↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
694/990

戦争の日

 1.ポポロンの森-人間の里


 このゲームはドラクエやFFのような超メジャータイトルという訳ではないので、深夜は普通に過疎る。

 普段は巨人がうろつき回る人間の里もこの時ばかりは魔境ぶりが鳴りを潜めていた。

 バレンタイン、前夜。

 今年の2月14日は月曜日だ。何か日本史を揺るがすような大発見があって建国記念日がズレるといったこともなかったので、バレンタインといえどそれを理由に学校や会社が休みになることはない。いや、大半の会社は元より祝日なんか関係ねえとばかりに通常営業か。

 普段ならこのまま過疎る一方なのだが、この日は少し様子が違った。

 現在時刻は23時59分。もう少しで日が変わる。3、2、1……時間だ。

 ぽつぽつとプレイヤーたちがログインしてくる。そして時を同じくして地べたにボトッと落ちて転がるプレゼント。ログインボーナスだろうか? 綺麗にラッピングされたそれをプレイヤーたちがもるもると嬉しげに鳴いて拾い上げる。

 そう、今日はバレンタイン。運営ディレクターのョ%レ氏が義理チョコをくれると言うので、普段なら寝ている時間にログインして仲間と一緒に食べるのだ。

 高慢ちきな運営ディレクターが絶対の自信を持ってお送りする義理チョコである。クランメンバーとあれこれ感想を言い合うのはきっと楽しいだろう。

 義理チョコを手にウキウキ気分で仲間たちがログインしてくるのを待つ。


 人間の里がエンフレの暮らす街となって久しい。巨人が闊歩するこの街は、もはや人が生きていける環境ではなかった。かつて建ち並んでいたクランハウスは撤去され、エンフレを整備するための施設が所狭しとばかりに設営されている。

 施設の規模に比して矮小な種族人間が寄り集まるのは明日の身も知れぬ小動物が肩を寄せ合うような健気さと哀愁があった。

 ……最初に気が付いたのは誰だったか。

 軽く咳き込んで、仲間に心配されて笑顔で何でもないと手を振る。エンフレが飛び立った余波で大気中を舞った砂ボコリが気管に入るのは珍しいことではなかった。

 習慣的に口元を手で覆ってこんこんと咳をする。仲間たちがギョッとした。指の隙間から血のしぶきが飛ぶ。ドロリと血を吐いた仲間がぐるんと白目を剥いて倒れた。

 倒れた仲間に駆け寄ったプレイヤーたちがギョッとして顔を見合わせる。鼻血が止まらない。すぐに先に倒れた仲間と同じように咳き込む。

 勘のいいプレイヤーが血を吐きながら叫ぶ。


「罠、だ……! ログ、インを……!」


 まだログインしてない仲間にログインするなと言いたかったのだろう。

 しかしその言葉は途中で途切れた。先に倒れた仲間がボロンと義理チョコをドロップしたのを目にしたからだ。

 ハッとして義理チョコの包装に手を掛ける。

 毒だ。毒を撒かれた。狙いは何だ? 義理チョコだ。優先ドロップの仕様。死ねば義理チョコを奪われる。ならば食われる前に食うしかない。

 しかし彼の身体を蝕む毒は彼が思うよりも強力なものだった。気化毒というものは個人で扱えるレベルではそう大きな脅威ではない。大気中に散布したところですぐに散逸して薄まってしまうからだ。

 一瞬【巫蟲呪画】を疑ったが、そうではない。感染の仕方が違う。毒を運んできたのは人間の里に吹きおろしてきた風だ。つまり風上に、この毒を撒いた実行犯が居る。

 苦し紛れにアビリティを作動した男が風上の方角を見る。

 薄れゆく視界の中、ザッザッとガスマスクを付けた男が歩み寄ってくる。


 そう、俺である。

 俺は手下どもに義理チョコの回収を命じた。当然、俺と同じくガスマスクを装着している。

 大漁、大漁。ゴールデンタイムに毒を撒こうかと思ったが、エンフレに毒は効かねーからな。この時間帯がベストだった。

 思わぬ収穫もあった。

 どこからともなく差し込んだ赤い光が俺を照らす。

 アナウンスが走る。


【王は一人】


【条件を満たしました】

【イベント】【王位の簒奪】【Clear!】

【Class Change!】

【コタタマ さんが君主にクラスチェンジしました!】


 おいおい。スマイルくんよ〜。毒への対策を怠ってたのかい? 俺はあんたを買い被ってたのかもな。

 手下の一人が俺の肩にふさふさした豪華なマントを羽織らせてくる。差し出された金ピカの王冠を俺は頭に被った。取り出したゴツい指輪を指に嵌めていく。

 俺がKINGだ。

 くくくくっ、ふははははははははは!

 哄笑を上げる俺を矢継ぎ早に走るアナウンスが取り巻いていく。


【警告】

【強制執行】

【逆臣の処刑】

【消えゆく定め、命の灯火……】

【誰も救えない】

【王は一人】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:君主の殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【二級臣民】

【君主】【コタタマ】【Level-1】


 ああ、逆臣の処刑なんて思考制限もあったな。スマイルくんやマジュンくんが当たり前のように動いてるから忘れてたよ。

 逆臣の処刑を制御するためのカウンターコマンドは大局観だろう。以前にスマイルくんがそれらしきことを言っていた。どんなゴミだろうと臣下と見なす度量があれば強制執行に抗える。

 もっとも俺には必要ねえかな。

 イイ気分だ。

 長いトンネルを抜けたような……感覚が研ぎ澄まされていくような。

 これが君主か。かつてないほどの力が湧いてくるのを感じる。

 これだけの力があって……何かを我慢する必要なんかあるのか?

 そうだ。俺に逆らう奴は皆殺しにしてしまえばいい。

 手始めに……。


 アンパンの作ったD-a3はたしかに強力な毒だが、気化毒という性質上どうしても散布密度に偏りが生じる。

 かろうじて生き残った連中が死んだフリをして地べたに転がっている。

 全て見えている。承太郎みたいにスタンドで自分の心臓を掴んで鼓動を止めるって訳にゃ〜行かねえからな。

 俺は生き残った連中の中心に居るゴミを指差した。嬌声を上げて四人の生贄を捧げてリングを形成する。

 やはり俺は間違っていなかった。【四ツ落下】の真価はむしろ種族人間を空間指定の材料にできることにある。

 リング内に吹き荒れた超重力の嵐がごみどもをぶちゅっと潰した。

 ここからは女神像が近い。そろそろ死に戻りしてくるな。俺は【八ツ墓】を連続して放って魔法環境を切り替えていく。その合間に女神像がある方角を指差した。チカッチカッと光が瞬く。女神像のある地下祭壇を這い出てスラリー(速い)で一気に距離を狭めようとした連中がたたらを踏んで、俺の【夢死暗澹】で八つ裂きにされた。

 おいおい、ヌルゲーじゃねーか。こんなのどうやって負けるんだよ? 逆に教えて欲しいね。

 いや、あるいは……俺が強すぎるのかもしれない。

 神に認められ、君主となり……名実共に王となった。

 この俺こそが真の王なのだ。

 真の王は一人。

 ジョン・スミス、李信馬准、そしてグレゴリオですら……今の俺の敵ではない。

 この俺こそが世界最強のプレイヤー……。


 兵の一人が俺に跪いて報告してくる。


「KING。この場の義理チョコの回収を終えました」


 この場の、か……。

 俺に王になれと言うのか。


「いえ……。あなたはすでに王だ。手にあるものを自由にすることの、一体何が罪なのでしょうか……」


 よかろう。そうせよ。


「はっ……!」


 戦争が始まる……。

 いや、戦争ではない。

 本来のあるべき形に戻すだけのこと……。

 そんな簡単なことすら分からない下等人種は俺の国には不要。

 そう、これは粛清だ。粛清を始めよう。




 これは、とあるVRMMOの物語

 マッハで力に溺れた。



 GunS Guilds Online



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと強いの笑うんだけど。
[一言] 手下は査問会かな? ノリノリで楽しそう
[一言] 調子に乗ってるコタたま本当に好き。次回から一人称が「余」になってそう。いつもはすぐに、レベル不足による力不足ですぐやられるけど、今回はいつまでもつかな。楽しみだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。