蟲愛づる姫 6.00
16.落星マムダッド-スピンドック平原
ああ、忙しい忙しい。
別の星で軽く前準備を終えた俺は、トットコとライブ会場へと急ぐ。
現在時刻は朝の6時。
かなり余裕を持ってスケジュールを組んだのだが、結局ギリギリになってしまった。ぶっつけ本番は良くないかもしれんと俺は思い直した。だが全ては後の祭りである。
俺がこうまで焦るのは理由がある。
今日、日本サーバーの未来を背負う人物が決まるのだ。
事の起こりはこうだ……。
俺はヌルッと回想シーンに入った。
17.回想-山岳都市ニャンダム-怪しい倉庫
「コタタマくん。私に死に場所を用意してくれないか」
おっけー。
スマイルくんにそのように言われた俺は軽い気持ちで請け負った。
過日、スマイルくんはセブンに敗北を喫した。しかし女神の加護の作用で死亡判定があやふやになっていたらしく、君主のジョブはセブンに渡らなかった。一連の出来事を「ラッキー」と捉えるには、スマイルくんはいささか難儀な性格をしていたのである。
正直、俺もそれは気になっていた。スマイルくんはセブンに負けた。その事実は揺るがない。君主のジョブは勝者の手にあるべきだという思いがあった。それに、頭はころころ変わったほうが面白ぇ。スマイル政権はそれなりに楽しめた。もういいだろ。今こそ野党が立ち上がる時だ。その結果、どうなろうと俺の知ったことではない。
さてさて、どんなふうに派手に処刑してやろうかねぇ。
俺は滅多に見れないスマイルくんの血の色を特等席で確認できるとあってウキウキした。
ところがスマイルくんの提案には裏があった。
俺が承諾したのをいいことに、面倒臭い注文を付けてきたのである。
「コタタマくん。私はやはり……なし崩しでリチェットの手に君主が渡る……そうした事態は承服しかねる」
なに……?
「君にセブンを説得しろとは言わない。説得するのは私だ。そのための場を整えてくれないか」
それは、つまり、チームスマイルと【敗残兵】幹部の話し合いの場を設けろということである。
人知れずスマイルくんを処刑して人伝てに君主のジョブをセブンに送り届けるのとはワケが違う。
敵対関係にあるチームを、余計な真似をしないよう両チームに言い含めた上で引き会わせる。
それは、簡単に言うと、お前らの敵があそこの倉庫に居るけど、話し合いの場だから武装解除して倉庫に入ってねと言うようなものである。
通常、そうした場合は第三勢力を用意して抑止力とする。しかし今回それはできない。その第三勢力が君主のジョブを持ち逃げするからだ。
き、汚ぇーぞ……。
俺はスマイルくんの卑劣な罠にハマったのだ。
断ろうにも承諾してからでは遅い。俺はもうスマイルくんの血の色が気になって仕方なかった。自分でもどうかと思うが、ネフィリアが俺をそうなるよう仕向けたのである。許せん。許せんが、こうなってはやるしかない。
俺はひとまずネカマ六人衆に話を持ち掛けた。
無能と評判の六人衆であるが、人の善意を信じることを忘れた哀れな廃人どもを説得できるとすれば、それは先生のような神か、もしくは無能しか居ないと思ったのである。
六人衆は腐っても【敗残兵】の幹部だ。【敗残兵】からしてみれば、いいからさっさと君主のジョブをセブンに寄越せよという話であったが……そこは無能である。
「おっけー」
バカみたいに安請け合いした六人衆に俺は追加で注文した。
対等な話し合いの場だ。あとになっていくらでも反故にできる案件なので、騙し討ちのような真似はできない。つまり事前に説明をして、双方納得した上で俺が待つ倉庫に来て貰わねばならない。もちろん俺は何もしない。何もしないが、絶対に何もしないと保証することはできない。不可能だからだ。この話を俺が持ち込んだという時点で俺にアドバンテージが発生している。
六人衆はアホヅラを晒して大丈夫だいじょうぶと連呼した。
「考えすぎだって〜」
「ペタ氏はウチの子を何だと思ってるの?」
「よゆーよゆー」
「ただ、セブンがね……」
「そう。セブンはいったんハブろう」
「いいね。セブンはリチェットの言うことなら聞く」
ふむ、それなら……。
俺は安心した。考えなしに思えた六人衆だが、ちゃんと頭には脳みそが入っていて、思考能力が備わっているのである。
しかしダメだった。
安牌に思えたリチェットが変なキレ方をしたのである。
「ウチのセブンに施しを受けろと言うのか……」
ヤバッ……!
ヤバめにヤバめなヤバさだった。
大誤算である。
リチェットさんはセブンに君主が渡らなかったことに「納得」していたのである。そういう仕様なのだから仕方ないというのはプレイヤーをたしなめる魔法の言葉であったが、心情的に納得できないことは多々ある。その辺の切り替えの早さというか心構えが、【敗残兵】クラスの廃人ともなると、常人離れしており、シグルイの虎眼先生の言葉を借りると、
「できておるのう……」
ということらしかった。
この件は、とにかくグッチャグチャに荒れた。クソ廃人どもはチームスマイルとの全面戦争を望んでいたし、セブンは「話し合って何になる?」と、とりつく島もなかった。昆虫めいた忠誠心を持つ男である。野心などという概念はない。さらに面白がったサトゥ氏が要らん茶々を入れる。
「いいじゃないか。セブン。次あたりお前の番だろ。ヤツの首は俺が獲るが……。そうしたらお前はどうする? ウチの頭はリチェットだ。お前は俺から【君主】を奪わなくちゃダメってことになるな……」
こうなってはやむなし。
俺はクソ廃人どもを皆殺しにした。
皆殺しにした上で、お前らのようなクソを心から満足させてやることができるのはスマイルなどではない……この俺であることを心根に叩き込んでやった。
おかわりを欲しがるクソ廃人どもにエサをチラつかせながら、お前らはたった一人の俺に負けたんだと殊更に煽って敗北感を植え付け、欲情したクソどもに殺し殺され……俺も手持ちの駒を動員して【敗残兵】と全面戦争に突入した。
最終的に俺の首を獲ったのはサトゥ氏である。
「獲ったどー!」
高らかに勝ち鬨を上げたクソ廃人どもは、なんだか満足したらしく、
「スマイルと話し合い……? ああ……そんな話もあったね。別にいいよ……好きにすれば?」
と、気怠げに合意した。
俺は復讐を誓ったが、ともあれ会談の場にクソの幹部どもを連れ出すことに成功したのである……。
あとはスマイルくんがセブンの説得に失敗してリチェットの手に君主のジョブが渡る……それで一件落着だろうと思っていたのだが、ここで思わぬ展開に突入した。
意外な人物が反対したのだ。
ネカマ六人衆である。
彼らは口々にこう言った。
「そんなのダメだよ」
「ダメダメ」
「反対。はんたーい」
意外すぎた。
そもそも俺とクソどもの橋渡しをやってくれたのはコイツらである。
その場にはスマイル一味と【敗残兵】の廃人三連星、メガロッパと俺、あと何故かネフィリアが同席していた。スマイルくんが俺に黙って呼んだとも思えない。そういうスジは通す男だ。となると、この女は呼ばれてもいないのに勝手に出席したことになる。
ネフィリアは歩兵ちゃんの上に座り、当日になって急に駄々をこね始めた六人衆をウンウンと頷いて見守っている。
セブンがイッチの頬をぶにっと掴んで詰問した。
「あ? なんでだよ?」
「うぶぶ」
「そんな脅したってダメですぅー」
「君主はウチには要りませーん」
「俺らが決めました」
「だってフレリが白紙になっちゃうんでしょ」
「そもそもさぁ、殺されたら移っちゃうんでしょ」
それはそう。君主のジョブは保持するのが難しい。殺されたら一発アウトで、全スキルを使える君主がどんなもんか一度くらいは試してみたいというプレイヤーは多い。とはいえ周知の事実なので、そこら辺は廃人三連星にも考えがあった。
「別にリチェットが君主を持つ必要はねぇ。ウチの誰かが持ってりゃいい」
一方、サトゥ氏はガラス玉のような目ん玉でネフィリアをじっと見つめていた。
ネフィリアはサトゥ氏の視線に気付いていないフリをしている。
「私はどちらでもいいが……【敗残兵】に手を貸すつもりはないぞ。私がスマイルに力添えをしてやったのはRMT業者に興味があるからだ。私は悪い魔女だからな」
君主キープの定石は、いつでも狙撃できるよう歩兵ちゃんを配置すること。君主を奪われる前に死んじゃえという理屈だ。
深謀遠慮のネフィリアたんに無謀な対抗心を燃やしたのはメガロッパである。
「レンタルギルドがあります」
ネフィリアは即座に反論した。
「レンタルギルドはその名の通り貸しているだけだ。ヤツらは私の命に逆らえない」
……レンタルギルドを使った場合、ネフィリアが動いた時に君主の守りは手薄になる。そして俺ならそのタイミングを狙う。ごく当たり前の発想だ。
君主というジョブは、ヘタをすれば消える。人から人へと渡っていくジョブであり、そこが通常のジョブとは違う。
……ネカマ六人衆に余計な入れ知恵をしたのは、おそらくネフィリアだ。その背景には、きっと自分をのけものにして話を先に進めようとする連中への意趣返しの意味もある。会議の主導権は寂しがりの魔女に握られつつあった。
サトゥ氏が湯飲みに手を伸ばす。
ネフィリアが過剰に反応した。サトゥ氏に杖を突き付ける。
「近寄るな。私にナニをするつもりだ」
近寄るというか腕を伸ばしただけである。しかしサトゥ氏は否定しなかった。本当にナニをするつもりだったのだろう……。
サトゥ氏は薄ら笑いを浮かべながら手を引っ込める。
「同じβ組じゃないか。どうして俺の邪魔をするんだ?」
ネフィリアはこの場に居る誰よりもサトゥ氏を警戒していた。
「……勝手に仲間意識を持つな。お前らは厄介なんだよ。力と狂気で他を抑圧する。特に戦闘員の仕上がりは……私の予想を越えた。お前らは危険だ。放っておけば妙な秩序を作り出しかねない」
「冷たいこと言うなよ。友達だろ?」
「友達じゃない」
「ワガママ言うなよ。ネフィリア。お前がどんなに守りを固めても、俺たちが本気になればお前の家に乗り込める。でも俺はそれをやらない。お前のことを友達だと思ってるからだ」
サトゥ氏はこの場に居ない小娘どもを人質に取った。人質はこう使うんだとばかりに。
……【敗残兵】の教導は強烈だ。人間の精神を改造する手管に長ける。
ヒリつくような交渉に、ネフィリアが不敵に笑う。
「コタタマが黙っていないぞ」
急に俺を巻き込むな。
とにかく、イッちゃんらは君主をザンヘイが持つのは反対なんだな?
リチェットがどうでもいいことに気が付く。
「イッちゃん……。コタタマ、前からそんなふうに呼んでたっけ……?」
俺の勝手だろ。なんて呼ぼうが。
「ペタ氏と俺らの仲だからね」
「ペタ氏は俺らに優しい」
「たまにスカートめくってくるし」
それは念のためだよ。誤解されるような言い方はヤメロ。
俺はLGBTに理解を示す男。なので、見た目が女ならネカマでも一定の敬意を払う。しかし日本はその手の思想に遅れがちなので、ネカマと仲良くしてるとホモ扱いされる。だから俺のネカマに対する態度は今後のLGBT気運の高まり如何に懸かっている。俺に思想などというモノはなく、偉そうに思想を語るほどの知識もないからだ。流されるだけの人生ですよ。
鉄壁の理論武装をしながら俺はこう思った。
……ダメだ。この話はまとまらない。そもそもコイツらに期待した俺がバカだった。俺は、ただ……スマイルくんの血の色を確認したい。それだけなんだ。それだけでいい。俺はスマイルくんに熱視線を送った。
俺の目がビカァと光り、放たれた熱線がスマイルくんの肌を小麦色に焼いていく。
分かりやすいほど分かりやすい俺の期待の眼差しに、スマイルくんが「分かった」と手を振った。
「いったん君主と国主をバラそう。私はセブンを説得するつもりだったが……それはどうやら私の独り善がりだったらしい。お前たちを侮辱するつもりはなかった。許せ」
許せと言いながら頭を下げないのはスマイルくんらしいプライドの示し方だった。別に自分が悪いとは思っていないのだ。
スマイルくんが続けて言う。
「しかし、こうした場を持てたことは瞠目に値する。二度とないかもしれない。つまり……千載一遇の機会ということだ」
スマイルくんの言いたいことは分かる。
これだけの豪華メンバーが揃ったのだ。このまま解散するのは勿体ないということだろう。
しかし、この流れは……誰が作り上げたものなんだ? 俺には分からなかった。それとも偶発的なものなのか……?
分からないが、嫌な予感がした。またぞろ俺がろくでもないことになるのではないか……という予感だ。このままスマイルくんに喋らせるのは危険だと感じ、とっさにネフィリアに話を振る。
ネフィリア。結局んトコ、お前は何をどうしたいんだ? 君主の維持はお前に懸かってる。お前の言うことなら……。
と、そこまで言って俺はしまったと思った。
俺は無意識のうちにネフィリアを自分の味方だと思っているのだと自覚したからだ。
悪い魔女がニヤ〜っと笑った。俺をじっと見つめて言う。
「国家元首が君主である必要はない。日本は民主主義国家だ。ならば、国を代表するものを国民が選ぶのがスジではないか?」
俺は熱に浮かされたように言う。
り、立候補者から選ぶってことか……?
「そんな必要がどこにある? 日本サーバーを背負って立つものは誰が相応しいか……宣伝をする段階はとうに過ぎている」
その場合……先生が勝つぞ。先生を頭に据えて、お前に何の得がある? 何を企んでる……。
ネフィリアは……正確に俺の心理を読んでいる。恐ろしいまでの精度で……俺が欲しい言葉をくれる。
「否とは言えまい。日本は民主主義国家だ。選ばれた本人が異を唱えようとも関係ない。それが民意だ」
俺はギリギリで踏みとどまった。ぶるぶると震える指でネフィリアを指差して叫ぶ。
先生はお忙しいんだッ! そんな下らねぇことに関わってられっかよ!
俺は先生が導く国を見たかった。
国だッ!? 下らねえ! 頭なんざ要らねんだよッ! 俺は! 俺はッ……!
俺は先生以上の適任は居ないと確信していた。
ネフィリアの赤い唇が魅惑的な弧を描く。ささやくように言った。
「ならばお前が追い落とせばいい……。私は、存外……お前が勝つんじゃないかと思っているぞ?」
俺は助けを求めてバッとサトゥ氏を見た。見てから、やはりしまったと思った。
俺は何故か追い詰められるとコイツに縋ってしまう。それは何やら俺の羞恥心を刺激する事実だった。
サトゥ氏の顔面は黒く塗り潰されていた。
完全なる無であった。
え……?
リチェットがサトゥ氏の顔面の前で「おーい」と手を振る。
サトゥ氏が言った。
「総選挙か。面白そうだな。やろう」
そういうことになった。
18.【目抜き梟】クリスマスライブ会場
……完全にハメられた。
つまり俺はやりたくもない頭を張るために選挙で勝たねばならない。
普通にやったら間違いなく先生が当選する。ネフィリアの言うことはもっともだ。たぶん先生は選ばれたら断れない。
しかし先生のご負担を今以上に増やす訳には行かない。
俺は……本当は誰よりも先生の国政を見てみたいのに。
まぁ俺が勝てばいい。頭なんざに興味はないが、なったらなったでどうにでもなる。誰も俺の行動を強制できないからだ。
MMORPGに頭なんてものは要らない。
俺はそう考えている。
各々で勝手に判断してバラバラに動けばいい。その結果、国家間GvGに負けようが俺の知ったことではない。いっそ負けてしまえばいいのだ。占領されてしまえばいい。ひどい扱いを受けるようなら、俺は俺が認める心優しい人々と共にムィムィ星にお引っ越しをする。女神像に囚われたゴミどもはこの星で無限に争い続けるといい。
俺は選挙に勝つ。愚昧な民に先生の叡智を授ける必要など一切ない。知恵の実を口にするのは楽園に生きる優れた人種の特権であるべきだ。
という訳で、俺はネフィリアと一緒にせっせと機材の配線を養生テープで留めていた。
「むっ……!」
目端の利くネフィリアが会場の異常を察知して吠える。
「モッニカはどこだ! モッニカが居ない! 何もやることがなくても現場を離れるなと私は言ったぞ! 本当にやることが何もないならボーっと突っ立っているのがお前の仕事だと何度言わせるつもりだ!」
俺が言いたいことを全部ネフィリアが言ってくれた。
やっぱ楽だわぁ……。
俺はネフィリアをたしなめる。
まぁまぁ、ネフィリアさんや。そう目くじらを立てないで。少しくらい、いいじゃないか。モッニカにもモッニカの事情があらぁな……。呼ばれてるのに無視する訳にも行かんでしょ。
ネフィリアがキレ散らかす。
「なんなんだ、このクランは! 何故モッニカに補佐を付けない!? あの女はどう考えてもオーバーワークだ! 周りがフォローすれば良いという問題ではない!」
それもどうかねぇ……。普段はモッニカ一人で何とかなってるんだろう。むしろ余裕があるくらいなのかもしれない。
キレ散らかす係にネフィリアが就任したことで、俺は冷静さを保てた。
今の俺には分かる。
今、モッニカ女史の多忙さを作り上げているのは、とてもがんばっているネフィリアなのだ。
この女がバンバン作業を進めるものだから、本来であれば本番までに間に合わず、妥協してしまっても何とかなってしまう部分をガンガン埋めていく。
だからモッニカ女史はネフィリアの作業が滞らないよう動くし、確認業務が後からどんどん湧いてくる。
それ自体は良いことだ。
ライブのクォリティは向上するだろう。
言ってしまえば、理想を追って余計な作業を増やしてる訳だな。去年の俺もこんな感じだったのだろう。
ありがた迷惑というヤツだ。
まぁネフィリアに関して言うなら俺より一枚上手だ。何しろこの女は歩兵ちゃんという絶大なマンパワーを持っている。
現時点で、すでにライブは始めようと思えば始めることができる。そういう段階に達していた。
今日、国内サーバーの頭を決する総選挙が執り行われる。
問題は投票率だった。
ゴミどもの大半は、まず面倒臭がって選挙に参加しない。
だから手を打った。
【目抜き梟】クリスマスライブと総選挙の融合である。
ライブを政治に利用するのだ。
もちろんモッニカ女史は難色を示したが、絶大なるマンパワーを抱えるネフィリアが交換条件を提示した。
彼女は、アイドル気取りどもにこう言ったのだ。
かつてない最高のライブにしてやると。
そしてこうも言った。
「まず、利用というのがズレている。少し人気が出たからと慢心しているようだな……。利用と言うなら、こうだ。政治をライブに利用しろ。かつて鳴かず飛ばずだった頃……一番ギラついていた頃のお前たちなら、そうしたハズだ。それとも、お前たちはここで満足して終わるのか? 私には道半ばに見えるがな……。ふっ、その目。やる気だけはあるようだな。いいだろう。お前たちが、どこまで行くのか……。その答えを見せて貰おう……」
ネフィリアは俺の師だ。
俺の完全上位互換と言っていい。
喉から手が出るほど人手が欲しかったモッニカ女史は、悪い魔女が差し出した悪魔の契約状にサインをした。
しかしモッニカ女史とて辣腕で知られる才媛である。彼女もまた水面下で動いていた。
ネフィリアは……モッニカ女史の企みに気が付いていない。
何故ならネフィリアは今までずっと暗がりに潜む脚本家であり続けたからだ。
かつて先生が指摘したことである。
人間にとって最も遠い人間は自分自身だ。
ネフィリアのように己の才覚に自信を持つ人間ほど、自らの影響力を正しく量ることができない。
だから見誤る。
魔法が解けるのはシンデレラだけではない。
光が当たる舞台に立った時、悪い魔女もまた一人の女性に戻るのだ。
長かった……。
ようやくだ。ようやく、この時がやって来た。
俺はせっせと養生テープを貼りながら思う。
ネフィリア。
お前は脚本家で居るうちは無敵で居られた。
歩兵に守られているお前はまさしく無敵だった。
正直、勝ち目がなかった。
しかし今は違う。
お前は俺が案外楽しくやってるもんだから、大したことはないと勘違いしたんだ。
その勘違いに、小娘どもが拍車を掛けた。
ずっと暗がりに居たお前には分からないだろう。
これは罠ですらない。
悪意に敏感なお前を絡め取るのは、やはり善意だ。
俺は、お前の一番弟子だから……。
俺が何とかしてやるつもりだった。
でも俺一人の力じゃ無理だった。
ついに引きずり出したぞ……。
選挙で勝とうが負けようが、どのみち俺はろくな目に遭わない。
お前の勝ちだ。
俺は負けた。まんまとハメられた。
認めよう。
ここから逆転の目はない。
だが、ただでは死なん。
道連れだ。
お前を殺して、俺も死ぬ。
これは、とあるVRMMOの物語
無理心中かな?
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