったが、この時のアンパンはお嬢の学校の女子の制服を着ていた。俺はコスプレ系もイケるクチだ。制服モノは言ってしまえば初心者用で、それゆえに間口が広く、様々な場面で応用が利く汎用性があった。俺は基礎を疎かにしない。

 制服がアンパンの生死を分けたのだ。

 アンパンこのバカ野郎っ! 気合一発、腰がどうなっても構わないと覚悟を決めてアンパンをグイィと引き込む。すかさず全身で受け止めるように抱き締めて運転席に雪崩れ込んだ。ハンドルを片手で回してアクセルを踏む。アンパンが邪魔だ。助手席のベムやんに預けるなり後部座席に放り込みたいが、どうやら公僕どもはこっちの都合を配慮しちゃくれないらしい。


「海賊ヤローッ!」

「居たなぁッ! 崖っぷちィー!」

「喜べッ! お前を俺のコレクションに加えてやるッ!」


 ほざけ雑魚星人がッ!

 雑魚星人が立ち上がってこちらを指差す。飛び交う光弾を俺はハンドルを切って躱した。そのワザは一度見たぜッ! クルマに効くんだろッ!

 弾幕を抜ける。

 連続する急浮上と急旋回にアンパンが悲鳴を上げた。


「ナニっ!? この人ナニしたのっ!? 凄い執念を感じる……!」


 むっつりと押し黙っていたベムやんが、不意に吹き出して朗らかに笑った。


「いいぞ。分かった。私はもうムィムィ星人を殺さない」


 俺はハッと笑い飛ばして軽口を叩いた。

 雑魚星人だからな。殺したって大して経験値入んねーしよ。

 俺はアンパンの今にもへし折れそうな細い腰に腕を回して、肩越しに振り返った。ムィムィ星人は運転がヘタクソだ。まっすぐ飛ぶだけなら誰でもできるが、360度自在に動けるUFOは平面の動きしかできない地球の車よりもライン取りが重要になる。つまり非力なムィムィ星人にはできないハンドルさばきというものがあるのだ。自家用UFOは別にムィムィ星人専用に作られたモンじゃないからな。

 何をやらせてもダメな雑魚どもだが、今日俺はコイツらの意外な一面を知った。コイツらには利用価値がある。それは七土種族や五系民族ですら持たないものだ。

 俺は必死こいて俺を追っ掛けてくる雑魚どもに向けて叫んだ。

 おい! 近いうちにツレを連れてまた来る! そん時は存分に遊んでやるよ! 今日んトコはお開きだ! ケガしないうちに帰ンな!

 雑魚どもとて俺に追い付けないことは分かっている。本能的なアレで、逃げる何かを追い掛けるのが好きなんだろう。そういう時の彼らはとても荒々しく、大胆な一面を見せる。


「なるほどなァッ! お前も俺と『同じ』ッてことかァー!」

「結婚式だよゥー!」

「ウッ、ウッ、ウッ、ウオオオオォォォォォん!」


 ……ダメだ。まったく話が通じん。

 興奮のあまり獣化が進んだ輩まで出てしまった。

 ムィムィ星人は変身種族ではない。

 このゲームにおいて「変身種族」と呼ばれるに足る「変身」とは弱体化して餓死を免れる「非戦闘体」への換装を指す。

 そうした明確な線引きが為されている。

 一時的に先祖返りするようなチャチなものではないのだ。

 しかし送り狼に化けることくらいしか能がない俺からしてみると、ムィムィ星人のコレも立派な変身である。

 急激にケモ度を増したネコ耳系男子が辛抱たまらんとばかりに上半身ハダカになって叫ぶ。


「お前は俺のモンだァーッ! 誰にも渡さねェェェェッ!」


 ……ムィムィ星人は、犯罪者を追っている時に脳内で恋愛感情と似た症状が出る。

 そうした特性が、ムィムィ星人を法と秩序の走狗たらしめているのだ。

 恋は盲目という言葉もある。

 つらく険しく地味な張り込み捜査も、ムィムィ星人の優秀な刑事は恋に恋する乙女のように驚異の粘り強さと忍耐力でホシが出てくるまで待つだろう。雨が降ろうと嵐に吹かれようとも決して諦めない。いや、それどころか困難が立ちふさがるほどにムィムィ星人の情念は熱き血潮となって燃え盛り、ついには……。


「ニャーン!」


 バカかテメェーッ!?

 バッと跳躍して落下していくネコ耳系男子を俺は慌ててベムやん号で追う。ベムやん頼む! 俺はアンパンで手一杯だ。フンと鼻を鳴らしたベムやんがすれ違いざまに事もなげにネコ耳系男子をキャッチした。

 ベムやんが「おお、よしよし……」とあやすものの、ネコ耳系男子は飽くなき執念で俺にツメを立ててくる。

 イヤなんでだよ! ベムやんも同罪だろ!


「フギャーッ!」


 ええいやかましい! ベムやん!?


「仕方ない。一機、落とすぞ」


 ベムやんが手のひらを警察UFOに向ける。手のひらを突き破って伸びた角が警察UFOを串刺しにした。串刺しにしたUFOをベムやんが腕を引いてぐぐっと引き寄せる。どういう腕力だ……。こういう場面を目の当たりにすると、やっぱりベムやんは七土種族なんだなと再認識させられる。

 ムィムィ星人の警官は基本的に二人一組で動く。

 同僚の危機にネコ耳系男子が「ニャッ!」と目を丸くしてぴょんとベムやんの角に飛び乗る。名残惜しそうにチラリとこちらを振り返ったネコ耳系男子に、ベムやんは少し寂しそうに笑った。


「行け。二つに一つしか選べない時は、遠くにあるものを選べ」


 微妙にイヤな感じの含蓄が込められた台詞だった。

 込められた想いがあまりに重く、何か具体的なエピソードが背景にありそうなものだったから、狂いきれないネコ耳系男子はベムやんの角をトトトッと伝って人命救助を優先する。

 暴走した同僚の不手際もあってか、警察UFOの追跡がゆるんだ。俺は邪魔なアンパンを後部座席に放り込み、アクセルを吹かす。

 ベムやんは星を見つめていた。


 ……惑星ティナンに帰ろう。俺たちの母星にな。




 これは、とあるVRMMOの物語

 UFOは落とせても、狙った女は落とせない……。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] つまり ホ モ の 星 [一言] ムィムィのほうが攻略進んでるのかな?
[一言] 結局ホモなんだよな。
[一言] よその星いってもホモが群がってくる
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