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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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二人の使徒

 1.山岳都市ニャンダム-怪しい酒場


 露店バザーの裏通りには裏市と呼ばれる怪しい倉庫が立ち並んでいる。

 メインストリートから外れるため客足は遠のくし治安も悪いが、後ろめたい人生を送ってきた連中にとっては過ごしやすい環境ではある。言うなればゴミの溜まり場といったところか。

 もちろん俺はそんな連中とは違うが、表通りでメシを食ってると刺客が襲い掛かって来るので仕方なく裏市の酒場を利用することもある。

 カウンター席で酒のおかわりを注文すると、そう間を置かずにミルクが出てきた。客が少ないので注文したらすぐに出て来るのもこういう店のいいところだ。俺はミルクをぐいぐいと飲んでいく。いいミルクだ。頼んだのは酒なのだが、俺の酒量制限を知っている店だとポチョさんの許可が降りないと二杯目はミルクが出てくる。文句を言っても酒が出てくる訳ではないので、俺も無駄な努力はしない。

 昼間だと言うのにカーテンを閉め切った店内は薄暗い。壁際にずらりと設置された簡易ギロチンセットは警察ティナンのガサ入れを想定したものだ。店内に疎らに散る客はどいつもこいつも無言でもそもそと空腹ゲージを埋める作業をしている。こんな店に来るくらいなのだから、よほど後ろめたいことがあるのだろう。

 と、窓側の席に座っていた客の一人が突然ガタッと席を立って叫んだ。


「マズい! スマイルだ!」


 悪態を吐いた客どもが食事を途中で切り上げて壁際の簡易ギロチンセットに殺到する。

 しかしスマイルくんのほうが一手早い。

 スマイルくんの手下が窓を突き破って店内に侵入してきた。とっさに自害しようとした客は石つぶてを浴びて武器を取り落とした。


「食事中にすまないね」


 スマイルくんは堂々とドアから店内に入ってきた。アオとミドリを従えて、ぐるりと店内を見渡す。


 一級臣民狩りだ。

 バレンタインイベントの爪痕は未だに残っており、その最たるものが一級臣民の称号を持ち逃げしたもぐらっ鼻であった。

 スマイルくんは称号の付け直しをするために臣民に出頭するよう命じたのだが、棚からぼたもちで一級臣民の称号を手にしたもぐらっ鼻は出頭命令を無視した。

 不当に低級扱いされたうさ耳の称号を再審査し終えたスマイルくんは麾下を率いて一級臣民狩りを始めたのである。


 サーバーの頂点に立つ君主は臣民の等級を見ることができる。

 退路を断たれた客どもをスマイルくんが指差した。

 称号を付け直されると悟った客どもが雄叫びを上げてスマイルくんに襲い掛かる。

 だが、そもそも審査を通るだけの実力があるならコソコソと隠れるように暮らす必要はない。

 進み出たアオとミドリがゴミどもを切り捨てていく。つまらなそうにしているアオとは対照的にミドリは楽しそうだ。


「レベル低いな〜。ほら、後ろ。私たちだけに集中しちゃダメだよ〜? だからってそんな後ろを振り向いちゃダメでしょ。ハイ0点」


 ゴミの首を斧で刎ねたアオが「無駄口を叩くな」とミドリを叱って、すぐに「隊長?」とスマイルくんに目配せをする。

 スマイルくんがゴミの死体をまたいで言う。


「いいぞ。終わった」


 称号の付け直しが完了したようだ。俺の隣の席に座ると、椅子ごと身体の向きを変えて再審査に移る。


「ひとまず全員を三級とした。一級だった頃とあまり変わらないだろう? しかし感覚は微妙にズレるぞ。アオとミドリに集中しろ。背後の者たちには手出しさせない。これはと思った者は昇格させる。そのつもりでな」


 メンド臭いことやってんなぁ。わざわざ攻め込まんでも目に付いたヤツを片っ端から三級にしちまえばいいんじゃねーか?

 俺がそう言うと、スマイルくんはチラッとこちらを見てフッと微笑んだ。


「訓練を兼ねてるからね。マスター、私にもミルクを」


 如才なく注文をして続ける。


「コタタマくん。君は一級臣民でいいと私は思っている。私を殺して君主のジョブを奪った訳だからね。君自身はどう思う?」


 いや、やめとくよ。スマイルの旦那。あんたはプレイヤーを等級付けて軍隊にしようとしてるんだろ? 階級を分けておけばプレイヤーを分割できる。するってぇと一級臣民には一番キツい仕事が割り振られるワケだ。俺は二級でいい。


「そうだとしても黙って従うタマじゃないだろうに。尋ねたのは失敗だったかな? 君は天邪鬼というか、こうしろと言われたら反論から考える癖がある」


 スマイルくんは俺と話しながらゴミどもの戦いぶりを観察している。

 このサトウシリーズ御大がやろうとしているのは指揮の受け皿を作ることだ。

 従来の戦法では職ごとに分けて動かすことしかできなかったプレイヤーを、等級という新たな属性を与えて管理しようとしている。

 さらに細かく分割すれば練度を揃えることもできそうだが、今はまだその段階ではないのだろう。

 凄いことを考える男だ。俺も一度は称号を与える立場になって初めてそこに考えが及んだ。ゴミどもは指揮官の命令をしばしば無視するが、惰性で動く性質を持つ。彼らが私利私欲にリソースを割く余裕を失った時、スマイルくんは臣民を自在に操れるようになるだろう。つまり命令しやすいように自己の定義を与えるというのがスマイルくんの真の狙いだったのだ。……俺とは思考のスケールが違う。

 だから俺はスマイルくんの誘いを断った。この男は一級臣民の中に声がデカい俺を放り込んで楽をしようとしていると感じたからだった。

 黙って従うタマじゃないだろうって? とんでもない。レイド戦の終盤にいちいち反抗してられっかよ。長丁場のレイド戦では脳死で命じられるままに戦う場面が多い。そんなことは百も承知だろうに、思考のスケールを俺に合わせて、それは単なる逆張りだろと言うのがスマイルという男の恐ろしさだった。

 この男の恐ろしさを知らないから、ゴミどもは僅かなステータスの向上というエサに釣られて戦う。それが自分の利益になることだと信じて。しかしそうではないのだ。それはスマイルくんにとって必要なことで、自分が何者であるか名付けられることの危険性をゴミどもは知らない。俺も吹聴して回るような真似はしない。自分よりも頭のいいやつに逆らうのは損だからだ。


 知らないゴミが跳んだ。アオの頭上をとる動き。アオが一歩下がって斧を低く構える。前に踏み出すと共に斧を跳ね上げた。

 アオは捻流を打ち破ることに執念を燃やす男だ。捻流の空中殺法は強力なワザだが、最後に問われるのは個人の力量だ。

 知らないゴミの首が刎ねられ、俺のほうに飛んでくる。予見したようにスマイルくんがぐいと俺の肩を抱き寄せた。お陰様で衝突を避けることができたものの、礼を言うのも癪なので俺は皮肉を口にする。

 大したモンだ。あんたも、アオも。

 スマイルくんはすぐに俺の肩から腕を離した。グラスに注がれたミルクを口にしながら、


「そうやってレイド級にも取り入ったのかな? クリスピー……だったか」


 なんの話だ? 俺はすっとぼけた。

 スマイルくんが意に介さず続ける。


「ルリイエ……いや、コタタマくん。以前にも言ったろう。宗教というアウトラインは受け皿が狭い。ハッキリと時代遅れだと言っていい。やり方を変えたほうがいい。たとえ中身が同じだとしてもね。君ならできるだろう」

 

 地下の集まりのことか? 旦那。俺は宗教をやっているつもりはないぜ。先生が宗教はやめろと言っていたからな。つまり俺がやっているのは宗教じゃないということになる。


「フッ、物は言いようだな。詭弁にしか聞こえないが……」


 決着が近い。スマイルくんがカウンターにミルクの代金を置いて席を立つ。店内で暴れた弁償も兼ねているのだろう。気前良く大金をポンと支払ったスマイルくんにマスターもにっこり。この辺の店は基本的に前払いなのだが、話の腰を折ってまでスマイルくんにそれを言い出すことはしなかった。代金を踏み倒すようなケチな真似はしないし、きっと弁償をしてくれるという期待があったのだろう。スマイルという男にはそうした信用を得るだけの品の良さがあった。

 去り際に俺の肩をポンと軽く叩いて言う。


「彼の信仰はいずれ試されることになるだろう。彼がレイド級という立場に甘えていなければいいが」


 ……宗教は流行らないんじゃなかったか?

 スマイルくんはゴミの片付けを終えたアオミドリを労い、酒場を出て行く。最後に一度だけ振り返って言った。


「私は先生を神と崇めたことは一度もないよ。かけがえのない友人であり、そして父だ。母かもしれない。それだけのことさ」


 スマイルくん一行が去ったあとに俺はやれやれと肩を竦めた。

 ぬるくなったミルクで唇を湿らせながら内心で呟く。

 そういうのを神と言うんだ。自覚がないのか。相変わらず狂ってやがるな……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 お前もな。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルからクリスピー氏以外の使者がくるかと思ったら、スマイル氏…
[良い点] 世紀末のゴミとセクハラしか存在しない(神除く)小説なのにこういう視点の話があるからホント好き [一言] 神が神なのは宗教じゃなくて単に現実を言い表しただけ!物理学とか数学と同じ! あ、セク…
[一言] え?スマイルの旦那、赤いパイロットスーツ着た情けないおじさんみたいな心境になってんの?
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