恋色ドクロ
1.山岳都市ニャンダム-露店バザー
室内用のチェーンを求めて露店バザーをハシゴしている。
マグちゃんにお願いすれば作ってくれるだろうが、身に付けていると刺客にキルされてルートされるからな。そうした輩は俺がチェーンをドロップすると何故か喜ぶのだ。ゴブリンの耳かよっつー。そんな討伐証明部位みたいな扱いをされても困る。
てな訳で、失っても惜しくないよう潰れても一向に構わない店で何の思い入れもない品を買おうと思っている。
しかしなかなか思い描いたものが見つからない。長さ、質感、色ツヤは良くても太さが気に入らなかったりと、これはというものに出会えないのだ。
うーん……。これ惜しいんだよなぁ。外出用ならひとまずベンチ入りさせる……それだけのポテンシャルはある……んだけど、室内用は妥協したくないっつーかぁ。なんだかんだレギュラー陣は埋まってるしぃ。
俺がチェーンを手に取ってまじまじと眺めていると、勝手に付いてきたゴミどもが後ろでゴチャゴチャとやかましい。鋲付き革ジャンをぺろっとめくって腹を晒し合っている。何をやっているのかと思えば、ベルトのバックルを見せ合っているようだ。
「いいドクロっスね〜」
「ダメージがシビーな。コイツは歴戦の勇士だぜ〜」
「目んトコがムズいんだよな〜。ズラしてもわざとらしくなるっつーかぁ」
「やっぱストーリーよな」
……ネトゲーマーは基本的にアホなので、俺のことを悪の幹部か何かと勘違いして勝手に仲間ヅラしてくる連中が一定数存在する。
そいつらはほぼ例外なく世紀末のモヒカンみたいな格好をしていて、粗野な言動が目に付く。アウトローぶっているのか何なのか、とにかく下品だ。肌の露出が多いカッコしてるチャンネーを見掛けるとヘタクソな口笛を吹いて囃し立てたりするんだぜ……?
こんな下品な連中と同類と見なされるのは我慢ならない。ゴミはゴミらしくゴミ同士つるんでいればいいものを。俺を巻き込むな。
俺は腹を晒し合ってキャッキャしているゴミどもに声を掛けた。
おい。オメェーら。どっか行け。俺に付いてくんな。
するとゴミどもは急に賢くなった。
「そうは言うが、コタタマさん。あんたを一人にしたらたちまち誘拐されるぞ」
「あんたを狙ってる男は多いからな……。買い物を続けなよ。守ってやるから」
「勘違いするなよ。俺らはPKKerだ。あんたみたいな雑魚を狩っても仕方ない」
無断で俺を介護するな。つーか、そのドクロは何のつもりだ。首狩り族みたいになってるぞ。
てっきりベルトのバックルの話だと思っていたのだが、バックルどころの騒ぎではなかった。シルバー製のドクロが大小合わせて十個以上ベルトにびっしりと張り付いている。
……正気か?
正気を疑う俺に、ゴミどもは何故か得意げだった。
「あっ、気付いちゃった? 気付いちゃったか〜」
「崖っぷち〜。そんな物欲しそうな目で見ンなよ〜」
「ったく、仕方ねーなオメェーは。欲しいなら自分の金で買えぇ。イイ店を教えてやっからぁ」
お前ら、マジか……。
俺は呆れた。
ファッションは尖ればいいってモンじゃない。それをドクロってお前……。イヤ俺はドクロそのものを否定しないよ? ワンポイントドクロは全然アリだと思う。でもそれはどう考えてもやり過ぎだろ。そんなふうにガチャガチャとドクロ付けちゃって……。
「あ? オメェーには言われたくねーな。ンだ? その肩ァ」
「トゲ生えてっし。ザクかよ」
「恥ずかしくないんか、オメェー」
ざ、ザクじゃないやい。
俺はサッと身体をひねって肩パッドを隠した。……くそっ、やはり冒険しすぎたか。イキったファッションには「初めて」の瞬間がある。言ってみれば社交界デビューであり、家ではまぁまぁじゃん?と思っていても外に出て衆目に晒すのは勇気が要るのだ。
痛烈なカウンターを食らった俺は顔を真っ赤にして反撃した。
オメェーらのドクロほどじゃねーよ! ダメージ加工がどうのと言ってたな……! 家でチマチマと傷入れてるんか? ダセーぞ!
「歴史を作ッてんだよ!」
「トゲ生やしゃイイってモンじゃねーだろ!」
「つーかそれフツーに危ねーし! 凶器じゃんか!」
黙れ! 物事には限度ってモンがあんだよ! ンだそのドクロぉ! 戦利品みてーにぶら下げてからに! 一族郎党皆殺しにしてるじゃねーか!
……でも内心ちょっとイイナと思っていた。
へ、へえ。ストーリーがあるんだ……? それって、世界で自分だけのドクロって、コト? なんか、ちょっと、ジーンズみたい、じゃん……?
俺は激しく口論を続けながらチラチラとゴミどものドクロを見る。
ふ、ふうん。微妙な角度の違いとか、あるんだ……? あの目んトコの三本線とか、なんか、シャンクスみたいじゃん……。ワンピースね。
ゴミめらも口論の傍ら俺の肩パッドをチラチラと見てくる。ば、バレちゃってるかな……? 実はこのトゲ、クッパモチーフなんだ、よ……? ザクじゃなくて、クッパなの。俺の……こだわりポイント。
俺たちは口喧嘩をしながら売り言葉に買い言葉の要領で情報交換していく。
ああ、そう。取り扱ってる店はまだそんなに多くないんだ? ふうん……。い、いや、俺は別に興味ないけどね? へえ……。ダメージ加工にはコツがあんのね。ひ、ひびが入ってるように見えるやつがあるんだけど、それはどうやってんの……? コーティングにそんな方法が……!?
い、いやいや、両ショルダーはさすがにやりすぎっしょ。まずは片ショルダーから入らないと……。だから蛮勇だってぇ! やだっ、もー!
俺たちはどンだけのモンか見てやンよー!とか言いながら連れ立ってオススメのお店に向かうことにした。ついでに鋲付き革ジャンの新作とチェーンを見て回る。
買い物を終えた帰り道。俺のベルトには腰の辺りに一つのドクロが付いていた。ゴミたちがまとめ買いはオススメしないと教えてくれたのだ。それもまたストーリーだと……。
俺は服の上からそっと腰のドクロを撫でた。俺だけのドクロ……。この子を育てていくんだ。
2.クランハウス-居間
そんな経緯もあり、スズキのコーデをチェックしている俺は少しアンニュイな気分だった。
恥ずかしそうに身をひねったスズキが片手をサッと伸ばして、言葉少なに尋ねてくる。
「ど、どう?」
俺は定期的にウチのちんちくりん一号の服装をチェックしている。この半端ロリは素材は決して悪くないのに、壊滅的なファッションセンスをしていて、放っておくとパジャマみたいな格好で外出しようとするからだ。
パジャマが悪いとは言わない。しかし服装とはトータルコーディネートなのだ。パジャマみたいなズボンにパジャマみたいな上着を合わせたら全身パジャマになる。
俺は頭を抱えた。ウゥッとうめく。
「え? え? だ、ダメだった?」
……スズキ。成長したな。
俺のたび重なるダメ出しにより彼女のファッションセンスは磨かれ、今やどこに出しても恥ずかしくない劣化ティナンとなっていた。もはや俺が口出しする必要はないだろう。いや、正確には結構前からそんな感じだった。ただ、新しい服を買ったら着て見せてくれるのが楽しくて、ずっと続けてきたのだ。
問題は、スズキのコーデに合格の判を押した俺の服装が世紀末のモヒカンみたいになっていることだった……。
世紀末ファッションは女ウケが悪い。そりゃそうだ。このトゲは一体何なんだ。何のために付いてるんだ。この、首にジャラジャラ巻いてるチェーンは何だ。オシャレなんて次元じゃねえ。太いし、重い。極め付けに日々増えていくドクロを育てている。
自覚はある……! あるが……! イイナと思う心を止められねえ……! 日参してる……! ドクロ……!
……今の俺にスズキのコーデをチェックする資格はない。俺のセンスは死んだ。
惚れた女の前で涙は見せられない。俺は漏れかける嗚咽をぐッと堪えて顔を上げた。今日も合格コーデのスズキを見つめてニコッと微笑む。
綺麗だよ、スズキ……。
「な、なに? 嫁入り? 私、お嫁さんになるの?」
俺は鋲付き革ジャンの裾をぺろっとめくってベルトを見せた。育成中のドクロがガチャガチャ付いているベルトだ。
スズキが「あっ……」と察した。
少しはマトモな感性を身に付けたちんちくりん一号からすれば、世紀末ファッションは常軌を逸したものである筈だ。俺とて最初からこうだった訳ではない。この女は俺のセンスがだんだん狂っていくのを目の当たりにした一人だ。ばっちりキメて借金取りに向かう俺に苦言を呈したこともある。その時、俺は舐められたらオシマイなんだよとか何とか反論したと思う。好きでこんなカッコをしている訳ではないと主張した。
それが、今となってはこのザマだ。
あるいは……スズキのパジャマコーデは一周回ってオシャレだったのかもしれない。俺は自分の好みを押し付けて、彼女の可能性を閉ざしてしまったのかもしれない。
スズキは美少女と言えなくもない容貌をしていて、多少変なカッコをしていても、きっとどこかに需要はあった。最先端を行くファッションがコスプレや仮装にしか見えないのと一緒だ。
だから……スズキのパジャマには、きっと彼女なりの「意味」があったのだ。
なのに、俺は……。
俺は……もうスズキのとなりを歩いてやることはできない。
しゅんとして落ち込む俺に、スズキが意を決したように口を開く。
「わ、私。私……コタタマのカッコは変だと思う。だ、だから」
だから……?
スズキが項垂れる俺の手をそっと握る。
「今度は、私がコタタマを見てあげる……! 二人で、がんばろ!」
す、スズキ……。
彼女の手のぬくもりが伝わってくる。
俺の鼓動が伝わったかのように彼女の白い喉が震えて、小さな唇が微かに上下した。
テーブルの上には皿が乗っていて、切り分けられたフルーツの脇にフォークが置いてある。
彼女から目を離せない。どれだけ見つめ合ったか。どちらからともなく、俺と彼女の距離が徐々に縮まっていく。
ボテッと床に落ちたもぐらさんぬいぐるみの瞳だけが、重なり合う二人の影をじっと見つめていた……。
これは、とあるVRMMOの物語
フォークでそんな?
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