ゆとりある生活を求めて
1.クランハウス-居間
ガキンチョとバスケやっておっぱいがどうのと言っている場合ではない。
俺は反省した。
動機が不純にも程がある。第一、井上雄彦先生に失礼だ。
俺は大いに反省した。
……俺は平和をこよなく愛する生産職なのに、事あるごとに血生臭い展開に突入する。思うにそれは俺が欲望に忠実な所為だ。
俺はもっと心に余裕を持つべきなんだ。
キレーなチャンネーと付き合ってる野郎が居てもいいじゃないか。そいつが不慮の事故で分子崩壊したところで俺がキレーなチャンネーとねんごろになれる訳じゃない。
イケメンが滅んだからといって何になる? じゃあブサメンで妥協しとくかという話にはなるまい。恋愛してもつまらんから一人で生きていくわという話になるんじゃないか。少なくとも男はそうなってる。モテないけど独身のほうが気楽でいいや症候群だ。ならば女性もそうなるだろう。
俺は恨み嫉みといった醜い感情を捨てて生まれ変わる必要がある。そうして初めて心健やかに生きていけるんじゃないか。
心に余裕を……つまりゆとりだ。俺に今必要なのはゆとりなんだ。
俺は心を入れ替えた。ドス黒い心臓を排出し、露出した胸部の肉のひだに、ピカピカと輝く一番星のような心臓をドッキングする。床に打ち捨てられ、びくびくと蠕動する前任心臓を、視界の端からひょっこりと現れたちびナイが虫とり網で嬉しそうに回収して天に昇っていく。
俺は植物のように生きたい。ゆとりある暮らし。だが、具体的に何をどうしたらいいと思う?
俺のとなりに座っている知らないゴミが経験値稼ぎを続けながら言う。
「ゆとりか。俺はそういうの割と得意だぞ。ゆとりはゆとりでも真のゆとりの称号は俺にこそ相応しいと何度言われたことか……」
モブにしては味のある人生を送ってるじゃないか。なかなか居ないぞ、そんなヤツ。
「そうか? わざわざそんなこと言うヤツが居るか居ないかの違いだと思うぞ」
そう謙遜するな。で? そう言うからには何か具体案があるんだろ?
「そうだな……。ひとまず、街に行くか。ゆとりと言えば覇気のなさ。ぽやぽや生きてる感を出すには街をテキトーにぶらつかないとな」
なるほど。さすがはゆとり王。ゆとりってのは自分一人で完結するモンじゃないんだな。アピールをしろと。
「そういうことだ」
そういうことになった。
2.山岳都市ニャンダム-露店バザー
ゆとり王と共にゆとりを追い求めて旅を続ける。
露店バザーにやって来たのは、外付けHDDのように心にゆとりを齎すパーツが売ってたら全て解決するからだ。
そんな都合のいいパーツが存在するのかどうかは知らんが、仮に売ってなかったとしても街をブラブラしてたら自動的に俺の内部に発生するかもしれんという二段構えの作戦である。
肩を並べて歩くゆとり王が、俺の手からぶら下がってる斧をチラリと見て忠告してくる。
「崖っぷち。心に余裕だぞ。殺しはナシだ」
なに? じゃあどうすればいい?
俺がゴミの首を刎ねるのは心の平穏を保つためだ。別に争いが好きで殺してる訳ではない。そこを推して我慢するのはむしろゆとりから遠ざかる行為のような気がした。
「だからお前はダメなんだ。血を見ると興奮するんだろ? 血圧を一定に保てず、何がゆとりだ」
難しいな、ゆとりの道は。お前がそうまで言うならやってみよう。まぁゴミに絡まれなければ済む話だ。
「崖っぷち〜」
ゴミがボウフラのように湧いて出た。斧を肩に担ぎ、クチャクチャとガムを噛みながら薄ら笑いを浮かべて歩く、個性のカケラもないようなゴミである。
俺はそいつの血の色がどんな色をしているのか気になって仕方ないが、ここはゆとり王の言に従うこととする。片手を上げて朗らかに応答した。
よう、ブサイク。暇か? ちょっと付き合えよ。
知らないゴミは眉をひん曲げて不審げに俺の顔面をマジマジと眺める。
「ニセモン……じゃねえな。ンだぁ? らしくねーぞ、オイ。ヤんねぇのか〜? 寂しいじゃねぇか〜」
ゆとり王がゴミに事情を説明した。事情を聞いて納得した知らないゴミが旅の仲間に加わった。会話をすることで脳が少し活性化したらしく、知性が向上したようだ。ガラリと口調を変えて言う。
「しかしこの辺はガラが悪いのが多いからな……。組合の付近に移動したほうがいい。シロ様クロ様の目が届くところでヤンチャする気にはならないからな」
んー。それもいいけど、俺は人間を改造するようなパーツを探してンだよ。あの辺は治安もいいが、売りモンも定番のブツばっかだろ。お探しのモンが見つかるとは思えねぇ。
ゆとり王が頷く。
「それはそうだな。まぁ崖っぷちの場合どこでも一緒だろう。チャンネルの接続の仕方がエグいからな」
どうエグいんだよ。
「掃き溜めにツルみたいな感じでシロ様とクロ様が配置されることがあるんだよ。するとだ。お二方にイイトコ見せようとして悪党どもが張り切る」
それはあるかもな。俺は納得した。
勘違いしているプレイヤーが多いけど、ゴミは別にゴミ同士つるんで楽しいとかはないのだ。ゴミだろうと何だろうと仲間は心優しく温和で義理堅いほうがいいに決まってる。
しかし類は友を呼ぶとはよく言ったもんで、ゴミはゴミであるがゆえにゴミのような行動をし、ゴミの活動圏にはゴミが際限なく集まってくる。まるでゴミそのものが引力を生じるかのように。いや、アリ地獄の巣か。
まぁ俺にとっては好都合だ。ゴミはゴミらしくゴミの惑星で身を寄せ合って生きるといい。俺は別の星に行く。心優しいプレイヤーたちに囲まれて牧歌的な暮らしをするんだ。
しかしどういう訳か知らないゴミが一人、また一人と合流してくる。
気付けば50人ほどの集団となっていた。
この誘引力……。尋常ではない。
俺とてチャンネルに関しては一定の知識を持っている。ゴミどもが集団を形成する時、そこにはゴミの核となる人物が居るのだ。
そいつを排除せねば、ゴミの集団は際限なく膨れ上がっていく。
俺は露店バザーを出て、山岳都市の広場に移動した。
ぱんばんと手のひらを打ち合わせて、一堂に会したゴミどもの注目を集める。言った。
今からお前らには殺し合って貰う。間引きってヤツだな。こんなに頭数が多いと歩きにくいだろ。露店の店主も怯えるしよ。
ゴミどもは納得した。
「確かに。邪魔だなと感じていた」
「まったくだ。暇人しか居ないのか」
「五人、いや三人に絞ったほうがいい」
そうだろうそうだろう。
……ゴミの核となる人物が腕っぷしが強いとは限らない。いや、この人数だ。腕っぷしなど関係ない。結局は運だろう。三人まで絞ればゴミの核を排除できる可能性は高い。
ゆとり王はここで死なせるにはちと惜しいが、ゆとりのコツは掴んだ。あとは俺一人で何とかなるだろう。もう用無しだ。死んでヨシ。
しかし……。
俺は各々の武器を構えて向き合うゴミどもを眺めた。
……ふん、楽しそうじゃねえか。ちと妬けるぜ。
険しいな、ゆとりの道ってヤツはよ。
俺は斧を肩に担いで手頃なタルに腰掛けた。合図を待っているゴミどもに大声で号令を掛けてやる。
始めろ!
これは、とあるVRMMOの物語
今日はゴミパだ〜。
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