ポケットモンスター スカーレット・バイオレット。2022年11月18日(金)発売予定
1.クランハウス-居間
モグラさんぬいぐるみと一緒にウチの丸太小屋で経験値稼ぎをしている。
新要素が追加され、プレイヤーは運命の岐路に立っているようだが俺には関係ない。俺はミドル層で、オンリーワンの能力なんか持ってないからな。オンリーワンというなら、俺はキレーなチャンネーにとってのオンリーワンでありたい。他のゴミどもがまごまごしているうちにどんどん告って好意をアピールして俺で「妥協」して貰うのだ。それが俺の恋愛戦術。
しかしそんな俺にもチョット勘弁して欲しいという女キャラは居る。俺に対する好感度が一切上がらず、よしんば上がったとしても俺と似たような考え方をする女だ。
リリララじゃない人がそうだ。
知らないゴミみたいに無断でウチの丸太小屋に上がり込んだ劣化リリララが無言で俺の向かい側のソファに座る。
……あんだけ俺をボコっておいてよくもまぁおめおめと顔を出せたな。
じゃない人はメニューをいじっているようで、目線を細かく動かしながら気負った様子もなく言う。
「ここ、何気にいいメンバー揃ってますよねー。ジャムさんに一緒に遊ぼうって誘われたんですよ」
誤解を恐れずにあえて言うならば……俺は彼女にずっと不憫キャラのままで居て欲しかった。派手にリリララコンプレックスをこじらせて一生日の目を浴びることなく生涯を終えて欲しいという欲求があった。リリララはリリララ、自分は自分などというありがちな気付きを得てしまってはつまらない。何が中間種だ。下らねえ。少しばかりパワーアップしたからと調子に乗るなよ……。
俺の中で負の情念がグツグツと煮えたぎる。
俺はメニューの操作が得意だ。ネットにあるサイトとは根本から異なったインターフェースであることを理解しており、無駄な工程をすっ飛ばして最短で必要な情報を得ることができる。
ウチの子たちのログインマーカーを確認。ログインしている。じゃない人と出掛ける予定なのか、おそらくは着ていく服を選んでいると仮定する。待ち合わせの時間は区切りの良い時間のハズ。お出掛け先を露店バザーと想定したなら開店時間から逆算して細かく時間指定をしている可能性はあるが……ウチの子たちはいったんポチョの部屋に集まってから居間に降りてくる。俺がいつも居間でダラけているので、いったん変なところがないかチェックし合うというルーティーンになっているのだろう。猶予はまだある。ありがたい。じゃない人は猜疑心が強い。コンプレックスを刺激するにも段階を踏んで警戒を解く必要がある。
俺はひとまず渋々とじゃない人の実力を認めるような発言をした。
……まぁお前はそこそこ頭がキレるからな。ウチのモンに悪意を抱いてないなら、いい。
間を置くと怪しまれる。俺は吟味する暇を与えずに続ける。ウチの子たちが居るであろう二階を意識しているフリをしながら。
お前もミスコン会場に居たなら見ただろう。メノウとかいう女……あれはたぶんジャムと同じαテスターだ。俺もハッキリしたことは言えないが……先日、ジュエルキュリが日本サーバーに来た。銀騎士を倒そうとしたようだが……目覚めた妹を探すのが本来の目的だったのかもしれない。ジャムのことを気にしてやってくれ。お前に借りを作るのはイヤなんだが、仕方ない。あの日、ジャムもミスコン会場に居た。α時代のことをどこまで思い出してるのかは分からん。以前にジュエルキュリと再会した時は思い出してなかったが、ついこの間会った時は親密な様子だった。ジュエルキュリのことは思い出していると見ていいだろう。メノウに関しては半々だが……マグナは思い出してる可能性が高い。マグナ伝てに、ということも考えられる。
続けて俺は、俺とじゃない人がさほど友好的な関係ではないことを思い出したかのように下手に出るフリをした。
ステラ。俺はお前をそれなりに高く買ってる。リリララにだけは負けたくねぇっていう根性を気に入ってンだ。まぁ俺に気に入られたからってお前は嬉しくねーだろうが……。お前はミスコン優勝者だ。良くも悪くも注目される。困ったことがあれば言えよ。借りたぶんくらい働いてやるよ。
「へえ……」
じゃない人は目を細めた。
……ど、どうなんだ? イケたか? 俺は少し弱気になった。
俺のアビリティは彼女の精彩予測のカウンタースキルという位置付けにあるが、常に未来視を防げる訳ではない。状況的に煮詰まるとアビリティは活性化するらしく、ここぞという場面では出し抜けるというだけだ。そして今はそういう場面じゃない。
しかし、じゃない人はウチの子たちと関わって腑抜けてしまったらしく、あっさりと頷いた。
「いいですよ。そういうことなら。貸し一つ、ですね。それとなく探りを入れてあげます」
やはり、と俺は確信した。闇の世界の住人は日の光が当たる場所に出るべきではないのだ。ヒュンケルが光の闘気ばかりに頼るようになって弱体化してしまったように。ダイ大ね。やっぱりポップは最高だぜ。最初の頃は敵前逃亡していたようなヤツが大魔王の必殺技をテクい感じに分解しちゃうんだからな。ありゃシビれたぜ。
俺は拍子抜けしたようにボソリと言った。
……買い被りだったかな。
「は?」
いや、気の所為ならいいんだが……。どうした? 以前のギラつきを今のお前には感じねぇ。ミスコンでヤり合った時もそう思った。お前、言ったよな。一体誰が前に進めるんですかってよ。ウチのモンと仲良くするのは結構だが、程々にな。……ポチョは弱くなった。信じられないほどに。友達が出来たからだ。俺はそう思ってる。いや、誤解しないでくれよな。否定してる訳じゃないんだ。そういう生き方もある。仲間を増やすのはいいことだろう。ただ、それは変化だよな。全部が全部うまく行く……そういう考え方を俺やお前はしない。そのハズだ。
じゃない人はそこそこ頭が回る。自覚はあるハズだ。この女はかつてエンジョイ勢を率いて攻略組を打ち破った。数の上から言えば当然の結果。しかし必勝を期して相当の無茶をしたハズ。悪どいことにも手を染めたろう。今の彼女に同じことができるとは思えない。
「……コタタマさんはいいですよね。いざって時には先生に頼ればいいんだから」
じゃない人の負の情念の高まりを感じた。いいぞ。その調子だ。俺を憎め。お前はこっち側の人間だ。ウチの子たちとは違う。
俺は内心ほくそ笑みながら神妙な顔でじゃない人の話を聞く。
「私はあんたとは違う。勝手にシンパシー感じないでくださいよ。ゲームを楽しんで何が悪いんですか……」
いいぞ。凄くイイ。後ろめたく感じているから、そういう言葉が出てくるんだ。今はこれで十分……。くさびは打ち込んだ。ウチの子たちはタレント集団だ。早晩、自分とは違う人種なのだと自ずと気が付く。その時になって俺の言葉を思い出してくれればいい。
俺は表向き、じゃない人の味方だ。
おいおい、何を言ってる? ゲームは楽しむもんだ。俺はずっとそう言ってる。イヤな気分にさせちまったか。悪かった。忘れてくれ。とにかく俺はお前がウチのモンと仲良くしてくれるならありがたいと思ってる。邪魔はしねぇさ。
……くくくっ、忘れてくれって言われて忘れるヤツは居ねえよな。あとはテキトーに喋って時間を稼いで……。いや、その必要はなさそうだ。ウチの子たちがきゃっきゃとハシャギながら階段を降りてくる。
じゃない人も気が付いた。振り返って素早くウチの子たちのコーデをチェックする。
俺は特に心配していない。以前はクソダサコーデだったスズキも俺を反面教師に随分と成長した。
ウチのちんちくりん一号の問題点は、ガキっぽい見た目をカバーしようとして変なことになる点だった。しかしヤツのガキっぽい見た目はラノベに出てくる幼女にしか見えない主人公の母親かよというレベルで、要するに全体のバランスそのものは悪くないのだ。だから変にいじろうとするとバランスが崩れて悪目立ちする。美少女と言えなくもない容姿をしてるんだから、普通に自分に似合う格好をしていればそれで済む話だったのだ。
だが、じゃない人は成長した半端ロリのコーデに不満があるようだった。
「スズキさ〜、ちょっと地味じゃない?」
えっ、そうか? 俺は素で驚いた。
俺個人としては、あんまり派手なカッコは似合わないんじゃないかと思うが……。
じゃない人が呆れたように言う。
「男の発想だね〜。ああ、なるほど……。あんたが自分の好みを押し付けたんだ? 着せ替え人形じゃないんだからさ〜。そういうのキショいよ?」
ち、ち、違わい。俺は焦った。スズキに身の丈に合ったコーデを指南したつもりだった。しかし考えてみれば、それは半端ロリに自分の魅力に気が付けと言っているようなもので……。自分の好みを押し付けるなら俺はスズキにもっと背伸びさせるべきだったんじゃないか? いや、でも、似合わないカッコさせたところで……。いや、そもそも似合わないというのも俺の感性だ。
……俺はキレーなチャンネーが好きなハズなのに、言ってることとやってることがバラバラで目眩がした。俺は間違っていたのか? 実はやっぱりロリコンのケがあるのか? 見た目よりは幼くないからと自分を誤魔化してたんじゃないか?
強い危機感を覚えて、縮こまって言う。
す、スズキがしたいカッコすればいいんじゃないか……。俺が口出しすることじゃ……。
弱っている俺に、何やら怪しげに目を輝かせた半端ロリがコーデを再審査して貰うべく、じゃない人の前に立ってくるりと回る。
「ステラはオシャレだもんね。コタタマはぁ、私があんまり派手なカッコしてると嫌がるんだよね〜。ポチョとかジャムには何も言わないのにさ〜。ひどくない?」
俺はモグラさんぬいぐるみの毛並みを手入れする。知らないゴミが好き勝手に触るもんだから悪い気がまとわりついているような気がする。俺が浄化してやらないと。
じゃない人が意味ありげに鼻を鳴らす。
「ふうん……」
……なんですか。やめてください。
向かい側のソファに座った赤カブトさんが身を乗り出して俺を凝視してくる。外見年齢を自在に変化できるという特性を持つAI娘は俺の性癖に強い興味があるようだった。とんでもない探りを入れてくる。
「……アットムくんがペタさんを希望の星だと……」
アットム……!
ポチョが俺を庇ってくれた。
「コタタマは女なら誰でもいいだけだから……! 私が薄着してるとおっぱい見てくるもん! ね? コタタマ」
そう……っスね。
俺は開き直った。
ああ、そうですよ。色んなおっぱいがあっていいじゃないか。巨乳派? 貧乳派? 下らんですよ。最終的に自分の好きにできるおっぱいなら何だっていいンです。でも、それってそんなにおかしいことですかね? 一号さんが巨乳なら二号さんは貧乳でいいじゃないですか。バリエーション豊富ってことでしょ。それに勝るモンはないんじゃないですか? 多様性ですよ。ポケモンだって同じタイプで固めないでしょ。相手が繰り出したポケモンに手持ちのポケモンでどう対処するか考えるのが楽しいンじゃないですか。ポケモンとは違うだろって? ポケモントレーナー舐めんなって話ですよ。手持ちポケモン愛せずに何を愛するんですか。
進退窮まった俺はピカチュウのモノマネをした。
ピッカー! ピカピカっ!
じゃない人が軽蔑の眼差しで俺を見てから三人娘に声を掛ける。
「……行こ」
……俺は負けてない。じゃない人の未来に影を落とすことは成功した。ロリコン疑惑をあえて完全に否定しないことでスズキエンドの可能性を閉ざさなかった。ベストの選択だったハズだ。
なのに、この敗北感はなんだ……?
俺は四人がウチの丸太小屋を出て行ってから、モグラさんぬいぐるみに顔を埋めてしくしくと泣いた。アットム……! 俺に力を与えてくれ……! お前が俺のイーブイだ……。
これは、とあるVRMMOの物語
お前が俺のイーブイとは……?
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